第2章
武勇伝、第2章。
数日後。何か郵便局に行く用事は無いかな。うん、無いな。何人かに相談してみたが、「切手を買う」「親に物を送る」など、ぱっとしないものばかり。だいたい、何度も通ったところでNさんと仲良くなるきっかけが見付かるものだろうか。いや、そもそも僕は仲良くなりたいのか?ただ笑顔が見られればいいんじゃないか?
まあとりあえず、用事は見付かった。あと2期残っている健康保険の払込票だ。コンビニ等の他に、郵便局でも取り扱うと書いてある。
さあ郵便局入口、ATMの前からNさんが居るか確認。居ないな。残高照会だけして帰宅。翌日、再びATMの前。今日は居た。やったぜ。しかし冷静に見ると、ATMに払込票の読取口が余裕で付いてるやんけ。よし、おじいちゃんのように使い方がわからない振りをしよう。とりあえず今日も残高照会だけやって、局内へ。
「すみません、この払込をお願いしたいんですが」
「払込ですね。ええ…公共料金等の払込は、お近くのコンビニでもしていただけます」遠回しに拒否?どういうことだ。
「郵便局でも出来ると表記してありますが、ここでは出来ませんか」
「はい、でもあの…受付が4時までとなっておりまして」
局が開いてるのに受付が終わってるとは、知らんかった。て言うか、ATMの前でうだうだやってなけりゃ間に合ったじゃねえか。何しとんじゃ俺は。
「ああ、そうなんですか…」僕が思わず頭を掻き始めると、Nさんは「上司に確認いたしますので、少々お待ちいただけますか」と急いた調子で言ってから、弾むように奥のデスクへ走って行った。体形的に、実際全身が弾んでいた。
硬い表情のまま、年長の男性に話しかけたNさんだったが、男性が首を縦に振った瞬間、笑った。ごく自然に笑った。僕はその横顔を見た。この娘、笑うんだ。
「すみません、お待たせいたしました。ここで受付させていただきます」僕の前に戻ったNさんは、眼前の客の要望を叶えられる喜びと、小さく規則を破るばつの悪さを、照れ笑いの顔で表現していた。
あ、好きだわ。俺。この娘を。そんで、そう思えた自分も。
用紙に名前と住所、電話番号を記入しながら、僕は口を開いた。今この時に言いたかった。
「本当は、コンビニで払込めるの、知ってました。わざわざここに来たのは、先日お会いしてから僕、君のファンなんです」
「そうなんですね」仕事としての平坦な相槌を打ってから、彼女は動きを止めた。え?この人、今、何て言ったっけ?そんな表情だった。
「もしご迷惑でなければ、また払込票、持ってきてもよろしいですか」
「あ、はい…お待ちしております」
「ありがとうございます」
周囲に居た人達も聞いていたか知れないが、どうでも良かった。また次の機会に言おう、と思ってしまったら、死ぬまで言えなかったろう。僕は今回も努めて紳士的な笑顔をつくり、背筋を伸ばし、局を後にした。




