第二十二話
翌日、朝食を終えた蓮達はいつもなら各々活動を開始するのだが、そのまま話し合いを始めていた。
内容は勿論昨夜の襲撃の件だ。
「自分達で追い出しておいてなんで追っかけて来るんだろうね?意味がわからないよ。」
昨夜、これまでの襲撃の首謀者とその目的が判明した。
主目的はメデュアの殺害であり、あわよくば蓮達全員を亡き者にしようとしていたようだ。
そしてその指示を出したのはケルキュースの娘であるステナとエウラの魔人の姉妹であった。
今の所ケルキュースが関与しているのかどうかは不明。なんでも、ここ半年程ケルキュースの姿を見たものがいないらしい。
ステナ曰く、ケルキュースはステナにその地位を譲り渡し隠居したのだと言っていたそうだ。
これには流石に配下の魔人達も懐疑的だったが、ケルキュースの娘であり、自分達よりも強者であるステナに従うことに異論は無かったので従っているのだそうだ。
仮に、ステナがケルキュースを殺してその地位を簒奪したのだとしても、魔人や魔物にとってそれは正当な行いである為特に問題はない。
そういった事情から、現在毒沼の森の主はケルキュースからステナへと変わっている。
襲撃の首謀者もその目的も昨夜の魔人から聞き出せたが、理由までは知らなかったようで結局分からずじまいであった。
「……おそらく、母親の寵愛を受けるメデュアへの嫉妬でしょう。ケルキュースが姿を消し、追放したメデュアが生きているという情報を掴んだ事で、確実に殺す為に追っ手を差し向けたのでしょうね。」
魔人達への尋問の後、流石に黙ったままでいられなかったメデュアが自身の過去について皆に話したのだ。
ナクタが最初に持ち帰った情報通り、メデュアはケルキュースの娘である三姉妹の長女であった。
早々に器を発現し魔人へと進化した二人の妹とは違い、いつまでも器が発現しないメデュアは他の者に馬鹿にされ、妹達からは嫌がらせを受けていたそうだ。
それに、メデュアはケルキュースの代名詞とも呼べる毒と状態異常を付与する魔法が使え無かった事も蔑まれる要因となった。
しかし、母親であるケルキュースとその右腕である九頭蛇のボルドラはメデュアを寵愛し、大切にしてくれた。
だが、皮肉にもその事が余計に二人の妹からの嫌がらせを悪化させてしまったのだ。
そして、メデュアは妹達から麻痺毒を浴びせられ、森の中に放置された。
その後、ぼろぼろになりながらも何とか毒沼の森を抜けた所で蓮に助けられ、忠誠を誓うこととなった。
「ふぅーん……。家族なのに。仲良くすればいいのにね。」
「あー、それで?どーすんだ?」
「相手の出方次第ですね。直接来ていただけるのであればその時は歓迎しましょう。プレゼントがきちんと届けば良いのですが……。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
霧の立ち込める森の中を一人の女が走っていた。
大切そうに木箱を一つ抱え、額から流れ落ちる汗を拭う事もなく、ただひたすらに前を向いて木々の間を駆け抜けていく。
それから暫く後、女が深い森を抜けると目の前には綺麗に整地された広場が姿を現した。
そこには毒々しくも美しい花々が咲き誇り、その中で何やら作業を行う人影がみえる。
そんな人々の視線を受けながらも、それを無視して女は走り続けた。
辿り着いたのは立派な洋館。
霧の立ち込める森の中にぽつんと佇むその洋館は不気味な雰囲気が漂っている。
大きな扉の前に立つ門番に早く開けろと女はと詰め寄った。
門番の男は女のただならぬ様子に困惑し、何があったのかと問いかけたが、女は早く開けろの一点張り。
門番の男は仕方なく扉を開けたが、何かあっても対応できるようにと、女の後ろを追いかけた。
足早に廊下を歩く二人は、館の最奥にある豪華な扉の前に辿り着いた。
門番の男がいつものようにノックしようとしたが、女がそれを押しのけてその扉を開き中へと入る。
広々とした室内の奥には宝石などで装飾の施された椅子が二脚並んでおり、そこには貴族の様なドレスに身を包んだ長い金髪の女が二人座っている。
椅子に座る女の一人が不躾な侵入者へ向かって声を荒げた。
「ノックもせずに入るだなんて!なんて下品な!」
「もっ、申し訳ありません、ステナ様。」
一歩遅れて入室した男がその場で片膝をついて謝罪する。が、女は焦点の合わない目で真っ直ぐ前を見つめ、進み続ける。
「あなた!何をしているのです!そこで止まりなさい!」
ステナと呼ばれた女は未だ進み続ける女に対し魔力放出し威圧する。
ステナの威圧をもろに受けた女はその場で立ち止まった。
それを見て、ステナの隣に座る女が口を開いた。
「あら?ねぇ、お姉様。この方はあの女を殺す為に送った方ではありませんか?」
「……そう言われてみればあの中にいた様な気がしますわ。よく気が付きましたわね、エウラ。」
「本当にお姉様は他人に興味がございませんわね。……それで?あなたはそんなに急いでどうされたのかしら?」
エウラのその問いかけに、女はゆっくりと片膝を付き、抱えていた木箱を差し出し、そして唇を震わせながら言葉を発した。
「こ、こ、こ、これを……。お、おく、送り、物、だそう、で、です。」
「あら、誰からかしら?」
「し、白い羽のあ、あ、亜人のお、男から、です。」
その返答にエウラは目を細めた。
「誰よそれ?そんなやつ私知りませんわ。」
「お姉様、白翼の亜人と言えばメデュアを匿ってるお方ですわ。」
「へぇ……」
ステナは椅子から立ち上がり、ツカツカと女の元へと歩み寄り差し出された木箱を受け取った。
「私にプレゼントだなんて良い心掛けですわ!」
ステナは上機嫌に結ばれた糸をほどき木箱の蓋を開けた。
「……何ですか、これは。……舐めたことを……」
静かに、しかし怒りの込められた声でそう呟いたステナから吹き荒れた暴力的な魔力が館をガタガタと揺らす。
「そこの貴方。皆に準備を整えるように伝えなさい。……今すぐに!」
「はっ、はい!」
ステナは扉の近くで跪いていた男に指示を出し、手に持っていた木箱を床に投げ捨てた。
落ちた木箱から転がり出たのは苦悶の表情を浮かべる紫色の髪の壮年の魔人。
その生首であった。




