9 採用試験開始! と思ったらいきなりのトラブル勃発?
第一回採用試験は、城の中庭を利用して行われる。
試験開始の一時間も前になると、中庭には多くの人々が集まり始めていた。
試験が始まるまでの間、私はヴィネ陛下と共に、中庭の様子を見て回ることにした。
私はメイヴを供に付け、ヴィネ様はベルクをはじめとする小姓たちを護衛に引き連れている。
「いよいよですね。どんな人たちが集まっているのかとドキドキいたします」
「良い人材が集まってくれるとよいのだがな」
「ええ、ここまでの準備が報われることを期待しております」
そんな会話をヴィネ様と交わしつつ、中庭をゆっくりと歩いていると、突然、男女の激しい言い争いの声が中庭に響き渡った。
声は、兵士の試験会場付近から聞こえてくるようだ。
「あんた! 今、あたしのこと女だからってバカにしたわね。女だからできやしないって!」
「いや、そうは言っていないさ。ただ、『あんたは、そんなに美人なのに、なんでわざわざこんな危険な仕事に志願するんだ?』って言っただけだ。それだけの美女なら、嫁の貰い手なんかいくらでもあるだろう?」
「その言い方が、女をバカにしているって言っているのよ!」
「いや……悪い。ちょっと待ってくれ。誤解させたなら、悪かった。俺は、あんたがあまりにも綺麗だったから、その容姿を褒めたつもりだったんだがな。……困ったなあ」
「あ、の、ね、え。あんた、ちゃんと『おふれ』を読まなかったのかい? 今回、陛下は、生まれも性別も種族も関係なく、その能力如何で雇ってくださるって『おふれ』を出しているんだよ。あたしは、ちょっとばかし弓の腕に自信があったから、陛下のお役に立ちたいと思って、今回、志願したんだ。兵士に容姿なんて関係ないだろう? 違うかい?」
「いやあ……確かにそうだが。しかし、女のその細腕で槍が持てるとは思えないしなあ」
「そういう物言いを、差別って言うんだよ。陛下は、それをなくそうとしてくださっているんじゃないか! あたしは、別に騎士様になろうとしてるわけじゃない。あたしは、あたしにもできること、この弓の腕前で陛下に貢献したい、弓兵になりたいって言っているんだよ!」
前世の世界でも、よく問題になっていたジェンダーの問題。
そして、男性から女性へ「よかれと思って外見を褒めた」らセクハラになってしまった問題。もちろん、逆もまた然り。
どうやら、そんな問題が、今まさにここでも勃発しているようである。
「その騎士様の言う通りだよ、姉ちゃん。女のあんたに、兵士の仕事が務まるとは、俺にも思えねえよ」
「ああ、そうだな。悪いことは言わねえ。今から、侍女の試験会場に移動した方がいいぜ」
「そうだそうだ、姉ちゃんは美人なんだから、そうした方が絶対いいぞ」
試験を受けに来ていたと思しき屈強な男たちも先ほどの男性の意見に同調している。さらに女性を揶揄するような空気が、試験会場に広がっているようである。
この問題の対処が難しいのは、男たちには女性をバカにしている意識など微塵もないという点にある。むしろ「庇ってやっている」「褒めてやっているんだ」と、思って、男たちは発言しているはずだ。
罪の意識どころか、いいことをしているという意識を持って発言している男性たちに、女性の側の論理や思いを伝えるのは難しい。
この世界におけるこれまでの常識は、女性は子どもを産み、育てる者。
それを、先の「おふれ」をきっかけとして、急に変えようとしているのだ。
男性たちがまだその意識改革についてこられないからと、責めるのも酷なことだろうと、この件を推進しヴィネ様に進言した私自身も思う。
しかし、女性は男性たちの言葉にへこたれることなく、さらに反論を試みている。
「あんたたち、いい加減にしておくれ! そんなこと言ってて、あたしに弓の腕前で勝てなかったら、ただじゃおかないからね」
「おい、もうやめろ」
先ほどの男性が割って入る。
「なんだい、元はと言えばあんたが変なことを言い出したのがいけないんじゃないか!」
女性は再び、最初に揉める原因となる発言をした男性に喰ってかかった。
「あ……、この声は、まさか姉様」
「あ……、この声は兄上」
じっと彼らのやりとりを聞いていた、メイヴとベルクが同時に声を上げた。
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