第二十五話
ルーと対峙する黒フードの男はあちこちから聞こえてくる轟音や悲鳴を気にした様子もなく、ルーと激しい戦いを繰り広げていた。
黒フードの男は右手に握る短剣と投げナイフや針といった飛び道具を駆使し、ヒットアンドアウェイの戦法を取っていた。
気配が薄く捉えにくい黒フードの男の攻撃を剣や魔法を使って上手く捌きながら、黒フードの男へと話しかけた。
「周りが見えていないのですか?貴方のお仲間は虫けらの様に蹴散らされていますよ?」
黒フードの男は一瞬ピクリと反応するが、何も言わずに攻撃を再開する。
ルーは男と戦闘を続けながらも、ある違和感を感じていた。
(この男……。確かに他とは一線を画す強さを持ってはいますが、どこか動きがぎこちないように感じますね……。何かに縛られている?)
男の動きに違和感を覚えたルーは、集中して魔力感知を行う。
黒フードの男をスキャンするように注意深く感知していくと、男の首をぐるっと一周するように男のものではない不気味な魔力を感知した。
(あれは、形状からすると首輪でしょうか?しかし、誰が何のために……)
そうしている間にも黒フードの攻撃は止まらない。
ルーはとある考えを実行するために、蓮に連絡を取ることにした。
メデュアの作った氷のドームの中で暇を持て余していた蓮は、自分の胸のあたりが淡く光っているのに気が付き、首から下げた一枚の羽を取り出した。
純白の羽に糸を取り付けただけのその首飾りは、ルーが蓮の為に作った通信魔道具である。
自身の羽を媒介とし、魔法の中でも特に難易度の高いと言われる空間魔法などを駆使して作られたそれは、蓮が触れることによって遠距離でのルーとの会話を可能とする物である。
「ルー?どうしたの?何かあった?」
『少し蓮にお願いしたいことがありまして。』
「わかった!ルーのとこに行けばいいのかな?」
『いえ、私がそちらに向かいますので少し待っていてください。メデュアには先に伝えておいてもらえますか?』
「うん、りょーかい!じゃあ、まってるね!」
羽が放っていた淡い光は消え、ルーとの通信は終了した。蓮はやっと出番が来たとウキウキしながらメデュアに念話を飛ばしてルーが来る旨を伝える。
ルーが来るまでの間また暇を持て余す事になった蓮は、そう言えば何をすればいいんだろうか?と今更ながらに思ったのだった。
蓮との通信を終えたルーは、一先ず目の前の男に集中する。
気配を消し、猛スピードで駆け回りながら攻撃を繰り出してくる黒フードの男はかなりの技術を持っている。
飛び道具とスピードを駆使した戦闘はルーを翻弄していた。
(厄介な相手ですね……。こちらが剣を振るう前には離れてしまいますし、魔法を撃てば死角から飛び道具が飛んでくる。アシュラなら大丈夫でしょうが、他の三人ではどうなっていたか……。)
このままでは埒があかないと考えたルーは手札を一つ切ることにした。
ルーからぶわりと立ち上がるキラキラとした魔力。
背中の翼はその数を三対六枚へと増やし、膨大な魔力を制御する。
「『天剣武装』」
ルーがその言葉を発した瞬間、辺りは黄金に輝く炎に包まれた。
黒フードの男はルーから立ち上がる魔力を危険だと判断し、今まで以上にルーとの距離を取り様子を伺っていた。
ルーの口が僅かに動いた瞬間、地面から黄金の炎が立ち上がり、ルーの体を飲み込んでいく。
突如発生した眩い光に咄嗟に目を背けた黒フードの男はすぐに視線を戻す。
そこにはキラキラした魔力を放つ六枚の翼
を大きく広げたルーの姿。
そして、その周りを取り囲むように浮かぶ八本の黄金の剣。
ルーの両手に握られた二本の白銀の剣とは違い、物質というよりも魔力的性質が強いようだ。
黒フードの男はその剣一本一本に込められた強力な魔力を感じとり、短剣を握る手に力が入る。
「さて、皆少しはしゃいでいるようですので私も少しだけ、本気で行かせてもらいましょうか。」
ルーのその言葉に、距離があるにも関わらず黒フードの男は咄嗟に身構える。
次の瞬間、構えた短剣がキンッと音を立てて弾き飛ばされた。
慌てて後ろに下がった男が自分のいた場所を確認すると、ルーの周りに浮かんでいたはずの黄金の剣が地面へと突き刺さっていた。
「おや、上手く弾かれてしまいましたか。まだまだ制御が甘いようですね……。」
この『天剣武装』と名付けられた技は、以前蓮がいた世界で見ていたアニメのキャラの技を参考にした物であり、蓮の要望に応えた結果生み出された技である。
ルーの魔法である『神炎』から生み出された計十本の剣を用いる近接戦闘特化の形態であり、空中に浮かべた八本の剣を操作するのにかなりの魔力操作技術と集中力が必要であり、この武装を展開中は身体強化以外の魔法は使用することができない。
「本格的な戦闘では初めての使用なので、慣らすのに少しお付き合いお願いできますか?」
黒フードの男に向けてそう告げるルーの口角は僅かに上がっていた。




