第三十三話
進化に伴いメデュアの魔法が止まり、ケルキュースの周辺からまた毒沼に変わってしまっていた。
「まずはあちらの対処からしなければなりませんね。」
さっと手を振るうメデュア。
地面がどんどんと凍りつき、再び氷の大地が広がった。
「さて、エウラ。先ずは貴方からです。」
「お姉様……。そんな……。どうして……。」
「私の魔力を、封じていましたね?」
その問いかけにエウラは大きく目を見開き、驚きの表情を浮かべる。
「魔人へと進化する際、体の奥深くに存在する澱んだ魔力の塊が取り除かれました。……あれは貴方の仕業。私の成長を妨げていた呪いですね?」
「私が……。私が、お姉様を……守って差し上げなければならないのに……。お姉様は……お姉様は、弱く無ければならないのですっ!」
メデュアに焦点のあっていない目を向けたエウラは得意とする闇魔法の『闇の鞭』や『闇弾』をメデュアに向けて乱発する。
が、その悉くがエウラの氷魔法に防がれ、相殺されてしまった。
「私は、貴方の思い通りになるつもりは有りません。そして貴方を、私が許すこと決してありません。」
放った魔法の全てを防がれ茫然と立ち尽くすエウラに、そんな決意表明とも取れる宣言したメデュアは、蓮を自分の後ろに庇うように立ち、自らの両目を覆い隠している黒い布に手をかける。
「蓮様。少しの間、私の視界に入らないようにお願いします。まだ制御が完璧ではありませんので。」
メデュアはすっと手をかけた布を下にずらす。
ゆっくりと開かれた両目には魔法陣が浮かび上がっていた。
「他人に縛られ、自分の意思で動くことの出来ない苦しみを知りなさい。」
「な、何をなさって……」
メデュアの視線を受けたエウラは、その鋭い眼光に思わず後退しようとする。
が、足が固まったように動かない。
「っ!!あ、足が……足が石に……。」
「私の魔眼——『石化の魔眼』の能力です。安心してください。意識だけは残りますから。」
メデュア氷のように冷たい視線でエウラを見つめたままそう告げる。
「い、嫌!嫌よ!私はただ、お姉様と二人で……」
エウラはメデュアの言葉が示す残酷な最後を正しく読み取り激しく取り乱し、目からは涙が溢れ出す。
蓮とメデュアが見つめる中、足から始まった石化は徐々に上へと侵食していき、ついに首元まで石化してしまった。
「お姉様……助けて……。ごめんなさい……。どうか、どうか許して……」
「言ったでしょう。貴方を許すことは決してないと。貴方は救いません。……あの日のようには……。」
その言葉を最後に、エウラは全身を石に変えた。
メデュアは目を閉じ、黒い布で再び両目を覆い隠した。
「メデュア……」
「蓮様。やっと直接言葉を交わす事ができるようになったのでたくさんお話ししたいところですが、お母様とステナの対処が終わってからにしましょう。」
蓮は喉元まで出掛かっていた言葉を一度飲み込み、言葉を返す。
「……うん、そうだね。これが終わったらいっばいお話ししようね。」
「はい。では、先ずはクロの援護から——」
「その必要はありませんわ。」
蓮とメデュアは声の方を向く。
そこにいたのは声の主であるステナと困惑した表情を浮かべ、戸惑った様子のクロであった。
「ステナ……。エウラの能力は解けたのですね。」
「えぇ。この首輪も、ただの隷属の首輪になれば私には効きませんわ。」
ステナはそう言って首につけられた隷属の首輪を引き千切り、地面に投げ捨てた。
「……話はエウラから全て聞きましたわ。お姉様が私を殺して主の座を自分のものにしようとしているというのも、お母様達を罠に嵌めて亡き者にしたというのも、全てが嘘だったと……。もう、私にそちらと争う理由も、その意思も既にありませんわ。」
「……そうですか。では、貴方はそこでじっとしていなさい。クロ、蓮様の護衛はお任せします。ステナからは目を離さないように。妙な動きをしたら即座に始末してください。」
「お姉様!私も——」
「貴方を完全に信用した訳ではありません。……それに、魂に干渉され、弱った今の貴方では足手纏いです。」
ステナは悔しそうな表情をして顔を伏ると、それ以上言葉を続けることは無かった。
「蓮様、私はルー様達の援護に行って参ります。くれぐれもクロのそばを離れないように。いいですね?」
「うん、わかったよ。気をつけてね。」
はい。と蓮に一言返事をしたメデュアは、足早にルー達の援護へと向かう。
そこには理性無く、無差別に暴れ回るケルキュースの姿があった。




