26 カーラとの再会
「ええと……失礼ですが、どこかでお会いしたことがございましたか?」
水鏡の向こうの女性、カーラは突然、自分の名前を呼ばれたことに対して、不思議そうな声を上げる。
無理もない。
あの時の私は、道中をできるだけ安全に過ごすため、ファシシュ教徒の巡礼者に身をやつしていた。
水鏡を使って離れた者と会話するのは私も始めての経験であり、この仕組みがどうなっているのか、いまひとつ私はまだ理解できていない。
しかし、もし前世の世界のテレビ通話やオンラインミーティング・アプリのように、こちらの姿が向こうに見えているのだとしても、あの時の私と今の私が同一人物とは、到底、思えないだろう。
みすぼらしい巡礼者だった私が、今では、きっちりと髪を結い上げ、化粧をし、貴族女性の装いに身を包んでいる。
たった一枚だけ、聖カトミアル王国から持ち出した一張羅のドレスだ。
“妃候補”と呼べるほどきちんと身なりを整えているわけではないが、あの時の私と今の私とでは雲泥の差がある。
「そなた、カーラと知り合いか?」
「ええ、アヴァロニア王国に向かう道中、男と魔物に襲われたことがありました。その時に、私の命を救ってくれたのが、この方……カーラだったのです」
ヴィネ様に問われ、あの時のできごとを簡単に説明する。
それを聞いていたカーラが驚いたような声を上げた。
「え!? あの時の、巡礼のお嬢さんなのかい?」
「はい、ご無沙汰しております。あの時は、命を救っていただき、ありがとうございました。あなたがいらっしゃらなかったら、アヴァロニア王国まで辿り着くことができなかったと思います。まさか、あなたがアヴァロニア王国の間諜を務めていたとは……驚きましたわ」
カーラは、レガン座という旅の一座を率いていると言っていた。
確かに、旅芸人の一座であれば、どこにでも出入りしやすい。宮廷や裕福な商家、村の祭り。どこにいても不自然ではない旅芸人の一座は、 間諜を務めるには、うってつけの職業ではある。
「驚いているのはこっちだよ。あの時の巡礼のお嬢さんが、どうして陛下のお側にいるんだい?」
「エレインは、私の“妃候補”だ」
ヴィネ様の言葉に、カーラはひゅうっと大きく息を吸い込んで、一瞬絶句した。
「え!? あんたが、陛下のお妃候補なのかい?」
目をぱちぱちと瞬かせた後、ようやく言葉を取り戻す。
「あ、いや、失礼……あたしってばダメだね。お妃候補なんだから、こんな言葉使いじゃあ失礼じゃないか。お妃候補で、いらっしゃるのですか――!?」
「え、いや、妃候補と言っても……」
ヴィネ様は私の反駁を制止する。
「まあ、そういうことだ。詳しい経緯は、またの機会に話すとしよう。カーラ、現在の聖カトミアル王国やローテルン大陸の情勢を教えてくれないか」
「かしこまりました。今、ローテルン大陸では、異端審問が盛んに行われていることを陛下はお聞き及びでしょうか?」
「ああ、今日、大陸から逃げて来たという医師から、話は聞いた。ひどい拷問も行われているらしいな」
「ええ……、そうなのです。拷問で命を落とす者もいれば、裁判で有罪とされ、見せしめのように村や町の広場で火刑に処される者たちもいます」
火刑の様子を思い出しているのか、カーラは、ひどく辛そうな表情を浮かべながら頷いた。
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