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歪んだ世界の終幕  作者: 黒星 落
Chapter1『怪盗、探偵、平凡』
15/40

scene14『配役』

毎日0時前後の通常更新に戻ります。


「せんりっち、あんたを撃墜王(エース)に任命するよ」


 放課後、視聴覚室。紗麓と二人で入ってきた旋律を、由香里が妙に芝居がかった神妙な顔で出迎えた。


「なんですか、急に……」


 旋律が半目で問えば、


「シャロっちをやる気にさせただけでなく、さらにもう一人引っ張って来るなんて……いやぁ、部員の意識が高いと、部長としては鼻が高いね」

「シャロっち……」


 自分のあだ名に戸惑う紗麓の横で、由香里がうんうん頷いて目線を送る先には、壁際に一人佇むカケルの姿があった。


「あ……」


 ――本当に来てくれた……。


 自然と顔が綻んだ旋律に、由香里はニヤニヤしながら顔を近づけた。


「で、心在クン……だっけ? せんりっちの彼氏?」

「ち、違いますっ。幽霊部員だったので出てくれないかと頼んだけですっ」


 旋律は慌てて否定した。からかわれているだけだと分かってはいても、焦るものは焦るのだ。


「幽霊? あぁ~、昨日シャロっちが言ってた奴かぁ。幽霊部員がいたなんて、不覚だよ。部員名簿はちゃんと確認してたハズなんだけどなぁ……おーい、心在クン、だっけ? 自己紹介しちくれぃ」


 由香里がカケルに声をかける。カケルは無言で頷き、目だけでさらっと部員を見回すと、


「1年C組、心在カケル……です」


 と、短く呟いた。


 とんでもなく無愛想だった。何かにつけて騒ぐ部員たちも、思わず沈黙してしまう。カケルはこれまで顔を出していなかった手前、少し緊張してるのかもしれない、と旋律は思ったが、初見の演劇部員たちではそんな機微がわかるはずもない。


 さしもの由香里も冷や汗ものだった。


「えぇっと……そんだけ?」

「他に何か」


 言うべきですか、という質問なのだろうが、感情を削ぎ落としたようなローテンションで言われては、突き放したように聞こえる。不機嫌そうに見えても仕方がなかった。


「カケルっちは……演劇に興味は?」


 恐る恐る、といった感じで由香里が聞く。カケルは何故かちらっと旋律を見てから、


「興味はあります。それなりには。()()()()()、演技は無理です。人手として使って下さい」


「あー、うん、なるほど……」


 見ての通り、という言葉に一同はいやに納得させられる。ここまで言葉を発するため以外にはぴくりともしなかった――それすらほとんど動きがない――彼の表情筋を見れば、それが舞台の上で色んな表情を作る様子はとても想像出来なかった。


「まー興味があって、これからは来てくれるんなら、それで良いや。オッケー、こちとら来る者拒まず去らせず逃がさずの演劇部。よろしく頼むよー」


 由香里は若干引きながらも、そうまとめた。カケルも頷くと、部員たちから控え目に歓迎の拍手が送られた。とりあえず不機嫌なのではなく、それが彼の“素”なのだと分かれば、付き合いようもある。その辺りは大らかさが売りの――これは“良く言えば”であり、実際の周囲からの評価は“変人揃い”とか“ノリで生きている”といった所の――演劇部員ならではの対応と言えた。


「うん、じゃみんな集まってー……るね、よし。んじゃー部会始めるよー。の前に、新顔も三人増えたことだし、メンバー確認しとこうか……」


 そういう流れで、部員それぞれの自己紹介と相成ったのだが、これが実に微妙な空気を醸した。紗麓と和にとってはおさらいだが、カケルにとっては初めて見る人間ばかりだ。顔と名前は早めに一致させておこうと、一人一人の自己紹介をそれぞれの顔をじっと見ながら聞いていたのだが、見られる当人にしてみれば、とてつもなく居心地が悪い。何しろほとんど瞬きもせずに見つめられるのだ。ガン見と言っても良い。そういう訳で、演劇部員はいつもの調子が出せず、しかし客観的には当たり障りのない自己紹介となった。逆に部員たちにはカケルが強烈に印象付いたことは、彼にとって良かったのか悪かったのか……。


