五幕三場 「歳を訊くのは失礼というか…地雷?」
「結構遠いですね~」
リジェの村を探し始めて5日。
ガリル山脈をかなり南下してきたが、まだ街道からリジェの村へ伸びる小径は出てこなかった。
「そこそこな大きさの村って言ってたからな。カントの街から離れてもやっていけてるんだろう」
「こんなに離れていると、もう完全に別の土地の村って感じですよね」
カントの街から伸びる街道は、東へ向かう街道が最も利用者が多く、南へ進む者はそれほどではないのだが、それでも山脈を迂回せずに南方へ向かえる近道として重宝されている。
そこにこれだけ離れた場所にもう一つ人の生活圏があれば、それは宿場町としても十分機能するだろう。
「しかし随分変わったもんだな~。前に来たときはカントの村しかなかったはずなんだが」
「………師匠、それ何年前の話ですか?」
普段気にせずに接しているが、こういうときにふっと浮上する師匠何歳問題。
実際さまざまな言動を見ていると、とてもじゃないが見た目に釣り合っているとは思えない。
(かといってエルフって感じもしないしなぁ~。他に長寿の種族っていたかなぁ?)
見た目が老けない種族としてはエルフが有名だが、その他にも不老長寿の種族がいるのかもしれない。
師匠のことだから、その中でも筋金入りの不老長寿な気もする。
「あれか」
行く手に明らかに道と分かる分岐が街道から伸びていた。
道はすぐに上り坂になっていて、どうも背後の山を越える感じがする。
「あれですかねぇ~。やっぱり」
連日の山越えで流石に疲れがたまってきているリホは、ちょっと億劫な声で呟いた。
「そうだな、行くぞ」
師匠に促されてしぶしぶリホは先頭を歩く。
フーカが後に続き、最後尾は師匠だ。
そうして予想通り、山越えを果たすことになった。
「これは……思ったよりちゃんとした村ですね。どっちかっていうと、街に近いかも?」
リホが驚くのも無理はなかった。
山一つ越えた先の小さな盆地に広がっていたのは、カントほどではないが、それでもかなりの数の家が立ち並ぶ村だった。
家の数だけで言えば街と呼んでもそうおかしくはないくらい、小さな家々が軒を連ねている。
「これは、下手をするとカントから結構な数の村人が移住したのかもな」
師匠の言うには、後から人が流入したにしては規模が大きすぎる。
最初から結構な数の人間がこの村を作ったのではないか、ということだった。
「これは探すのも苦労するかもしれませんね?」
「どうだろうな、もしかしたらここではしっかりとした教会を建てているかもしれんぞ?」
布教活動がうまく行けば、これだけの規模の人間がいれば相応の収入が期待できるだろう。
それであればある程度ちゃんとした教会を設けて、腰を据えて活動している可能性は十分にある。
リホ達は村の中へ入って、まずは教会を探すことにした。
「教会がないって、どういうこと?」
探し始めてものの1刻。
行き会った村人に教会の場所を尋ねたら、教えられたのはおなじみ大地の女神ヴァーリの教会だった。
そこには当然のように『ご神体』はなく、それでは他に教会はないかと訊いてみても、帰ってくる答えは「ない」「知らない」ばかりだったのだ。
「もうすでにここを離れてしまったのではないでしょうか?」
フーカもやや心配そうにしている。
「どうだろうな。まだ数か月しか経っていないから、ここにいる可能性のほうが高いとは思うんだが……、教会がないってことは、それほど布教が進んでいないってことか」
「じゃあどこで活動してるんでしょうか?」
「それを調べてみるしかなさそうだ」
リホ、フーカ、師匠の三人はリジェの村の中を調べて回ることにした。
村は農業が中心で、どうやら農作物をカントへ売りさばくことで利益を出しているらしい。
急拡大して農地が不足し始めたカントの食糧事情を支えているという訳だ。
盆地の中央に数百軒余りの家が建っており、その周囲を畑が囲むように作られている。
決して広い訳ではないが、かといって狭い訳でもない。
この中をしらみつぶしに探して回るのは中々骨の折れる仕事だ。
「何を目印に探せばいいか分からないのも、面倒くさいですよね~」
リホは歩きながらブツブツ不満を垂れるようになった。
フーカは黙って歩いているが、こちらも決して前向きとは言い難い雰囲気だ。
師匠だけが呑気にあちこち見て回っている。
どことなく楽しんでいる風にも見える。
「師匠、ちゃんと探してます?」
「ああ、探してるよ。なにしろ初めてのところだからな、見るものが多くて困る」
(やっぱり探してないじゃないですか!)
リホの心の突っ込みも知らずに、師匠は左右を見回しながらのんびり進んでいく。
途中出会った村人にリホは改めて訊いてみた。
「最近来た神官? う~ん、知らないなぁ」
「神官ならヴァーリ教会に去年新しい方が来たけど、それじゃないの?」
「何の神様を祀っているのか分からないんじゃねえ、探しようがないな」
ごもっともです、わたしたちもそう思ってるんです、と思いながら、リホは村人の話を聞いていた。
一通り村の中を探索し終えて一息つこうと村の外の景色のいいところへ移動した。
畑では何人もの人が農作業に勤しんでいる。
今は収穫時期なのか、畑の畝から芋を掘り出しては近くの籠にどんどん積み重ねていっている。
そんな忙しそうな農夫達の姿を何とはなしに見ているときだった。
「リホさん、あれ、なんでしょう?」
フーカが指さした先に見えたのは、畑の奥の方、外側の雑木林との境辺りにある崩れた石塀だった。
そこまでは開墾が進んでいないのか、荒地のようになっている場所に木々に埋もれるようにしてそれは見えていた。
「石塀だけど………、何か建ってるのかな?」
「何だか……気になりませんか? これまでもその神官がいたところって、粗末な小屋ばかりでしたし」
「そうねえ、言われてみればたしかに。師匠、ちょっと見てきていいですか?」
「ああ、構わんよ。フーカと見てこい」
予期せぬ指名にフーカはちょっと驚いたが、すぐにリホと連れ立って石塀の方へ歩き出した。
荒地を横切って石塀にたどり着くと、向こうからは見えなかった奥へも崩れかけた石塀が続いている。
その中には雨露がしのげるかどうか微妙な感じのボロボロの天幕が張られており、同じくボロボロの神官服を纏った少女が毛布にくるまってうなされていた。
「師匠! 大当たりかもですっ!」
急いで引き返してきたリホは、師匠の手を引っ張って天幕の少女のところへ急ぐのだった。




