25 ローテルン大陸の現状を確認しましょう
私が玉座の前まで歩み寄ると、ヴィネ様は優雅に立ち上がる。
ヴィネ様を前に、カーテシーで礼を取ると、ヴィネ様は右手をついと、私の方へと伸ばし、玉座の隣に上がる私をエスコートしてくれた。
ヴィネ様に引き寄せられるように、片手を取られながら、私は玉座の隣の妃の座へと進み、その椅子に腰掛けた。
まるで夢を見ているようだ。
私は、この世界に転生して以来、実質、王太子に等しいジャンの婚約者になるべく、それにふさわしい教育を受けてきた。
だから、このような立場になることは、私にとって当たり前の未来だったはずだし、幼い頃からそれなりの覚悟をしてきたはずだ。
聖カトミアル王国では、傀儡の王や王子たちは、外交の場にしか姿を現さない。
それ以外の場で、常に王のごとくふるまっているのは、ジャンの父であるベルナール伯だ。そしてその隣で王妃のようにふるまっているのは、ベルナール伯夫人、ジャンの母親である。
そして、何年か、何十年か後には、ジャンと私が、その座に就くはずだと、そう信じて生きてきた。
だから、臣下たちを睥睨するこのような場に立つ未来がやってくることは、十分に覚悟して生きてきたつもりだ。
しかし、想像していた景色と、実際に見る景色は、これほどまでに違うものなのか、と思う。
ここに座すのが当たり前だと信じてきたのに、指先の震えを抑えることができない。
先ほどから、胸は激しく躍り続けている。
おそらく、この動揺は、今のこの妃候補という立場に由来するものではない。
この胸の高鳴りは、愛するヴィネ様が隣にいるためだ。
私の隣にいるのは、ジャンではなく、ヴィネ様なのだ。
なんとか平静を保たなければいけない。
目の前の会議に集中しなければ──。
ヴィネ様や皆に気付かれないよう、私はそっと深呼吸をした。
* * *
「さて、会議を始めるとしよう。本日、聖カトミアル王国からやって来たという医師から、ローテルン大陸の情勢を聞いた。それは、あまりに凄惨なものである。かの国では、今、異端審問の嵐が吹き荒れているという。それも、罪なき民を相手に」
ヴィネ様の言葉に、居並ぶ重臣たちが息を呑む。
「それに加え、魔物たちが次々と現れ、民たちを襲っているとのことだ。回復魔法の使い手である司祭の数は足りず、怪我人を手当しようとする医師が異端だと引き立てられ、命を奪われる。信じられぬことが起きているらしい。この問題にどう対処すべきか話し合うために、皆には集まってもらった。
これから、この件に関する詳細について、ローテルン大陸に潜ませている間諜に話を聞いてみたいと思う」
ヴィネ様のすぐ傍には、大きな水鏡が置かれている。
両腕で抱えねばならないほどの大きさの水甕で、縁には金細工で豪奢なドラゴンの装飾が施されていた。
ヴィネ様は、呪文を唱えながら、懐から取り出した小瓶の液体を数滴、水鏡へと垂らす。
途端に水面には波紋が広がった。
波紋が消え、水面が凪いでいくと同時に、その面には人の姿が少しずつ浮かび上がる。
ぼんやりとしていた姿が次第にはっきりし、水面に人の形が現れる。
浅黒い肌を持った女性だ。
どこかで見た覚えのある女性だった。
どこで会ったのだろう──。
私は、これまでの記憶を辿った。しばらくの後、記憶が蘇る。
この女性は、アヴァロニア王国へ向かう道中、私の危機を救ってくれた女性ではなかったか。
「もしかして……? カーラ!」
水面に姿を現したのは、アヴァロニア王国への道中、男や魔物に襲われた私を助けてくれた女性。
旅の一座を率いていると言った、ダークエルフと人間のハーフの女性だった。
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