scene4『夕暮れの戦闘』
本日5本目です。できたてほやほやです。異能バトルタグが輝く……!!
商店街で暴れていたのは、二人の少年だった。
「おら、どけぇ! 斬り刻んじまうぞぉ!」
ボンタンの少年がゆらゆらと歩くだけで、鎌鼬のようなものが発生し、辺りを縦横無尽に斬り刻む。
「我が力の前にひれ伏せ! 来たれ、天界の雷……!!」
眼帯の少年が右手を翳して妙な呪文を唱えれば、その手から雷が放たれ、地面を穿った。
昼日中の商店街で突如始まった凶行に、人々は逃げ惑う。
駆け付けた警官隊に身分を明かし、市民の避難誘導を任せた継人は、自ら二人の前に躍り出て、その攻撃に身を晒していた。
「おらおら、どうしたぁ、おっさん!」
「我が力の前には、抵抗など無意味……! 来たれ、天界の雷……!!」
「ちっ」
鎌鼬を半身になって避け、ボンタンの少年に近付こうとするも、横合いから放たれた雷撃に後退を余儀なくされる。
先程からこれの繰り返しだった。
二人の少年は、仲間というには連携がとれておらず、現に今も、
「あっぶねぇな、当たるところだったじゃねーか!」
「ふっ、我が力は有象無象の区別なく、全てを穿つのだ……!」
「制御出来てねぇだけだろうが! この厨二野郎!」
「凡人には理解出来まい……!」
「あ゛ぁ゛!? てめぇから斬り刻むぞ、コラ!」
などと口論している。
拙く、【歪み】に任せてそれぞれが好き勝手に破壊を撒き散らす。
たったそれだけであるが、ろくな装備もない今の継人には、十分に脅威であった。
幾度かの攻防の中で反応が遅れ、僅かにだが雷撃を受けており、徐々に腕が痺れてきていた。眼帯の少年の雷撃は、常人であれば、かすっただけでも即動けなくなるほどのものであるが、痺れているだけで済んでいるのは継人の【歪み】のお陰だった。いや、反応が遅れているのも【歪み】のせいであるため、プラマイゼロというべきか、ジリ貧な今の状況を招いたという点ではむしろマイナスであった。
――相性が悪いな。倒せなくはないが、丸腰では少々面倒だ。だがまぁ、こうして時間を稼いでいれば。
そこに。
「【チーフ】!!」
【消音装置】が誇る、切り札が現れた。
◇
「あん……?」
「……!!」
現れた少女に、二人の少年は息を飲んだ。それが余りにも、この場には似つかわしくない美少女であったから。だがその眼差しの冷たさ、身に纏う覇気は、彼女がただの美少女ではないと、二人の少年に感じさせるには十分であった。
「へぇ、えらく別嬪じゃねぇか。今度はあんたが相手をしてくれるってか?」
どうにか平静を取り戻した内心をごまかすように、ひゅう、と口笛を吹きながら、ボンタンの少年が口角を上げる。
「お前は……!」
「あ? 厨二野郎、なんか知ってんのか?」
「あれは我が前世において魂の契約をした……我が半身……」
「はぁ?」
傍らの眼帯の少年が、紗麓を見つめ愕然とした表情をしたまま言った言葉に、ボンタンの少年は間の抜けた声を上げた。
「探していたぞ、我が半身!」
そんなボンタンの少年には目もくれず、眼帯の少年は叫んだ。
紗麓は怪訝そうに眉を上げると、
「何を言っているのか分からんが……私は織目紗麓、世界政府平和維持同盟直属の対極度歪能力犯罪部極東方面対応班、通称【消音装置】の【探偵】だ。器物破損、傷害、公務執行妨害……捕らえるには十分だな」
「【消音装置】ぁ?」
「く、まさか、奴らの手先だというのか!」
「お前、知らねーだろ!」
真顔の紗麓は、冗談を言っているようには見えない。世界政府などという、予想だにしない大物の登場に、二人の少年は戦いた。
そんな二人をよそに、紗麓は片耳に手を当て、どこかとやり取りするように、呟く。
「【連絡手】。現地警察からの要請は?」
――確認済みだよん。
「了解。要請に基づき、【歪みを生む者】として貴様らを処理する」
処理。その言葉の持つ冷たい響きと、紗麓の眼差しの冷たさに、二人の少年はいよいよ焦燥した。
「織目。鎌鼬と、雷撃だ。それ以外にも何かあるかもしれんが、一応伝えておく」
「了解した。まぁ、一度見れば分かるだろう」
それだけやり取りすると、継人はこの場は紗麓に任せれば十分だというように、警官隊の包囲網の方に下がっていく。
それを横目で見送ると、紗麓はその冷たい眼差しを二人の少年に向け、構えをとった。
「く、俺が分からないのか……まさか、既に奴らの手が回って……!? 待っていろ、俺が洗脳を解いてやる!!」
「あー、要するに一目惚れってことか……」
眼帯の少年が何かを叫ぶのに対し、ボンタンの少年が呆れた半目を向けた瞬間。紗麓は一気に踏み込んだ。
「っと、早えな! おら!」
