第4話 過去は秘密
「おはようございます〜」
「あっ、おはようございます〜」
朝の幼稚園の送りで、ナズナは、また貼り付けた笑顔で他のママさん達と上部だけの挨拶を交わす。
「おはようございま〜す」
「おはようございます、あ、上履きはけた?おっけー!じゃあ、行ってらっしゃい!」
娘とハイタッチをして、その場を離れようとしたナズナ。
「あ、そういえば、昨日近くで事件あったじゃないですかー。あのパトカー近くに、いませんでした?」
(うわ、出たぁ〜、ハイエナ…)
話しかけてきたのは、ボーイッシュな出立ちのママ。娘と子どもが同じクラスなのは認識しているが、苗字はさらっさら覚えていない。
いつも誰かしらのママさんに一生懸命くっ付いて話している姿から、ナズナは心の中でハイエナと呼んでいた。
「え?あぁ〜…知ってる女の子だったので、近くには行きましたけど…女の子、無事だったので良かったですね〜」
その場に居合わせた他のママさんと、うふふ〜と笑いあいながら、その場をそっと離れようとするナズナ。
「え、でもでもー、あの場にいたってことは、事件の一部始終見てたってことですよねー?結局、犯人でどんな人だったんですか?ていうか、巻き込まれなかったんですか?あんな近くにいてー。しかも、なんか銃で撃つ音とかしませんでしたー!?ねー!怖いですよねー!!」
近くにいる他のママさんにも強制的に話しかけて、共感を求めるハイエナ。
(はぁー…)
貼り付けた笑顔で話を聞くナズナ。だが、心の中はげんなり。
(どんだけ他人のことに興味あるの)
こうやっていつも誰かにたかってないと、いられないのかしら、と頭の中では考えながらも、表情には出さないナズナ。
「警察には、事件のことは話さないよう言われてるので…。でも、本当、怖いですよね〜銃とかね〜…それでは」
ナズナは会釈してその場から離れると、ハイエナがまだ何か聞きたそうに首を伸ばしてきたが、ナズナはそのまま視線を逸らして見えないふりをして足早に立ち去った。
「絶対、私の過去なんて知られたくないし、仲良くもしたくないわ」
ナズナは自転車で早々に幼稚園をあとにすると、自宅に帰ってきて思い切り背伸びをする。
「さーて、今日もこれから家の後片付けっと」
ナズナは洗濯物をパンパンと伸ばして、外に干していく。




