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歪んだ世界の終幕  作者: 黒星 落
Chapter2『葛藤』
36/40

scene16『帰ろう』

第四弾です。


『カケ兄、それなに?』


 いつもと違う、漆黒の衣装に身を包み、白黒の仮面で顔を隠した兄の姿が、格好良くて。


『僕は、【怪盗】なんだ』


 【怪盗】という言葉が、とても似合っていると思った。


『【怪盗】!? すごい、ボクもやる!!』


 自分も、あんな風になりたくて。


『サラちゃんには、まだ早いかな~』


 兄の衣装を整えていたいじわるな姉が、笑って言うのが悔しくて。


『えー。やるもん! カケ兄、良いでしょ?』

『大きくなったら、いいよ』


 仮面越しでも、苦笑しているのが分かったけれど。


 良いと言ってくれたのが嬉しかった。


『ほんと!? 約束だよ! 一緒にやろうね!』


 でも、急に不安になって。


『ボクに上手く出来るかな?』

『出来るさ。僕の妹なんだから』


 そう言って、黒い革手袋ごしに、頭を優しく撫でてくれた。


 その姿に憧れて。


 いつか、隣に立つのだと夢を抱いた。


 二人とも今よりもっと小さかった頃。


 大切な、想い。


     ◇


自分が何をしたかったのか、もはやサラには分からなくなっていた。そんな些細な悩みなど、とうに見えなくなっていた。彼女の【歪み】は、彼女の小さな身体には大きすぎた。もしかしたら、世界そのものを踏み潰せるほどに。


『ツブス、ツブス、ツブス……』


 真っ黒な靄が、サラを押し潰そうと視界を埋め尽くしていく。


『コンナチッポケナ世界ニハ、ボクダケデ充分ダ……』


 本当にそうなのだろうか。そんな自問も、一瞬で【歪み】に押し潰される。


『ボクガ一番ナンダ。ボクヨリスゴイ奴ナンテ、ボクヨリデカイ奴ナンテイナイ……』


 ――違う! ボクより凄い人を、少なくともボクは二人知っている!


 叫ぶ声は、闇に吸い込まれていく。


『ミンナ、居ナクナッチャエ』


 そんなこと、思っていないのに。大好きな人と、一緒に居たいのに。


 サラの小さな意識が、完全に消えそうになったとき。


 ――ちゃん。サラちゃん。


 深い闇の中で、懐かしい声が響く。


 ――助けて! ボクはここにいるよ!


 自分を押し潰そうとしていた黒い靄を押しのけて、必死に叫ぶ。


 すると、暖かいものが胸に広がって、急速に【歪み】が小さくなっていく。


「……?」


 気がつけば、抱きしめられていた。


「ほーら、お姉ちゃんだよ~」

「ニスイ、姉……?」

「うんうん、そうだよ~」


意識がはっきりすると、周りが良く見えるようになった。初めて見る、【怪盗】衣装の姉の姿。仮面越しでも分かる、いつものにやけ面があった。少し離れたところに、同じく【怪盗】姿の兄が居た。


「あれ、ボク、どうして……」

「全く~。お姉ちゃんに内緒で予告状を出すなんて、後でお説教だからね~」


 ぺし、とデコピンされたが、


「ほんとに、馬鹿な子なんだから」


 そう言って、強く、強く抱きしめられた。その身体が震えているのが、どれだけ心配してくれたのかが、伝わってきて。


「ごめんなさい……」


 サラは泣きながら、そう言って姉の胸に顔を埋めた。


「ここは危ない。早く帰ろう」


上を見上げていた兄が、そう言った。それがいつもより優しく聞こえたので、素直に頷く。


「【X】、いけそう?」

「ここまで落ち着けば、なんとか」


兄が寄ってきて、いつかと同じようにサラを撫でた。


「帰るぞ。お前は寝てていい」


言われて初めて、眠いことに気づいた。姉の胸が心地好くて、サラの意識は再び闇に落ちていく。先ほどまでより、よっぽど暖かい場所に。


「さて、こっちはなんとかなったけど~」

「【メインディッシュ】を、人殺しにはさせない」

「だね~」


 薄れゆく意識の中で、そんな声が聞こえた。


あと一本!

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