33 ヴィネ様に呼ばれて
それから一ヶ月。
私たちは、ゴヴァンとベルクの父にあたるボーウェン伯の居城であるポートンドリー城を拠点として、難民救済の任に当たり続けた。
最初は、一日あたり数十人だった難民の受け入れも、一ヶ月後には、一日あたり数百人となった。
千人近くの難民が到着する日もある。
難民としてやって来た中で、怪我を負っていない元気な医師や薬師たちは、そのまま救護班の手伝いに回ってくれた。
聖カトミアル王国は、みすみす優秀な人材を国外へと追いやったのだ。
医師や薬師、錬金術師など、特別な知識を持っている者以外でも、異端審問に掛けられそうになった者たちの中には、優秀な人材が多い。
それは密告制度がもたらしたものである。
「あの人物は、魔女です」
そう、密告されるのは、大抵、“目の上のたんこぶ”的な存在の人間だ。
「あの人物さえいなければ、私はあの人にとって特別な人間になれる」
「あの人物さえいなければ、私の商売はうまくいく」
そんな、人々の嫉妬心が、「優秀な人材を密告して失脚させる」という事態を生み出すのだ。
国内に残ったファシシュ教の敬虔な信徒たちは、国の指導者の言うことを素直に聞くだろう。
しかし、従順なイエスマンは、国家のコマとは成り得ても、国家を発展させ推進させる人材には成り得ない。
そして、たとえ国家を発展させるアイデアを持っている人物がいたとしても、次第に、人々はそれを口に出さなくなるだろう。
自ら率先して国を発展させる斬新なアイデアを出したとしても、周囲から足を引っ張られ、失脚させられてしまう恐れがあるような国なのだから。
長い目で見れば、おそらく聖カトミアル王国は衰退していくはずだ。
その衰退の途上で、「他の国への戦争と侵略」という愚かな道を選ばないで欲しい。そう、切に願うばかりだ。
もちろん、戦への備えはする。しかし、当たり前だが、できれば戦は避けたいものだ。
夕刻。
一日の任務を終え、いつものようにポートンドリー城に戻る。
与えられた居室で、メイヴの淹れてくれたハーブティーを飲みながら、一人そんなことを考えていると、ふいに部屋の扉がノックされた。
「妃殿下」
「……っ!」
扉の外から掛けられたベルクの声に、手にしていたハーブティーのカップを思わず取り落としそうになる。
一ヶ月経つというのに、まだ、この呼び名には慣れることかできない。
「は、はいっ!」
「失礼いたします」
「ええと……、そろそろ、夕食かしら?」
「いえ。陛下が……ヴィネ陛下が、お忍びでお越しになられました」
「へ、陛下が?」
今日の昼も、視察にやって来たというのに、いったいどうしたのだろう。
「はい。妃殿下をお呼びです。『庭園で待つ』とおっしゃられて……」
何か火急の用件でもあるのだろうか。
首都で何か起きたのだろうか?
「わかったわ。陛下には、すぐに伺いますと伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
「メイヴ、身支度を手伝ってもらえるかしら」
「はい」
いったいどうしたのかしら。
そんな不安はあるものの、純粋に「またヴィネ様にお会いできる」ということが、ただただ嬉しい。
私は、うきうきとした気持ちを覚えながら、ヴィネ様の待つ庭園へと向かう用意を始めた。
2021年6月4日21時に、サブタイトルの付いていない編集途中のものをアップしてしまいました。
申し訳ございませんでした。
21時46分に本文も含めて修正した内容をアップしなおしました。
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