第二十九話
「よしっ!あと一個!」
蓮が解呪を開始してはや1時間が経過した。
蓮は驚くべき集中力を見せ、強力な呪魔法をどんどん解呪していき、ついに蓮の言う気持ちの悪い部分が後一つのところまできた。
「念のため結界魔法で覆います。皆、少し離れてください。」
ルーはそういうと、男と蓮、そして自分を囲む様に結界を張った。
「蓮は解呪が終わったらすぐに私の所に来てください。もう一枚結界を張って男を隔離します。」
ルーの言葉に蓮は頷くと、額の汗を拭い最後の一つの解呪に取り掛かり、ルーは瞬時に結界を張るために魔力を練り上げる。
そして、ついにその時が来た。
「できた!」
「蓮!すぐに此方へ!」
解呪に用いていた白い魔力が消え去ると、男の身体全体から首輪から出ていた物と同様の黒い靄が噴き出した。
ルーは瞬時に蓮を抱き寄せ結界を張る。
「ジュォォォォォォォォォォ!!!」
黒い靄は一匹の大蛇となり、結界内で暴れ回る。
「蓮、先程の解呪の魔法をあれに使えますか?」
「うん!多分できると思うよ!やってみる!」
蓮はそう言って掌を大蛇に向けてかざすと、白く輝く魔法の弾を放った。
結界を通過し、中にいる大蛇にぶつかった瞬間、蓮の放った魔法弾が弾け白い光が辺りを包み込んだ。
強烈な光に思わず両手で目を覆った蓮は、ゆっくりと手を離し、大蛇がいた場所を見る。
そこには大蛇の姿はなく、男だけが変わらず横たわっていた。
「消えましたか……。」
「みたいだね。眩しかったよね?ごめんね、魔力込めすぎちゃった。」
「いえ、よくやってくれました。お手柄ですよ。」
ルーは先程の大蛇の魔力反応が消えたことを確認し、結界を解除する。
「う……うぅ……」
二人が横たわる男に近づくと、か細い唸り声が聞こえた。
「生きては、いるみたいですね。聞こえているなら答えてください。この呪いは誰にかけられたのですか?」
ルーは男の息があることを確認し、早速とばかりに質問をする。
「ぁ、あぁ……。ケル……キュー……ス……さ、ま……を……かい……ほう……」
そこで男の言葉が途切れた。
隣で回復魔法をかけていた蓮は魔法を止め、ルーの方を向いて首を振る。
「ごめんなさい、ルー。ダメだった……。」
「あそこまでの呪いに侵されていたのです。少し話せただけでも奇跡でしょう。それにしても……。」
ルーは顎に手を当てて考え込む。
男の残した最後の言葉は何を意味するのだろうか。
ケルキュース様を解放の後には何が続くのだろうか。
〝してくれ〟なのか、〝するな〟なのか、はたまた別の言葉だろうか。
何にしてもケルキュースの身に何かが起きていることは確定だろう。
「ねぇ、ルー。メデュアのお母さんの事だけど……」
何やら躊躇する様にルーに話しかける蓮に、何が言いたいのかを察したルーは膝をつき、視線を合わせて優しく問いかける。
「蓮はどうしたいのですか?」
「えっとね、メデュア残したお母さんは敵かもしれないけど、そうじゃないかもしれなくて……。もし、もしね、敵じゃないんだったら助けてあげたいなって……。」
不安そうにルーを見つめる蓮。
もしもケルキュースに救いの手を差し伸べるとなると敵の本拠地に向かうこととなる。
そうなれば、毒沼の森という不利な条件で敵の主力と戦闘する事となる。
もう一つの懸念がボルドラの存在。
ケルキュースの右腕である九頭蛇のボルドラは基本的に海岸沿いの敵拠点からは滅多に出てくることはないという情報を得ていたため、今回相手を挑発し、こちら側の森の中で迎え撃つ事にしたのだ。
蓮もそれらの事情を知っている為、敵本拠地に乗り込む事になる提案をしにくかったのだろう。
「分かりました。では、行きましょうか。」
「いいの?」
「ただし、蓮にもしっかり働いて貰いますよ?」
蓮はしっかりとルーの目を見て頷いた。
「さて、それでは乗り込みましょか、敵の本拠地に。メデュア、案内をお願いします。」
自分を可愛がってくれていた母の元に一番行きたかったのはメデュアだろう。
二人の決断に感謝の意を伝えると、先頭に立ち進み始めた。




