10 ケリーとゴヴァンとの出会い
「あ、もしかして……! この前、メイヴが言っていた、弓が得意だというメイヴのお姉様?」
「はい、あの声としゃべり方はそうだと思います……姉のケリーかと」
「で、口論の相手がベルクの兄上ということなのかしら?」
「おそらく、あの声は、兄のものだと思います。私の兄ゴヴァンは、陛下の騎士を務めているのです。今日は、兵士の技術試験の試験官を担当すると言っておりましたので、おそらくあれは兄の声かと……」
ベルクは恐縮した表情を浮かべながら、俯き加減で答える。
ベルクの兄のゴヴァンと言えば、大団円ルートで、聖女ヴァレリー率いる光の騎士たちが、魔王を倒そうとアヴァロニア王国に攻め入った時、最後までヴィネ陛下を守ろうと孤軍奮闘する獣人の騎士である。
光の騎士たちから陛下をお守りするために、最後は、自ら盾となって立ちはだかる。
総身に多数の刀傷を受け、ジャンの槍で貫かれ絶命しても、まだ盾としてその場に立ったまま陛下を守り続けるという壮絶な最期を迎えるキャラだ。
聖女や光の騎士たちから見れば、ラスボス魔王ヴィネの前に立ちはだかる中ボスである。
アヴァロニア王国では、現時点でも既に高名な騎士のはずだ。
アヴァロニア王国を推す仲間内では、ゴヴァンのファンも多かった。
筋骨隆々とした、がたいのいい、ワイルドなイケメンだ。
確かに、弟のベルクのような繊細さは持ち合わせていないキャラだったように思う。しかし、その野性味溢れるいかにも軍人といった感じの無骨な雰囲気も魅力のひとつだった。
ワイルドではあっても、決して粗野、粗暴な人物ではなかったはずだ。
それなのに、そんなゴヴァンとの初対面がこのような形──セクハラまがいの発言をしている現場──になろうとは、想像もしていなかった。
私が、内政改革という形でシナリオに介入することで、少しずつこの世界に変化が起きているのだろうか。
しかし、人気のゴヴァンにまさかのセクハラ発言をさせる展開となってしまうとは──内心、申し訳ない気持ちでいっぱいである。
変化といえば、光の騎士対魔王軍のラストバトルでは、アヴァロニア王国軍に女性の兵士は一人もいなかった。
それなのに、女性であるケリーが弓兵になろうと志願して試験を受けに来ているということは、このまま行けば、私の知っていた結末とは違うルートが生じる可能性がある。
もちろん、聖女と光の騎士たちが攻めて来ないルートを生じさせるのが最善の策ではある。
しかし、これまで存在しなかった新たなルートを発生させる可能性が見えてきただけでも大きな光明だ。
婚約破棄と断罪は、どうやっても避けられないルートだった。
しかし、悪役令嬢として既定の役割を終えた私が、ゲームの表舞台から退場したことになっている今。
今後は、私の行動次第で、世界線を変えることができるのかもしれない。
少しばかり希望が見えてきた。
そんな感慨に浸っていた私は、ヴィネ様の声によって、現実に引き戻される。
「ゴヴァンが兵士の試験官を担当しておるのか。ちょっと様子を見に行ってみよう」
「はい」
ヴィネ様の提案に頷くと、私たちは言い争う声がする方へと近付いて行った。
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