34 ヴィネ様と、夕刻の庭園で
ポートンドリー城は、要塞としての役割を色濃く表した城である。
貴族の住むきらびやかな居館という風情はない。
強固な城壁を持つ、一大軍事拠点だ。
ポートンドリーの港は、アヴァロニア王国の中でも最東南に位置している。
メーヌ海峡を挟んだ向こう岸は、ローテルン大陸だ。
肉眼でも十分に確認できるほど近くに迫る対岸までは、手漕ぎの船でも半日もあれば着くことができるだろう。
つまり、戦になれば、この城が最前線となる要衝である、ということを意味している。
そんな位置的な意味合いもあってか、あるいはボーウェン伯の質素な性格を反映してか、この城にはあまり華美な装飾は施されておらず、庭園にも最低限のものしか植えられていない。
厨房から出てすぐの中庭には、実用性を重視したハーブ園と果樹園があり、そこに形ばかり、観葉植物も植えられているのだ。
万が一の事態に備える意味もあり、現在、庭園の大半は、秋植えのジャガイモが占有している。
その周囲に、植えられたヘリオトロープが紫色の小さな花を咲かせていた。
中庭へ足を踏み入れると、紫の小花の咲き乱れる中、ヴィネ様がベルクを従えて立っている背中が目に入る。
ヘリオトロープの紫色と、ヴィネ様の青い髪がマッチして、なんとも美しい一幅の絵画のようだ。
「陛下……!」
私の声にヴィネ様がゆっくりと振り返る。
「……!?」
私は、思わず言葉を失う。
その顔には、仮面が付けられていなかった。
「仮面が……!」
「ああ。そろそろ、いいだろう。妃候補殿の前では、な」
そう言って、ヴィネ様は柔らかな笑みを浮かべる。
その笑顔に、思わず心臓を鷲掴みにされた。
キュンどころか、ズキュンくらいの激しい勢いで、心臓を射貫かれる。
「は、はい……」
「ベルク、少し席を外してくれないか。メイヴも。エレインと二人だけで話をしたい」
「かしこまりました」
二人は、そう言って、私たちの傍から素早く辞去する。
庭園には、私とヴィネ様の二人だけが残された。
もう、呼吸困難を起こしてしまいそうだ。
息を吸うのを忘れて、一瞬、気が遠くなってしまう。
「どうしたのだ? 顔が真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「……はい、大丈夫です」
「少し、そなたと話をしたくてな。いろいろと、昔話をしてみたくなった。私の昔話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろん」
「では、歩きながら話そう」
「はい」
ヴィネ様は、ゆっくりと歩き出す。
私も、ヴィネ様にエスコートされるように、その隣をゆっくりと歩き始めた。
お気軽に評価やご感想をいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。





