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天使か悪魔か  作者: まくらのおとも
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第二十六話


 クロは目に入る敵を次々に薙ぎ倒していた。

 ナクタに負け、蓮が連れ去られるのを黙って見るしかなかった自分を情けなく思い落ち込んだあの日から、その悔しさをバネに今日まで地獄のような特訓を積んできた。

 火山地帯では毎日朝から晩まで戦闘し、碌に寝ることもできないような過酷な環境に身を置いた。

 もちろん蓮との繋がりによるブーストのお陰もあるだろうが、クロ自身の努力の結果が今、この瞬間に現れていた。

 全身に炎を纏ったその姿は、クロの能力スキルである『纏:業炎』を発動した姿。

 この能力スキルはクロが業炎の三頭犬インフェルノケルベロスに進化した時に発現した能力である。

 その凶悪な能力に、敵は容易に近づく事が出来ず悪戦苦闘していた。

 クロが通った道の木々は燃え、踏みしめられた地面は溶岩のように溶けており、無数の死体が倒れ伏している。

 まさに地獄の様な光景がそこには広がっていた。


「ウォォォォォォン!!!」


 蓮を護る為、番犬としての役割を果たす為にクロは無数の敵を薙ぎ倒していく。



 ナクタのいる場所は異様な緊張感に包まれていた。


「くそっ!どこ行きやがった!」


「おいっ!待て!闇雲に動いたら他の奴らみたいに——」


「うわぁぁぁぁ!!」


 ステナの配下の魔人は、仲間がまた一人森の奥へと引き摺り込まれるのを見送る事となった。

 槍を使った近接戦闘を好むナクタであるが、本来の戦い方は糸を使ったトラップである。

 しばらくの間近接戦闘を楽しんだナクタは本来の戦い方に変えて戦闘を継続していた。


「ほいっと。……なぁ、お前ら何人いんだよ。全然減らねぇじゃねぇか。」


「くそっ!離せ!この糸を解け!」


「はぁ……。話になんねぇな。」


 糸に絡め取られ、ナクタの座る木の枝から吊り下げられて騒いでいた魔人はしばらくすると静かになった。


「ぐっ、がっ……、ぐぎぎ……」


 血が出るほどに首を掻きむしり苦しんでいた魔人は、やがてその動きを完全に止めた。


「流石にあの環境で過ごしているだけあって毒の効きが悪りぃなぁ。」


 ナクタがトラップに使った糸には即効性の致死毒が塗られており、耐性の無い者ではそこトラップにかかった瞬間に皮膚に食い込んだ糸から毒に侵され数秒で死に至る。

 毒沼の森で生まれ育った者達なだけあって毒への耐性は高いのだが、ナクタの精製する猛毒は流石に無効化とはいかない様だ。


「次はどいつがかかるかねぇ。」


 ナクタは小さな声でそう呟くと、そこかしこに張り巡らされた糸を伝って静かに移動を開始する。

 日が落ち、暗闇に包まれた森の中、仕掛けたトラップに次の獲物がかかるのをじっと待つナクタの真紅の瞳だけが怪しい輝きを放っていた。



 ルーが黒フードの男を相手にする事となり、必然的に敵の半数近くを受け持つ事となったアシュラは戦いとも呼べない様な蹂躙劇を繰り広げていた。

 拳を突き出せば大気が震え、地面に叩きつければ地割れが発生する。

 なんとかそれらを躱しアシュラに接近できた者達は、もろにその巨大な拳を受け文字通り体が弾け飛ぶ。

 まさに厄災と言える姿がそこにはあった。

 普段は戦闘を好まない温厚な性格のアシュラであるが、一度スイッチが入ると狂戦士バーサーカー状態へと変貌する。

 この状態を鎮めるには、アシュラが満足するまで暴れ回るか、力を持って無理矢理に止めるかぐらいしか無いだろう。

 いや、蓮の言葉なら聞き入れる可能性が高い。

 アシュラは自身の幼い子供を亡くし、まさに狂戦士バーサーカー状態で暴れ回っていた時に蓮とルーに出会った。

 ルーとの激しい戦闘の末、敗北したアシュラの傷を治したのが一緒にいた蓮であった。

 蓮としては回復魔法の練習と単純にかっこいいから仲間になってくれないかなという下心だったのだが、小さな蓮の姿に亡くした子供の姿を重ねたアシュラはそれから毎日の様に果物を拠点へと持っていき、結果蓮の眷族になったのだ。

 蓮が我が子では無いと言うのは百も承知である。

 だが、それでも護るべき対象として定めたからにはなんとしてでも護り通すと心に決めた。

 自分の役割は『守護』ではなく『破壊』であると理解しているからこそ、その圧倒的な暴力をもって暴れ回るのだ。

 アシュラはますますその拳に力を込める。

 敵の返り血で全身を赤く染めながら、敵の集団の奥深くへとゆっくりと進んでいく。



 メデュアは各地での戦闘音を聴きながらそれを抜けて迫ってくる敵の対処を行なっていた。

 メデュア持つ『停滞の魔眼』は魔法の発動速度が速いメデュアと非常に相性が良く、その眼に捉えた敵を止め、瞬時に発動した氷の刃で首を跳ね飛ばしていく。

 未だに魔眼の制御はうまくいっていない。

 視界に入る生命体全てに効果が及んでしまう為、仲間との共闘の場合は使用するのが難しい。

 全員がバラバラの場所で戦闘を行なっている現状はメデュアにとってプラスに働いていた。


「メデュア……様……。どう……して……。」


 敵として襲いかかってくるのはかつて共に生活していた者達であり、当然見知った者も含まれている。

 だが自分は今や蓮の眷族であり、ステナとその配下は敵である。

 そこに慈悲は存在しない。

 苦しまない様に即死させているのがせめてもの慈悲と言えるのかもしれないが……。

 メデュアは普段と変わらぬ無表情のまま、迫り来る敵を次々に殺していく。











《魔人の器を生成します》



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