29 魔王討伐包囲網、着々と準備中ですか? 2
そして、着々と聖女は信仰を集め、魔王討伐の下準備ができあがる。
民たちを欺瞞に満ちた芝居によって欺くことで、世論の後押しも得られるだろう。
これが芝居だと見抜けなければ、聖女様は、魔物の恐怖から世界を救ってくれる救世主にしか見えないのだから。
そして、魔物を呼び出している人物がファシシュ教団内にいたとしても、皆が「魔王が魔物を呼び出している」「魔女エレインが魔物を呼び出している」と信じている限り、悪者として罰せられるのは私たちだ。
世論とは、歴史とは、そういうものだ。
必ずしも、正しき者が勝つとは限らない。
正しい政を行った者が、指示を得られるとは限らない。
声が大きい者が勝つ。
これが、集団意識の恐ろしさだ。
ファシシュ教団の描いたシナリオにより、魔王や魔女エレインを討つことが、「世界を救うための正しい行い」として人々に認識されていっている。
何とか、ここで止めなければならない。
そうしなければ、結局、私の知っている最悪の結末のままだ。
聖女とその騎士たちが魔王を討つ。
このシナリオを変えようと奮闘しているのに、シナリオはどうしてもこの方向へと向かっていくのか。
私は、思わず歯噛みした。
「なんとかせねばならんな……。その理不尽な異端審問とやらを止めたいものだ。根本的な問題の解決を行いたいが、それはまだ先だ。まずは、異端審問の毒牙にかかりそうな者たちを、アヴァロニア王国に避難させたいと考えている」
「かしこまりました」
「それなら、私に策がございます。提案してもよろしゅうございますか?」
カーラが、胸を張って答える。
「よい、申してみよ」
「私たちは旅芸人の一座です。芝居ならばお任せください。あちこちの酒場や食堂に出向いて、大きな声で『ある噂』について語り、人々に情報を流しましょう。『アヴァロニア王国では、医師や薬師、魔術師や魔女、錬金術師、異端の者でも何でも受け入れているようだ』と」
「おお、それはいい。ついでに、これも付け加えてくれ。『アヴァロニア王国では、身分や生まれ、性別に関わらず、その者の能力だけを見て、雇をしてくれるらしい』と」
「そうですね、大事なことを忘れており、失礼いたしました」
「聖カトミアル王国の各港には、こっそりと船を派遣する。船を配置する港については、後ほど、地図を転送しよう。その港に集まるように人々を誘導してくれ」
「あの、話の途中で失礼いたします……、まだ異端審問の嫌疑を掛けられていない者であれば、馬車や馬など、港までの足を確保することもできるでしょう。しかし、既に異端審問の嫌疑を掛けられている者については、どういたしましょう。緊急性のある人物に関しては、転移魔法か何かで、アヴァロニア王国に連れて来ることはできませんか?」
私も、二人の会話に口を挟み、提案をする。
「そうだな……。既に牢に捕まっている者に関しては、策を練った上で救出したいから、少し時間をもらいたい。ただ、自宅に軟禁状態になっている者や、周囲にあらぬ噂を立てられることで自由を失っている者がいれば、転移魔法でなんとかしよう。そういった者がいたら教えてくれ。術士を派遣する」
「かしこまりました。それでは、さっそく今からあちこちの酒場に出掛けて、一芝居打ってまいりましょう。レガン一座の“興行”にどうかご期待くださいませ、陛下」
「ああ任せたぞ、カーラ」
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