第二十七話
ルーは黒フードの男との戦闘を続けていた。
初の実戦投入で最初は感覚とズレが生じていた宙に浮かぶ八本の黄金剣の操作も徐々に修正していき、今では手足の様に扱っている。
それでも決めきれていないのは黒フードの男の卓越した技量と、半魔物化によるパワーアップが原因であった。
「硬いですね……。流石に一筋縄ではいきませんか……。」
現在の黒フードの男は紫色の鎧を身に纏い、腰の部分からは長く太い尻尾が生えており、その先端には鋭く針の様に尖っている。
「蠍の魔人ですか。尻尾の針には当然毒が仕込まれているのでしょうし、厄介ですね……。」
ルーを翻弄していた気配の希薄さとスピードに加え、ルーの剣を弾くほど頑丈な鎧と絶妙なタイミングで放たれる尻尾、そこに短剣二刀流による卓越した技術が合わさりどうにも攻めきれない状況へと陥っていた。
しかし、ルーの表情に焦りの色は見られない。
先程から攻め続けているのはルーの方であり相手はその対処に追われて攻撃を仕掛ける事ができず、最初とは立場が逆転していた。
また、堅牢な鎧にはどんどん傷が増えていっており、黒フードの男も流石に体力の限界が近いのか動きが鈍ってきているようだ。
「そろそろですね。」
そう呟いたルーは八本の黄金剣を男をぐるりと囲む様に操作すると同時に、翼をばさりとはためかせ黒フードの男に向けて一気に駆け出した。
周囲を囲むように飛んでくる剣に対して、黒フードの男は咄嗟に空中へと跳び上がり回避を試みる。しかし——
「私を相手にして空中に逃げるのは悪手ですよ?」
——目の前に現れたのは翼を広げ、白銀の剣を振りかぶるルーの姿。
回避や防御は間に合わず、振り下ろされた剣が直撃し鎧を凹ませる。
男はそのまま地面へと叩きつけられ激しい衝突音が辺りに響いた。
「一先ず、これで終わりです。」
直後四本の黄金剣が地面に叩きつけられた黒フードの男を襲う。
手足の関節部の比較的柔らかい部分を狙ったそれは鎧に弾かれることなく突き刺さり、男を地面に縫いつけた。
空中にいたルーは地面へと降り立ち、身動きの取れなくなった黒フードの男にゆっくりと近づく。
観念したのか抵抗をやめた男に向けてルーは話しかける。
「貴方には聞きたいことがあるのです。もう少しだけッ!!」
地面から飛び出したのは太く長い蠍の尾。
ルーは左手に持つ剣で弾き飛ばすと、瞬時に右手の剣で斬り飛ばした。
「……危ないですね。念のため、手足も処分させて貰いますよ。」
ルーが振るった剣が、拘束された男の手足を切断した。
ルーは今度こそ無抵抗になった黒フードの男を魔法で浮かべ、蓮の待つ場所へと戻ってきた。
「私が最後でしたか。」
そこにはルーよりも先に戦闘を終えた皆が集まっていた。
蓮に回復魔法をかけてもらったようで全員怪我は見当たらない。
「ルー!お帰り!待ってたよ!」
笑顔でルーに駆け寄る蓮。
ぎゅっとルーに抱きつくと同時に、ルーは淡い光に包まれる。
「ありがとうございます、蓮。」
ルーは回復魔法をかけてくれた事にお礼を言い、蓮の頭をさらりと撫でた。
「どういたしまして!それで、頼み事って、その人の事?」
蓮が視線を向けたのはルーの横で浮遊するダルマ状態になった黒フードの男。
半魔物化は解かれ、斬り飛ばされた手足からは血が滴っているがまだ息はある。
「そうですね。この男なんですが……。まずは回復魔法をかけてもらえますか?死んでしまっては意味がありませんから。ナクタはすぐにこの男の拘束をお願いします。」
ルーは男を地面に下ろし、蓮は回復魔法をかける。
淡い光に包まられ手足も元通りに戻るが、瞬時にナクタの糸によってぐるぐる巻にされた。
「ありがとうございます。さて、本題なのですが……。どうやらこの男、首輪によってなんらかの制御を受けている様なのです。」
「呪い、かな?それで僕に?」
「はい。魔力の感じからして、その可能性が高いので、蓮に解呪を試して貰いたいのです。」
蓮が初めて解呪を行なったのは森に残されたテントから回収した箱であった。
嫌な気配を感じ取ったルーが解析する為に拠点に持ち帰った物を偶然蓮が見つけて解呪してしまったのだ。
驚いたルーがどうやったのかを尋ねると、蓮からは「気持ちの悪い塊を一つ一つ潰してたら気持ち悪くなくなった。」と、なんとも曖昧な返答が帰ってきた。
その後、同じテントから回収した物の中に問題の箱の事が書かれた本が見つかり、呪魔法による呪いの品だということが判明したのだ。
そういった経験から、男に付けられた首輪も魔力の性質から呪魔法による物だと判断したルーは、蓮に解呪を頼んだのである。
「分かった!やってみるよ!」
蓮は早速首輪の解呪に取り掛かった。




