第十四話
洞窟を後にした蓮とルーの二人は、まず森の中に残してきたクロとメデュアの元へと向かい、蓮が魔法により解毒と回復を行なった。
蓮は守れなかった事を謝罪する二人を笑つて許し、皆で揃って拠点へと戻った。
拠点で待機していたアシュラは蓮の無事を確認すると、項垂れるクロとメデュアを連れて森の中に消えていった。
それを見送った蓮は、ルーが手早く作ってくれた夕飯を食べるとすぐに眠りについた。
翌朝、目を覚ました蓮はぐっと伸びをした後、皆と挨拶を交わした。
その際クロとメデュアが傷だらけの状態で横になっていたので、回復魔法をかけようとしたが頑なに首を横に振り拒否された為、渋々諦めてアシュラと共に近くを流れる川に顔を洗いに向かった。
拠点へと戻った蓮はお気に入りの林檎擬きを齧りながら皆を呼び集めた。
「よしっ、みんな集まったね!今日は何と、みんなに報告がありますっ!」
とびきりの笑顔でそう告げる蓮に対して、集まった面々は苦笑いを浮かべてその様子を見守っている。
「僕達に新しい家族が増えましたー!」
パチパチーと口で言いながら拍手した蓮は、隣に立つ白髪の青年に顔を向けた。
「じゃあ、自己紹介お願い!」
「あぁー。今日……いや、昨日か。昨日から蓮の眷族になっ「眷族じゃなくて家族だよ!」……家族になった、魔人のナクタだ。よろしく頼む。」
蓮に促され、ナクタと名乗った白髪の青年は、何を隠そう昨日蓮を連れ去り、ルーに倒された蠱毒の魔人その人である。切り落とされた筈の右腕も、貫かれた筈の腹部も元通りになっている。
昨日死の間際に交わした蓮との会話が、蓮の能力である『眷族契約』に必要な両者の同意と見做され、契約を交わし、蓮の回復魔法で負傷箇所は全て治療されたのだ。
意識を失ってから数十分後、目を覚ましたナクタは状況が理解できずただただ困惑した。
右腕も付いており、腹に空いていた筈の穴も跡形もなく消えている。何しろ自分は死んだ筈だ。もしや全部夢だったのかと本気で疑った程だった。
しかし、視線を巡らせると蓮とルーが楽しそうに何やら話しているのが目に入り、今度は高度な幻術かと疑うことになった。
すぐにナクタが目覚めたことに気が付いた蓮が、おはようと挨拶しながら近づいてきて、事の顛末を教えてくれたのだが益々混乱する事となった。
まず第一に自分を治療した回復魔法である。
回復魔法で部位欠損の治療が可能だという事は知っているが、それには膨大な魔力とかなり高度な魔力制御が必要となる。
それだけの大魔法を目の前にいる幼い少年が行使したと言う。それに飽き足らず、致命傷である腹部の傷をも同時に、それも短時間で違和感もなく完治させたなどと言われても容易に信じることは出来ないだろう。
『能力』か?と聞くと逆にそれは何かと問われ、説明する事となった。
『能力』とは、生まれながらに持つ能力のことであり、主に聖職者の間では『神の贈り物』と呼ばれる事もある。
その殆どが強力な効果を示し、その人物の持つ才能を具現化した物であるとも言われている。
二つ以上持つ人物は稀であり、勿論持たないものも存在する。
別に持たないからと言って差別されたり見下されたりする訳ではない。ほぼ全ての生物が魔力を持ち魔法を使えるこの世界では、それだけで優位に立てるほど甘い世界では無いからだ。
とは言っても強力な手札である事には違いない為、それに驕り『能力』を持たない者を無能や無能者と蔑む者も一定数は存在する。まぁ大抵がろくでもない奴である事は言うまでもないが。
ナクタは蓮に説明し終えてはたと気付く。
以前の自分は聞かれたからと素直に答える様な性格では無かった筈だと。
ましてや先程まで敵対し、殺し合った相手の仲間である。いくら負けたとはいえ、こんなに素直になるものだろうか。一切抵抗無く、さも当然の様に感じていた自分に困惑した。
「思考誘導系の能力、か?」
そしてつい、そう問いかけてしまった。
これに対して蓮はあっ!と何かに気付いたように声を上げ、「ごめんね、今まで通り自由にして良いよ」と言った。
その瞬間、ナクタは自分を縛り付けていた鎖の様なものが外れる感覚と共に、思考力が戻ってきた様な気がした。
それでも不思議と目の前の蓮に対し、敵愾心といった負の感情を待つ事はなかった。
続けてナタクは蓮の能力についての説明を受けた。
両者の合意の下、契約を結び眷族となり、蓮に絶対服従となると。
「なるほど……。まぁ俺はあのまま死んでいた筈の身だ。服従だろうが今更文句はねぇ。ただ、同意なんて……っ!もしかして、最後のあれか!?」
最後のあれとは、死の間際に交わした蓮との会話。
優秀な魔力媒体となる魔石でもくり抜いて有効活用でもするのだろうと思い、好きにしろと言ったあの言葉が同意と見做されたのか。
その問いかけに蓮はそうだよと頷いた。
何の説明もなく、あんな曖昧なやり取りで同意と見做されるなんて最早詐欺である。
今回の件が許されたのなら、痛めつけて無理矢理頷かせても、遠回しな問いかけで騙したとしても契約は結ばれるのかもしれない。
そして一度結んで仕舞えば蓮に対する負の感情が消えてしまう。
「なんだよ、その無茶苦茶な能力は……。」
思わずそんな言葉が口をついて出るが、それを聞いた蓮はキョトンとした顔をしていた。
その凶悪さが分かっているのかいないのか。
まぁ自分はこうして生かされているし、自由にしろと許可も得たのでどうでも良いかと、考える事をやめた。
一通り話が終わった後、蓮とルーの後ろについて拠点まで案内されたのであった。