 ともかく、そんな妙に緊張感のある自己紹介が一通り終わり、再び由香里が前に出た時、部員たちは僅かばかりほっとしていた。


「よしよし。3人も増やせたし、文化祭まで時間もない。これ以上は引っ張れないから、これ以上のメンバー加入は一応、打ち切りとします。良いね、みんな」


 一同、頷く。


「台本はこないだ出した、ニョラの奴で行きまーす。せんりっちが珍しく猛プッシュした奴だしねー。アタシも良い出来だと思うよ」


 由香里に意地悪げな顔で自分のことを言及されて、旋律は赤面した。


「つーわけでー、監督・演出はニョラに任せるから。以下、文化祭終わるまで司会進行はニョラに委任しまーす。みんな拍手!」


 パチパチと拍手に迎えられ、女良が前に出る。


「どおも、任されました竜牌女良っす。アタシが監督になったからには、ガチで厳しくやっから、そのつもりで。その代わりアタシの演出に文句あるときは、先輩だからって遠慮すんな。アタシもみんなのアイデアやキャパシティは全部引き出して使いたいからな。台本は……行き渡ってるな、よし。今回の話は使い古された脚本のアレンジだけど、だからこそマジでやったらスゲー良い舞台になると思う。一昨年復活させたウチの部を、ここで完全に軌道に乗せたいと思ってっから、そこんとこよろしく」


 ヤンキーっぽい話し方だが、そこに込められた熱は本物。自然、場の空気も引き締まる。そんな雰囲気を確認し、女良も満足そうに頷く。


「うっし、んじゃーまずキャストと裏方だけど、ユカたちと話し合って、メインは下級生で固めることにした。次代に引き継ぐ意味でもな。このタイミングで花形が二人入ったから、ウチらが脇役回っても舞台のレベルは問題ねーと判断した。んで、そのキャストだけど……おせん」

「はいっ!?」


 女良に鋭い目で呼ばれ、旋律は飛び上がった。


「お前主役。ヒロインな」


 なんでもないことのように言われ、しかし彼女にとってあまりに衝撃的なその言葉に、旋律の思考が止まった。


「えっ……え?」


 何を言われたのか、どこかに出かけてしまった脳が理解するまで、しばらく間が必要だった。


「あ゛? ヤなの?」


 女良が端からはどう見てもカツアゲしているチンピラにしか見えない半目を向けると、ようやく旋律の意識が帰ってきた。


「い、いえ! い、良いんですか?」

「三年の総意だ。おせんが今んとこ一番役に入れてるからな。昨日のを見て確信した。まー演技はまだまだお粗末だが、それは本番までにアタシたちがなんとかしてやる。全力でやれ」

「は、はいっ」

「みんなも良いな」

「「異論なーし」」

「旋律なら大丈夫だよ!」


 部員から次々と賛成、応援の声をかけられ、旋律は嬉しさで天にも昇る気持ちだった。無意識にカケルの方に目を向けると、彼が頷くような仕草を見せるのが分かった。


 女良はそれらの反応をしばらく満足げに眺めてから、柏手を一つ打って皆を黙らせ、配役の発表を続けた。


「んで、助役の【怪盗】役だけど、ここは舞台映え優先で都村。イケメンだし意欲もあるからな。んでそいつを追い詰める【探偵】は――織目」

「お」

「紗麓が!? すごい!!」

「は……?」


 和が意外そうながらも嬉しそうに、旋律が自分の時よりも大きな喜びの声を挙げ、部員の面々がその大胆な抜擢に驚く雰囲気が伝わってくる中で、紗麓は先ほどの旋律のように何を言われたのかすぐには飲み込めないでいた。


「ま、男役だけどイケるだろ。そこらの男よりよっぽどイケてるし。おせんはこの美形コンビに存在感喰われねーようにな」


 そんな周りの反応には取り合わず、女良はつらつらとそうコメントした。


「はいっ! お二人とも、よろしくお願いします!」


 俄然気合いが入ったというように、旋律は声も高らかに二人に向かって勢いよく頭を下げた。


「こちらこそよろしく、詩涌間さん」


 和は大して動揺した様子もなく、旋律に会釈してみせるが、


「ちょ、え……?」


 紗麓は未だ唖然としていた。それはせっかく演劇部に入ったのだから、いずれ何らかの役が出来れば良いとは思っていた。しかしこんなに急に、しかも主役級の役、それも男役、よりにもよって【探偵】役を与えられることになるとは思いもよらなかった。どう考えても唐突すぎると思えば、


「竜牌女史っ」


 そう声を張り上げて女良に対して自分の見解を述べようと思うのも、無理はなかった。


「女史とはまた古風な……どうした」

「役を貰えるのは嬉しいのだが、私はその、演劇など初めてだし、そんな重要そうな役は……」


 紗麓が慌てているのを後ろで見ていたカケルは、教室でもそうであったが、冷静沈着なイメージのあるあの【探偵】からは想像もつかないその様子が意外で、本人には悪いが面白いものを見ている気分だった。


「いや、大丈夫だろ。アンタが演じやすいように脚本の方いじっからさ。その辺は考えてるよ。それにな、主役脇役はあるけど、要らない役なんてねーんだ。どれも大事で、手を抜いて良い役なんてない」

