32 さあ、難民救出作戦を始めましょう 3
その場に思わずへたりこみそうになる私の腕を、ヴィネ様の両手が優しく支えた。
「大丈夫か? エレイン」
「だ、大丈夫なんかじゃありません。まだ、慣れません……その、『妃殿下』という呼び方も、陛下が急に現れるのも……」
首都カーコードウィからポートンドリーまでは、馬車で三時間ほどの距離がある。
ヴィネ様が転移魔法を自在に扱えるのは、頭ではわかっているものの、突然、背後に立たれると、やはり動揺は抑えきれない。
「まあ、慣れてくれ。術士の転移魔法による受け入れも順調に進んでいるようだ。先ほど、そちらも視察して来たところだ。明日からも、公務の合間に、そちらと、この港の様子も見に来る予定だからな。そなたの顔を見に来るついでに来るのだ、驚かないでくれ」
「……!?」
ヴィネ様の言葉に、また、私の心臓が大きく跳ね上がった。
私のことをからかって遊んでいるのだろうか。
これは、意図しての言葉なのか、無意識の言葉なのか。
ヴィネ様の表情からは、その真意をまったく窺い知ることができない。
確かにヴィネ様から私への好感度の数値は確実に上がっている。
この好感度を見ることができる能力について、最初は、とても便利だと感じていた。
前世で、ゲームをプレイする際にも、好感度の数値がどこまで伸びているのかを確認しながら、攻略を進めたものだ。
攻略サイトを確認しつつ、恋愛ルートに必要なだけの好感度をゲットした上で、慎重にゲームを進めて行くというのは、乙女ゲームを進めていく上での常道ではある。
しかし、実際に乙女ゲームの世界に転生してみて思う。
『ゲームと現実は違うのだ』と。
知力や筋力といったパラメーターと異なり、人の感情は数値化するのが難しいものだ。
人の感情なんて複雑なものを、そもそも詳細に数値化などできるものではないのだ。
さらに、その好感度をどのように表現するのかは、キャラの持つ性格によって大きく異なる。
これは、乙女ゲーム一般に言えることだが、たとえ好感度が高くても、ツンケンした台詞しか口にしないキャラだっているし、好感度が低いうちから激甘な台詞を口にするキャラもいる。
神の視点でも手に入れなければ、ヴィネ様の本心はわからないのだ。
あるいは、本人から告白でもされなければ――その本心はわからない。
私は、ずっとヴィネ様の手の上で踊らされているような気がする。
(“推し”っていうのも、別に、軽い気持ちではなかったつもりなんだけど……。本気で人として好きになると、こんなに苦しいものなのかな)
私は、そっと溜息を吐いた。
そんな私を見下ろし、ヴィネ様は、涼しい顔で笑顔を浮かべている。
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