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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第三十二話


 ルー、ナクタ、アシュラの三人が分身体の対処に追われている時、戦場となった崩れ落ちた屋敷前から少し離れた場所で蓮は回復魔法と解毒魔法を必死にかけ続けていた。

 無尽蔵とも言える膨大な魔力を持ち、治療系統の魔法に天才的な才能をみせる蓮ではあるが、ナクタを除く自身を含めた五人に同時かつ継続的に魔法をかけ続けるのは相当な負担になっていた。

 身体に押し寄せる疲労感に耐えながら、額から流れ落ちる大量の汗を拭いもせず、懸命に魔法を発動していた。


 その隣でメデュアは蓮の魔力を借り受けながら、ケルキュースによる毒沼への地形変化に必死に抵抗していた。

 蓮の配下、眷族の中で最も広範囲魔法を得意とするのがメデュアであり、現在その才能を遺憾無く発揮していた。


 そんな二人の護衛を任されたクロは、鋭い嗅覚でこちらに向かって来る二人組の存在を察知し、即座に『纏:業炎』を発動して迎撃体制をとった。


「お母様相手によく耐えておりますわね。まぁ時間の問題だとは思いますけどね。うふふ。」


 そう言いながら姿を表したのはエウラ。

 共に未だ苦しそうな表情を浮かべるステナがいるが、先程のように言葉を発することはできないようで、何も言わずにエウラの隣に立っており、その右手には刺々しい荊の鞭が握られている。


「さぁ、お姉様。お迎えに上がりましたわ。私、お姉様がいない間に頑張って邪魔者を始末致しましたのよ?昔のように褒めてくださるかしら?うふ、うふふふふ……」


 満面の笑みを浮かべてそんな事を言うエウラの姿に蓮は違和感を感じたが、言葉を発する前にクロの放った炎弾がエウラ達を襲う。


「……躾のなっていない飼い犬ですこと。ステナ、だらしのない飼い主の代わりに躾けて差し上げなさい。」


 魔力障壁を貼り、クロの魔法を防いだエウラはステナに命令する。

 ギリッと奥歯を鳴らしエウラを睨みつけるステナだったが、首につけられた呪具と『霊縛者』の能力に抗えないようで、手に持つ鞭をクロにめがけて振るい、クロとステナの戦闘が始まった。


「さぁ、お姉様。これからは私と二人で過ごしましょう?偽物の家族ごっこではなく、本当の家族である私と。」


「ねぇ、お姉さんはさっきから何言ってるの?メデュアを追い出したのはお姉さん達でしょ?意味がわからないよ。」


「今、私はお姉様と話しているのです。邪魔をしないでいただけますか?」


 エウラはギロリと鋭い視線を蓮に向ける。


「メデュアのお母さんにも酷いことして一体何がしたいの?あのステナって人だって家族なんでしょ?」


「いいですか?あいつらは家族なんかじゃありません。私の家族はメデュアお姉様ただ一人。私をあの恐怖から救い出してくれたあの時から、メデュアお姉様は私だけのたった一人の家族なのです。」


 エウラは更に話を続ける。


「ステナに連れられ森に出た私は当然他の魔物に襲われましたわ。まだ幼く弱かった私達は全く歯が立たず、それはもうこっ酷くやられましたわ。ステナは私を置き去りにして一人で逃げたし、残った私は死ぬ寸前でした。そこに現れたのが他でもない私の愛するメデュアお姉様でしたの。」


 チラリとメデュアに視線を向ける。


「屋敷に私達二人の姿がない事に気が付いたお姉様はすぐに私達を見つけ出し、私を殺そうとする魔物を始末してくださったのですわ。その時思いましたの。私を捨てたステナも、愛するお姉様を私から取り上げるお母様だって、皆を消せばお姉様は私だけの物になる。私だけを見てくれると。」


 理解不能な理論を展開するエウラに、蓮は唖然として言葉を発することができない。


「この島にやってきた人間が持ってきた隷属の首輪を私の魔法で強化し、『魂縛者』の能力と併用してお母様や主要な面々を縛り、要らない者は処分しましたの。優しいお姉様は心を痛めるでしょ?だからあの自尊心の高いステナを誘導して一度外に出てもらったのですが、まさか追手まで差し向けるとは予想外でしたわ……。」


 エウラは心底不愉快そうにため息をついた。


「まぁその点だけは貴方に感謝しておりますわ。あそこで私が出ていけば、折角の計画が台無しになるところでしたから。ですが、もう貴方達は用無しですわ。お母様を完全に掌握した今、もはや私達の障害となるものは無くなりましたから。さぁ、お姉様。私と一緒に参りましょう。あの日とは違って私がお姉様を守って差し上げますから。」


 さぁ、とエウラはメデュアに手を差し出す。

 しかし、その手に飛んできたのは氷の刃。


「っ!!お姉様?何故……何故ですの……。何故私の手を取ってくださらないのですか!?」


 エウラは目を忙しなく動かし動揺した様子を見せる。

 そして、その目に映し出されたのは蓮の姿。


「お前が……お前のせいでお姉様が変わってしまったのですね!許しません!今すぐ死になさい!『闇のダークネスウィップ』」


 憤怒の表情で放たれたエウラの魔法が蓮を襲う。

 メデュアはすぐさま氷壁を張りエウラの魔法を防ぐ。

 が、一本の魔法の鞭が氷壁をかわし蓮の腕に一筋の傷をつける。

 蓮は痛みに顔を歪め、傷から血が流れる。

 その姿を目にしたメデュアは自分の中で何かが弾ける感覚がした。


《進化を開始します。》


 機会音声のような声がメデュアの頭の中に響き、意識が闇に飲み込まれていった。


「お姉様!?まさか……」


 魔力の奔流と共にメデュアは灰色の卵に包み込まれた。


「メデュア!?もしかして、これって進化!?」


 蓮の目の前に存在する魔力の迸る卵。

 それはナクタから聞いた魔人への進化の光景にそっくりだった。


 ピキピキと音を立ててひびが入る卵。

 次の瞬間、眩しい光と共にその殻が完全に割れ、バラバラと崩れ落ちる。

 中から現れたのは灰色の長髪を風に靡かせた一人の女性。

 目元は黒い布で覆われ、クラシカルなメイド服を身に着けている。


「メデュア……だよね?」


「はい、蓮様。貴方の眷族のメデュアでございます。」


 魔人へと進化を遂げたメデュアは恭しく礼をすると、驚きを隠せないエウラの方に向き直り、こう告げた。


「蓮様を傷付けるものは何人たりとも許しません。……それがたとえ、実の妹だとしても。」



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