「それは、そうだろうが……それでもまだなんのノウハウもない者を主役に使うなど……少し無茶ではないだろうか……他にやりたい者もいるだろうし……」

「まぁな。しかし下世話な話、アタシたちにしても、“噂の転入生”捕まえといて端役には当てられねーんだよ。苦情が殺到すらぁ。大丈夫、アンタ美人だから、素でやっても客は沸くと思うぜ。もちろん、さっきおせんにも言ったとおり、アタシは学祭までにそれなりのレベルに仕立ててやるつもりだ」

「………………」


 部員たちは女良の言葉に「確かに」とうんうん頷いて各々納得した様子。紗麓はまだ何か言いたげだったが、和が割って入った。


「僕は何も役じゃなくても、何でも与えられた役割を頑張るつもりでしたけど、この大抜擢は“そういうこと”、と捉えて良いんですかね?」

「あぁ、そーゆーこった」

「合点承知。【怪盗】役、拝命いたしました」


 和が早速、芝居掛かったお辞儀をすると、どっと部員たちの拍手が沸き起こった。


 【チーム】外で接して初めてわかったことが、和の順応性の高さだ。こういう場にすぐに馴染めるのがいかにすごい事か、紗麓は学校という場に放り込まれなかったらわからなかっただろう。


「んで織目は……まだ納得いかねーか?」


 皆の視線が集まる。誰もが期待に満ちた目だ。新参者の自分が重役をやって嫌な気分になる者はいないのだろうか。答えられず顔を曇らせる紗麓に、女良はやれやれと肩をすくめ、


「チッ、また昨日みてーなことにならねーように、ハッキリさせてやろう。おいオメーら、織目を脇役にしといた方が良いと思うか!」


「そんなのもったいない!」

「イケメン探偵見たい!」

「ってか織目さん脇において自分が主役とか、居たたまれない!」

「怪盗と絡ませたい!腐的な意味で!」


「無理だと思うか?!」


「絶対出来る!」

「大根でもアタシよりマシ!」

「ビジュアル的に出るだけで絶対客受けするし!」

「悔しい……でも惚れちゃう!」


 ノリの良すぎる掛け合いに、紗麓を否定するような雰囲気はどこにもなかった。


「オメーら、古株としてプライドはねーのか……でもまぁ、どうだ”オリ”。これでわかったろ? 誰も反対しねーよ。遠慮せず調子乗っとけ」


 それまでと違う呼び方は、紗麓を部の一員と認めればこそ。女良のその意図を正確に読みとれるほど、紗麓はまだ他人の心の機微に聡くはなっていない。だが、言葉の裏にある思いが全く分からないほど、他人を知らない一昨日までの彼女でもなかった。


「そこまで言ってくれるなら……わかった。どこまでやれるかわからないが、微力を尽くさせてもらう」


 紗麓がついにそう言うと、すかさず拍手に包まれた。他人の心を信じられる訳ではなくとも、悪い気分ではなかった。


「んじゃ、残りのメンツだけど……キャストも出番ねー時は音響、照明、舞台装置については交代でやっから。この人数だしな。残りの配役と配属は、このペラ紙参照な。ユカ」

「ほいほーい」


 由香里が部員にプリントを配り歩く。

 カケルも貰うが、当然そこに自分の名前は無かった。


「女良先輩」

「あん?」

「あの、心在君は……」


 特に合図を送った訳でもないのに、誘った手前責任感を感じたのだろうか、旋律がカケルの代わりに尋ねてくれた。


「あぁ、そうだったな。まぁどうしてもってなら役を作れない訳じゃないんだが、お前演劇の経験は……って、さっき無理とか言ってたか」

「はい」


 小さく横に首を振りながら否定を肯定する。


「んだよ、男ならでかい声出せや。じゃあ裏の仕事全部覚えさせて、遊撃に回すか。特に記録頼むわ。雑用じゃねーぞ。舞台をやるには裏方も立派な仕事だ。それで良いか?」

「はい」

「うし、上等」


 無表情に答えても、女良は早くもカケルの態度に慣れてきたようで、満足気に頷くだけだった。


 旋律はカケルの顔を盗み見ていたが、表情に変化がないから、今彼が何を思っているのかは分からなかった。


「んじゃーこれからこういうメンツでやってくからよろしく! 気合い入れて、良い劇にしよーぜ!」


 応、と皆が答える声が視聴覚室に響いた。


 それから役者たちは発声練習に入り、カケルは舞台裏の仕事を教わるため音響・衣装・舞台装置・照明・小道具・大道具それぞれの責任者について回った。


 こうして、私立成桜学園演劇部の活動が、本格的にスタートした。


区切りとしてはこっちの方がよかったかな。まぁギリ今日ということで、連続更新のおまけ的な。


ここがご都合主義:オーディションとか特になく、メインキャラが良いところに収まる。カケルはお察し。

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