第十六話
ルーは項垂れる蓮を横目に、今まで得た情報の擦り合わせを行った。
まず、此処が大陸から離れた島である事。
手記に書かれた情報によると、大陸までは船で数ヶ月ほどの距離にあるようで、海には強力な魔物が蔓延っており、特別な魔道具による結界が必須らしい。
ナクタは島から出たことが無いので大陸の事はわからないが、海が危険なのは本当だという。ワイバーンや小型のドラゴンが海に引き摺り込まれるのを何度か見たことがあるそうだ。
これについては蓮とルーも一度見ているので反論はない。
そして現在も拠点とし使っている、蓮の目的である剣の突き刺さった竜骨についてだ。
「この島に来た人達の目的はこの巨大な竜骨と、あの額に刺さる剣だったようです。どの手記も共通してそのような事が書かれていました。ナクタは何か知っていますか?」
「いや、俺も詳しい事は知らねぇ。俺が生まれた時には既に此処にあったからな。ただ、話には聞いた事がある。」
本当かどうか分からないぞ?と断りを入れてナクタは話を続けた。
ナクタによると、この骨になった竜—正確にはその上位種の龍—は、此処ら一帯の海を統べる強大な力を持つ魔物だったそうだ。
当時大暴れしていた龍に危機感を感じた人間の国々が連合を組み討伐したのだと言う。
「——と、ざっくりだがそんな事があったんだとよ。んで、その討伐された龍の骨がこれだって話だ。」
ナクタの話を聞いていた蓮は、ぽつりと言葉を漏らした。
「あの絵本の話に似てる……?」
「絵本だぁ?何だそれ。」
「あぁ、回収した本の中に混じっていましたね。蓮、どんなお話だったか教えてもらえますか?」
コクリと頷いた蓮は、絵本の内容を思い出しながら、ゆっくりと話し始めた。
遠い遠い昔の話。
とある田舎の小さな村で一人の男の子が産まれました。
両親の愛情をたっぷりと受けてすくすくと育ったその少年は、幼少の頃より類稀なる才能を発揮し、村に沢山の恩恵を齎しました。
魔法で生活を豊かにし、剣で魔物を狩って危機を救い、村の皆に愛され感謝されるのでした。
そんなある日、一人の神官が彼の元を訪ねてきました。
何でも、国を荒らす大魔王を倒す為、神に選ばれし勇者を探す旅をしているのだとか。
少年の噂を聞いた神官は、もしやと思い遠路はるばる訪ねてきたのだと言いました。
少年は悩みました。
協力する事に否は有りませんでした。
しかし、自分がいなくなった後の村が心配だったのです。
思い悩む少年に、両親や村の皆は声をかけました。
行ってこい、心配するな、自分達だけで大丈夫だからと。
そんな皆の言葉を受け、少年は大魔王討伐に赴く事を決意しました。
翌朝、その事を神官に告げた少年は、勇者を判別する儀式のために神官と共に聖都へ向かいました。
立派な聖堂の中には、少年と同じように各地から集められた猛者達が集まっていました。
大国の騎士団長や有名な冒険者など、田舎で暮らしていた少年でも名前を聞いた事があるような人達が集まっていたのです。
緊張して待っていると、壇上に教皇が現れ、その場は静寂に包まれました。
教皇は手に持つ聖書を広げ、その場にいた神官達と共に聖歌を歌い始めました。
すると、天から光が降り注ぎ、一人の少年を照らしました。
そう、照らされたのは田舎からやってきた少年です。
その瞬間、歓声と拍手が沸き起こり、壇上に呼ばれた少年は、教皇から大きな剣を受けとりました。
それは、選ばれた勇者しか使うことのできないという勇者の剣。
少年は受け取った身の丈を超えるその勇者の剣を軽々と片手で掲げました。
そらからは戦いの日々でした。
集まった味方と共に大魔王の配下を次々に倒した勇者の少年は、青年と呼ばれる年になり遂に大魔王と対峙しました。
凶悪な顔に鋭く尖った角、巨大な体躯をしており、それを覆い隠せるほどの翼を持った大魔王との激戦は三日三晩続けられました。
多くの仲間を失いながらも戦い続けた勇者は、弱った大魔王の額に勇者の剣を突き立て、その命を終わらせました。
こうして勇敢な青年とその仲間達により、世界に平和が訪れたのでした。
めでたし、めでたし。
「——って話だったはずだよ。よくある話だなーっておもって一回しか読んでないけどね。」
「まぁ似てるといやぁ似てるが……。」
「本当によくある英雄譚ですからね……。ただ、わざわざこの島にその絵本を持ってきていたという事は、何か関係があるのかも知れません。」
暫しの沈黙が流れ、蓮は口を開いた。
「……まぁ、今はいいや。別に今は関係ないしね。それより、毒沼の森の話をしようよ。」
「そうでしたね。一先ず人里が無いのは分かりましたが、知っていたほうがいいでしょう。ナクタ、森の奥の事教えてもらえますか?」
「先に言っとくが、奥に行くのはオススメはしねぇ。あそこは長いこと生きてる魔人が支配してる領域だからな。」
ナクタのその言葉にメデュアがピクリと反応を示したのをルーは見逃さなかった。




