第三十話
蓮達一行は霧に包まれた毒沼の森の中を駆け抜けていた。
ナクタとメデュア以外のメンバーは淡い光に包まれている。
これは蓮の解毒魔法による光。
この場所にいると徐々に毒が蓄積していく為、毒耐性を持つナクタとメデュア以外のメンバーは常に解毒を行いながら進む事になった。
ルーはクロの背に乗りながら魔法をかけ続ける蓮に声をかける。
「蓮、魔力量は問題なさそうですか?」
「うん!大丈夫!全然減ってる気がしないよ!」
「そうですか。何かあればすぐに言ってくださいね。……っと、見えてきましたね。」
前方に開けた場所が見えた。
森を抜ると、そこは庭園であった。
毒々しくも綺麗に咲き誇る花々が目に入る。
そして、その奥に見えるのは大きな御屋敷。
棘の生えた蔦が壁面を覆っており、不気味な雰囲気を漂わせている。
その屋敷から少し離れた場所で一行は足を止めた。
御屋敷の入り口の前には人影が見える。
「お久しぶりですわね、メデュアお姉様。お元気そうでなりよりですわ。」
屋敷の正面入り口のすぐ前に立っていたのはエウラ。
口元に手を当ててクスクスと笑っている。
「シュロロロロロ」
「はい?お母様はどこか、ですって?あー、あの女なら御屋敷の中にいらっしゃいますわよ?……皆と一緒に、ね。」
メデュアの質問に、エウラは笑みを深めてそう返答した。
「そちらがお姉様を保護してくれていた亜人の方ですわね?お礼申し上げますわ。それにここまで連れ戻してくださるなんて、なんて素敵な殿方なんでしょう。」
「連れ戻すときましたか……。なんとも都合の良い頭をお持ちのようですねぇ……。」
「あら、照れ隠しですの?可愛らしい所もおありのようで。うふふっ……」
「そちらは可愛らしいのは顔だけのようですね。なんとも残念なことです。」
「あらあら、うふふ……」
「ふふふふふふふ……」
ルーとエウラは笑顔で言葉を交わす。
しかし、その二人の間では魔力がぶつかり合いお互いに牽制し合っていた。
すると、エウラの背後にある扉が開く。
「エ、ウラ……。ぐっ……。エウラ!私に……ガハッ、ゴホッ……。私に!何をした!」
開いた扉から出てきたのは、胸を押さえ、苦しそうに顔を歪めるステナであった。
「ステナお姉様……。まだ、動けたのですわね。流石にこの短時間では縛れませんでしたか……。まぁいいですわ。」
エウラはステナに向けて黒い魔法球を放った。
苦しむステナにその球が当たると縄状に変化し、ステナを縛った。
「ぐっ!エウラ!すぐにこれを解きなさい。解けって言ってるのよ!」
「お姉様はそこでおとなしくしていて下さいませ。」
もがくステナを放置して、エウラはくるりとルーたちの方へ向き直った。
「さて、では始めましょう。」
エウラはパチンと指を鳴らした。
「なにを……。」
「ジュオオオオオオオオオオ!!!」
ルーが呟いたその瞬間、エウラの背後にあった屋敷がガラガラと崩れ落ち、数十メートルは有ろうかという巨大な蛇が姿を表した。
紫色の鱗に覆われて、額には同じく紫色の水晶のようなものが輝いている。
その姿はメデュアにそっくりだ。
しかし、黒フードの男と同じ様な黒い痣の様な模様が全身にびっしりと浮き上がっている。
「さぁ、お母様。大切な娘が帰ってきましたよ?盗人には罰を与えないとね?うふ、うふふふふふ。」
巨大な蛇——ケルキュースはメデュアの姿を瞳で捉えると、周りを囲むように立つ蓮達5人をじっと見回す。
エウラの無茶苦茶な言い分に、ナクタは思わず声を上げた。
「おいおいおい、盗人だぁ?何言ってんだテメェ!おい、ケルキュース!メデュアはなぁ、そいつら姉妹に追い出されたのをここにいる蓮とルーが保護したんだ!」
「無駄ですわ。お母様は私の能力『魂縛者』で魂を完全に縛っておりますのよ?貴方達が何を言おうと決して届きませんわ。」
「ねぇ。お母さんなんでしょ?家族なんでしょ?なんでそんな酷いことするの?」
ルーの隣に並び立った蓮はエウラに質問する。
すると、エウラは浮かべていた笑みをすっと消し去り返答した。
「私を見てくれない家族なんて必要ありませんわ。」
すぐに笑顔に戻ったエウラ。
だがその表情はどこかぎこちなく見えた。
「貴方達の家族ごっこを見ていると吐き気がしますわ。そんなに大切ならば頑張って守ることですわね。……さぁ、お母様。やりなさい。」
そう言い残し、エウラはケルキュースの背後に下がっていく。
変わって前に出てきたケルキュースに、蓮達は身構えた。
「くそっ!全員気をつけろよ!完全魔物化した魔人は別格だと思え!」
「ジュアアアアアア!!!」
ナクタがそう叫ぶと同時にケルキュースから魔力が解き放たれた。
嫌な予感がルーの頭を過った。
「全員私の周りに!何かまずい予感がします!」
ルーは瞬時に全力で結界を張る。
解き放たれたなんの性質も持たせていないはずのただの魔力が、ルーの張った結界とぶつかり火花を散らす。
「ぐっ……。」
苦しげなルーに、蓮が後押しする様に魔力を流す。
「僕の魔力も使って!」
「……助かります。」
蓮の魔力も使い結界を強化してなんとか凌いだルー。
ケルキュースから溢れ出た魔力も落ち着き、ようやくほっと息を吐き周囲を見回した。
「これは……」
困惑するルーの目に映ったのは、どろどろとした紫色の液体に変わった地面に枯れ果てた草木。
結界の周囲に一帯がその状態に変わっていた。
「強力な魔人になると、その身に宿す魔力が周囲の環境にも影響を与える程になるんだ。……ルーの旦那、今回ばかりは本格的にやべぇぞ。」
数百年を生きる魔人の力をまざまざと見せつけられた一行だが、戦闘はまだ始まってもいない。




