第十七話
ナクタは毒沼の森の奥地を支配するという魔人について話し始めた。
「あの森の奥地にいるのは、数百年生きてるっつー魔人ケルキュース。それに、その配下の魔人が数人いる。そん中にケルキュースの娘もいるっつー話だが俺は見た事ねぇ。……ただ、やべぇのは魔人連中じゃねぇんだ。」
「魔人じゃない、とは?」
「魔人よりやべぇのは、『九頭蛇』って魔物だ。ケルキュースの右腕的な存在で、普段は海の中にいる。……あのバケモンみてぇのがうじゃうじゃいる海の中で何十年も、下手したら何百年も生き続けてるんだ。な?やべぇだろ?」
「なるほど、確かに脅威ですね……。」
ルーはその脅威はどれ程のものかと考え、難しい顔をしている。
蓮は首を傾げながらナクタに問いかけた。
「ねぇねぇ、ナクタ。魔人より魔物の方が強いの?魔物の進化が魔人なんでしょ?」
「……あぁ。そういう考えになるのかぁ……。」
ナクタは顎に手を当て、少し考え込んでから蓮に言葉を返した。
「魔人ってのは確かに魔物から進化した存在だ。それは間違っちゃいねぇ。魔人になる事で魔石が生成されて、魔力の扱いが格段に上手くなる。だが、言ってしまえばそれだけだ。確かに個人としての実力は跳ね上がるが、そうじゃなくても強ぇ魔物なんてのは割といるんだ。強けりゃ魔人になれるって訳じゃねぇからな。まぁ魔人が概ね強ぇってのは確かだが。」
ナクタはそこで一旦言葉を区切り、アシュラの方に目を向けた。
「……現に、俺はアシュラに負けた。殺し合いじゃなかったなんて言い訳はしねぇ。もしそうだったとしても殺されてんのは俺の方だったろうしなぁ……。」
悔しそうな表情を見せるナクタを横目に、蓮はアシュラの方を見た。
「え!?アシュラってそんなに強かったの!?」
アシュラは基本的に戦いを好まず、無駄な戦闘はしない主義である。
蓮の護衛をしている時も、殆どは威圧で追い払ってしまう為、アシュラが本格的に戦っている姿を蓮は見た事がなかったのだ。
「……まぁ元々この森の半分を牛耳ってたんだ。強ぇに決まってる。もう半分を仕切ってた俺の親、あぁ、あの女帝蜘蛛な。あいつも手を出せなかったぐらいだし。」
「……なんか、みんな隠し事多くない?僕が子供だからってバカにしてんでしょ!もう寝る!」
口をへの字に曲げて拗ねてしまった蓮はさっさと席を立ち、寝室へと向かってしまった。
残された面々の間になんとも言えない空気が流れる。
「拗ねてしまいましたね……。まぁ明日には機嫌も治っているでしょうし、今はそっとしておきましょう。」
「あー、すまねぇ……。」
「いえ、ナクタは気にしないでください。聞かれないからと伝えていなかった私達が悪いのですから。……蓮には明日伝えるとして、話の続きといきましょうか。」
ルーはそう言って、ナクタに続きを促した。
「あー、さっきも言ったが警戒するなら魔人ケルキュースと九頭蛇の二体だ。配下の魔人達はアシュラとルーの旦那なら問題ねぇと思う。……あの時俺を刺した剣だって、奥の手でもなんでもねぇんだろ?」
そう言ってナクタはルーに視線を向けたが、帰ってきたのはいつもと変わらぬ微笑みだけだった。
「……はぁ。まぁいいか。話を続けるぜ?俺が魔人になってすぐの頃、その配下の魔人が勧誘しにきたんだよ。ムカつく態度してたからボコボコにしてやった。まぁ後ちょっとのとこで逃げられちまったんだが……。つまりだ、そんななりたての魔人に負けるような奴らに二人が負けるとは思えねぇって話だ。」
そんな話をしながら、ナクタは心の中でもう一つ、別の事を思い浮かべていた。
(それに、蓮の眷属になってからやけに体の調子がいい。あの契約の恩恵ってやつなんだろうよ。ルーの旦那は特殊だからわかんねぇが、俺と同じ眷族の三人もこの恩恵受けてんだろうし、クロとメデュアもすぐにそこらの魔人を超えちまうかもな……。)
蓮と結んだ『眷族契約』の恩恵。
それは単純な身体能力の上昇と、魔力量の増加。もしかしたら他にもあるのかも知れないが、それだけでも十分過ぎる程である。
クロとメデュアに関しては、昨日からアシュラによる訓練を受けている事も知っている。そしてその内容が想像を絶するものだとも……。
なので、今すぐは難しいだろうが、強くなるだろうと思い、配下の魔人に関しては問題ないとのジャッジを下したのだ。
「だが、問題なのは俺が魔人になってすぐに勧誘に来れた事だ。あの森の中は奴らの庭みたいなもんだからな、ほっつき歩いてりゃすぐにバレると思った方がいい。もし行くってんなら、しっかり準備して全員で行くのがベストだろうな。」
その後、一旦毒沼の森の探索は見送る事が決まり、その場は解散となった。