狙われたボンタンの少年は、慌ててバックステップを取りつつ、着地するやいなや半歩踏みだし、肩を突き出した。
「む……」
紗麓はその妙な動きに僅かに目を細めると、身を捻る。風が身体の横を通り抜けるのを感じた。
「俺を信じて、抵抗しないでくれ……えーっと、エリス!」
「あ、今考えたな」
「来たれ天界の雷!」
入れられたツッコミをかき消すように、眼帯の少年が右手を突き出しながら叫ぶ。放たれた雷撃は、後方に跳躍した紗麓には当たらない。
――鎌鼬と、雷撃か。
「和!」
紗麓が叫べば、後方で今のやり取りを見ていた和は、頭の中を探るように、額に指を当てた。
「鎌鼬と雷撃、ね。【歪み】解放。【フラッシュバック】……【図書館】照合、類似案件該当あり。カテゴリーB、単身の【歪み】としては中々だけど、現在の装備でも十分対処可能だよ」
「了解。見た目通りのチンピラか。制圧に入る」
紗麓はそう言って、ここに駆けてくるまでに腰につけていたホルダーから、特殊警棒を取り出した。腕を振るえば、しゃきんと乾いた音を立て、刀身が伸びる。
今度は左手で懐から棒つき飴を取り出すと、がりっ、と一部を噛み砕く。
「【歪み】解放……【鑑定】」
言葉と共に、紗麓の視界が色褪せ、世界がスローになる。
この瞬間にも攻撃がくるかもしれない……全てを疑う自らの【歪み】の制御を僅かに解放することで、警戒心を最大限にし、極度の集中状態に入った彼女の目は、視界内の一切を見逃さない。
紗麓の様子が変わったのを隙と見たか、あるいは焦りを覚えたか。
「く ら え」
全てがスローモーションになった紗麓の視界の中で、ボンタンの少年が肩を僅かに後ろに反らし、前に出す。すると、ふわり、と前髪が不自然に揺らぎ、砂が巻き上がるのが見えた。徐々に手前手前の砂が巻き上がることにより浮き出る線は、紗麓の方に向かうものもあれば、明後日の方向にも伸びていく。
紗麓は前のめりになりながら、僅かに身体を捻り、最小限の動きでその風を躱しながら、すり抜ける。
「深 遠 な る 闇 よ り 来 た り し 天 界 の 雷 !!」
――深遠なる闇から天界の雷が来るとは、どういうことだ?
眼帯の少年が右手をこちらに向けながら唱えた呪文に疑問を抱きながら、右手の先から放たれた雷撃を大きく前に飛んで躱す。流石に雷撃だけあって、今の紗麓の視界の中でもそれは瞬時に着弾するが、しかし紗麓は右手を向けられた時点で攻撃を疑い回避に入っていたため、当たることはない。
全く無駄のない紗麓の動きから、自分たちの【歪み】が完全に見切られたことを悟り、ボンタンの少年は大いに焦りを覚え、再度一歩前に出ながら風を生むも、紗麓はするりと避けてこちらに駆けてくる。
「くそ、なんで当たらねぇ!」
「無駄だ。貴様の【歪み】は、既に見切った」
その言葉どおり、ボンタンの少年が後ろに下がっては放つ風の刃を、紗麓は僅かに身体を捻るだけで避け続け、どんどんと距離を詰めていく。その間にも眼帯の少年から雷撃は放たれているのだが、紗麓は全く取り合わない。
いよいよ、あと数歩の距離まで追い詰められ、
「勝手に……見下してんじゃねーぞ!」
ボンタンの少年が一歩前に出ようとすると。
ぴたり、と紗麓が少年の肩に手を当て、その動きを止める。
風は、生まれなかった。
「ふむ。やはり、か。貴様の風のトリガーは歩くことだな? いや、正確には歩きながら肩を突き出すことか。【肩で風を切る】……といったところか。ならば歩き出す前に止めれば済むことだ」
「なっ……」
目の前に迫った、ぞっとするほど、冷たい眼差し。自らの【歪み】を言い当てられ、ボンタンの少年は絶句した。
次の瞬間、掴まれた肩を支点に一瞬で背後に回り込んだ紗麓は、少年の首筋に警棒を叩き込み、その意識を刈り取った。
「なっ……! く、滅せよ、天界の雷……っ」
相棒――というほど親密ではないが、共に行動していたボンタンの少年が倒されたのを見て、眼帯の少年は頬を引きつらせながら呪文を唱え雷撃を放ったが、当たらない。
「貴様はその妙な呪文がトリガーだな。長さによって、微妙に威力が異なるらしいが……手からしか出せないのであれば、避けるのは容易いことだ」
そう言って、駆け出そうとする紗麓に、眼帯の少年はばっと手を掲げた。
「無駄だと……」
「くく……我が力がこれだけだと思っているのか?」
怪訝な顔をする紗麓に、眼帯の少年は不敵に笑う。
掲げた右手で左手の眼帯を掴むと、それを取り払った。
「我が邪眼の虜となれ!」
「……?」
彼が邪眼と称し、常は眼帯で隠している左目は、それを見た相手に強烈な暗示をかける。
――俺が貴様の主だ!
