26 まずは皮を剥き、芽を取るのです 1 え、ヴィネ様と農村でスローライフですか?
「それでは、あの……どなたか皮剥きと、芽を取るのを手伝っていただきたいのですが……」
野菜の皮剥きが苦手な私は、今回は無理せず、誰かに手伝ってもらおうと声を掛けた。
しかし、なかなか「手伝う」と声を上げてくれる人物は現れない。
先ほど、セパルはジャガイモが“悪魔の果実”と呼ばれていると言っていた。
触るだけで毒が回るわけではないのだが、そのような誤解をしている者も多いのだろう。
「忙しい時に悪いが、誰かエレイン嬢を手伝ってはくれないだろうか?」
セパルも声を掛けるが、誰も名乗り出ようとはしない。
荘園の主であるセパルの命に諾と従わないとは、そこまで皆、このジャガイモを恐れているというのだろうか。
「それは真に毒ではないのだな?」
「はい、芽に毒はありますが、触るだけで毒にやられるということはありません、陛下」
「だ、そうだ。聞こえたか? 腑抜けた者ども。私がまず手本を見せねばならぬか?」
ヴィネ様は、ジャガイモの山から中ぐらいの大きさのものをひとつ選んで取り上げると、懐から小刀を取り出し、ジャガイモに刃を当てた。
(ちょ、ちょ、ちょっと、待って~!! ヴィネ様……! 一国の君主が、ジャガイモ……剥いてくださるのですか!?)
「へ、陛下!」
「馬車の中でそなたの話を聞いて、そなたのことは信頼に足るものと判断した。そなたが、『触れても大丈夫』と言うなら、大丈夫なのであろう。違うか?」
「い、いえ。私は嘘など申してはおりませぬ。ですが……」
「ならば、何も問題はない」
ヴィネ様は、躊躇うことなくジャガイモに小刀の刃を入れた。
「では、私も……」
セパルも、当然、主君の行動に倣う。
農民たちの間にざわめきが広がった。
おそらく、ヴィネ様は自らが手本となることで、触っても毒ではないということを皆に伝えてくれているのだろう。
しかも、私を信頼してくれた上での行動だ。
先ほど、私を庇ってくれたことと言い、予想もしなかったヴィネ様の行動に、頬が熱く火照るのを感じる。
しかし、嬉しさを覚えると同時に、一国の君主がジャガイモの皮を剥くという、あまりに庶民的で、君主に似合わぬミスマッチな絵面を目の当たりにし、思わず吹き出しそうになってしまう。
これが、ラスボス。
これが、聖カトミアル王国や聖女たちに恐れられる「魔王」なのかと。
笑いを堪えている私に、ヴィネ様は質問を投げかけた。
「さっき言っていた、芽というのはどれのことだ」
「あ……そ、その、くぼんだところに生えている小さな突起物が、ジャガイモの芽です。それをくりぬくようにして、取り去るのです」
私も懐から、小刀を取り出し、ジャガイモをひとつ掴む。
「これです、これが、ジャガイモの芽です」
不器用ながらも小刀で、ジャガイモの芽を取って、ヴィネ様とセパルに見せた。
「芽は、結構深いところから生えている場合もあるので、表面に見えているところを取り去るだけではなく、えぐるように取り去った方がいいかもしれません」
「こうか?」
ヴィネ様が、私の真似をして、ジャガイモの芽を取った。
「そうです、それで大丈夫です」
「これで、よろしいでしょうか?」
セパルも私とヴィネ様を真似るようにして、芽をえぐった。
「はい、それで大丈夫です。皮は、実は剥かなくても、よく洗いさえすれば、そのまま食べることができます。毒となるのは、芽の部分だけなのです。ただ、今回は泥がついているので、皮も剥いていきましょう」
ジャガイモの皮に刃を当てて、ゆっくりと皮を剥く。
ヴィネ様とセバルも続いた。
一国の国王と宰相──彼らにとってはご領主様である──が、ジャガイモの皮剥きと芽を取る作業に没頭するのを見守っていた民たちは、
「お、恐れ多い……」
「私たちも……」
と、口々に呟きながらジャガイモの山へと向かっていった。
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