と。
深層意識まで作用を及ぼす強烈な暗示は、初見の相手であれば確実に支配できる。
少年は勝利を確信し、口角をつり上げた。
だが。
「うるさい」
一蹴。
他人の言葉を信じたりしない紗麓に、洗脳の類いは一切通用しないのであった。
「で、終わりか?」
半目でこちらを眺める紗麓に、少年はいそいそと眼帯を付け直すと、不敵な笑みを浮かべたまま、項垂れて首を振った。
「悲しいものだな、前世で結ばれし我が魂の片割れと、こうして戦わなければならないとは……!」
「貴様の妄想に、付き合ってられるか」
紗麓は、一息に眼帯の少年に迫り、首筋に警棒を叩き込んだ。
「何故だ……エリス……」
眼帯の少年が倒れ込む。
「エリスって誰だ」
意識がないことを確認しながら、紗麓は呟くのであった。
◇
「お疲れ、紗麓」
戦闘が終わったと見て、和が近づいてきて労うと、紗麓は口を尖らせた。
「ふん……これならわざわざ私達でなくても良かったのではないか?」
「まぁまぁ。じゃ、拘束するね」
和が取り出したのは、特殊な【歪み】を発生することでつけたものの【歪み】を抑え込む、特注の手錠だ。
しゃがみこみ、それをつけようとすると。
「流石というべきかしら、【消音装置】さん?」
そんな声が、響いた。
「誰だ!」
他にも仲間がいるかもしれないと疑い、辺りを警戒していた紗麓は、しかしいつの間にか辺りに立ちこめていた霧にも、その少女の出現にも、気付くことが出来なかった。
そこには、いつの間にか少女が立っていた。
輪郭がぼやけ、はっきりと視認できない。唯一明確に分かるのは、花のような淡い香りと、口元の黒子だけ。
「何か忘れてると思ったら、貴女たちのことだったわ。この子たちには悪いことをしたかしら……いえ、最初から貴女たちの対応力を見たかった、ってことにしときましょうか」
少女はそんなことを呟くと、曖昧に微笑んだ。
「何者だ。こいつらの仲間か?」
「さぁ、なんでしょう?」
くすくすと、笑い声が響く。目の前にいるはずなのに、上から、横から、後ろから。周囲に立ちこめる霧の全てから、聞こえるようだった。
不気味。
その印象は、紗麓にある存在を連想させた。
――こいつは、まるで。あの、【怪盗】のような……!!
「ひどいじゃない。その子たちは、歪みが抑えきれなくて、仕方なく暴れただけなのよ。こんな世界だもの、そのくらいは許して上げても良いじゃない?」
「ふざけるな。そんなことを認めては、社会の秩序が滅茶苦茶になる」
【鑑定】は、そう何度も使えない。それでも紗麓は警戒心を出来るだけ高めながら、警棒を握りしめた。
「社会、ねぇ。果たして今の社会がまともなのかしら。【歪み】を隠して、普通の人間の振りをして、仲良しごっこをしてるだけ。歪じゃない?」
「うるさい……!」
「あら、意外と度量が狭いのね。心当たりでもあるのかしら。ねぇ、【歪み】を持って【歪み】を正そうとする、歪な正義の味方さん? 貴方たちと私たちで、一体何が違うというの?」
「黙れ!」
好き放題言われて激昂した紗麓が、朧気な人影に向けて警棒を振るうも、返ってくるのは空を切る感触だけであった。
「【曖昧猛攻】」
「がっ……!!」
一瞬で、全身に、全方向から殴られたような衝撃と痛みに、紗麓の身体が硬直する。何が起きたのか分からず、紗麓は膝を突いた。
「ま、この子たちも満足したでしょうし、貴女たちと遊んでもつまらなそうだわ。ここは退きましょうか……またね、歪な【探偵】さん」
「ま、待て……!!」
言葉と共に、霧が晴れていく。やがて霧がすっかり晴れると、そこには、謎の少女はおろか、ボンタンの少年も、眼帯の少年も居なかった。
「逃がした……くそ!」
紗麓は地面に拳を叩き付けた。
「紗麓! 大丈夫?」
和が慌てて駆け寄り、紗麓の肩を支える。
「カテゴリーA……厄介なのが多いな、この町は」
継人は霧が消えていった空を睨む。
和に助け起こされながら、紗麓は立ち上がった。痛みはあるが、特に怪我はない。
手加減されたという事実、それでも手も足も出ずにまんまと取り逃がした悔しさに、歯噛みする。
『貴方たちと私たちで、一体何が違うというの?』
少女の声が、脳裏に響いていた。
今日はここまでです。
久々のバトルシーンですが、紗麓TUEEEになってますでしょうか。和音のせいでそうでもない?
チーフが弱そうになっちゃったなぁ。
ここが厨二:クロックアップ(動きは速くなりません)
天界の雷の読みは募集しています。




