五幕一場 「ここでは脳筋は地位が低いんです」
中庭のテーブル。
突如来訪してきた竜王を囲むように、師匠、魔導卿、リホとフーカが座っている。
師匠は竜王の正面に、その左右に魔導卿とリホが分かれて座り、フーカはリホのすぐ傍にくっつくようにしている。
フーカは突然現れた未確認飛行生物が放つ威圧に圧倒されっぱなしだった。
未知の生き物を目の前にして目を真ん丸にしているフーカ。
粗野な竜王の振る舞いも相まって、少々怯え気味のようにも見える。
「で、今日は一体何をしに?」
魔導卿がいつもと変わらぬ口調で訪問目的を問いただす。
「おいおい、ずいぶんな歓迎ぶりだな。もうちっと、こう歓迎ムードがあってもいいんじゃないか?」
「貴方は自分が歓迎されていると思っているのですか?」
「そうですよ、だいたいいつも突然なんですよ、来るのが」
リホもそうだと言わんばかりに参戦する。
「そんなこと言ったって、こうでもしなきゃ入れないんだから仕方ないだろ? そこの主が素直に入れてくれればいいんだが」
そう言って竜王は目の前の師匠を軽く指さした。
師匠は何食わぬ顔でお茶を飲んでいる。
「師匠が拒否しているんですか?」
「マスターはこのトカゲにはここへの入場を許可していません」
魔導卿がしれっと竜王を馬鹿にして、竜王がそれに対してまたギャーギャー言い始めた。
ここへの入場を許可していない、ということは……
「あれですか、入口の岩壁を通り抜けられないってことですか?」
「そうだ。そいつには許可していない」
「なんで入れてくれねえんだよ? 結果的にここにこうしているんだから、入口から入ったって一緒じゃねえか」
竜王が師匠に不満を訴えるが。
「お前に正式にここに入る許可を与えてやるのは、なんか気に食わん」
「なんか気に食わん、って、それが理由かよ!?」
「そうだ。文句あるか?」
「ぐぬぬぬぬぬ」
師匠に突っぱねられて竜王は足をバタバタさせて悔しがったが、師匠には逆らえないらしい。
「で、だから何の用なんですか。とっとと要件を伝えて帰っていただきたいんですが」
魔導卿は変わらず冷淡だ。
「ちっ、ま~ったくやさしくねえなあ、この骸骨はよ?」
「………貴方、また氷漬けにされたいのですか?」
魔導卿の魔力が一瞬で跳ねあがった。
フーカが思わず「ひぃっ!」と悲鳴を上げる。
リホも冷や汗だ。
「わ~ったわ~った、もうそれは勘弁してくれ。今日の用事は“門番”案件だ」
「また門番か。こっちは何でも屋じゃないんだがな」
師匠が少し呆れ顔になる。
「まあ、そう言うなって。あれでも世界の監視者だぜ? それがなにかおかしいって言ってんだ。話を聞く価値はあるだろうよ」
「そうだといいんだがな」
師匠はあまり乗り気ではないらしい。
「で、どんな話なんだ?」
「それがな。門番のいうにゃ、最近『ご神体』が妙に増えてきているって話らしい」
「『ご神体』?」
リホが思わず訊き返した。
「『ご神体』というのは、聖職者が自分達の信仰する神々を祀るために用意する象徴です。大体は偶像の形を取っていますが、中には自然の石や大木なども『ご神体』として崇められることもあります」
魔導卿の説明は分かりやすい。
「ああ、それならあれですね、教会とか神殿にある神様の像ってことですよね。………それが増えてるって、何か問題あるんですか?」
教会、神殿は規模の差こそあれ大体どの街や村にも一つは必ず存在している。
病気や怪我を癒す治癒師としての働きを持っているからだが、そうした場所には信仰する神の像が置かれていることが普通だった。
「そうじゃねえって。お嬢ちゃんが言ってるのはただの像だ。問題となっているのは『ご神体』のほうだ」
「何が違うんですか?」
また魔導卿が説明を引き継いだ。
「『ご神体』というのは、祀られている像などのうち、長年の信仰心の蓄積によって神性を帯びたものを指します。多くの人々の信仰心が長い間集まって生み出されるもので、そう簡単には神像が『ご神体』になることはありません」
「それが増えてるんですか?」
「そうらしい。この数年で3つもできたって話だ。ご神体なんて百年に1つできればいいほうだってのに、この数は異常じゃないか?」
「確かに数だけ見れば異常と言えなくもないですが、偶々各地でご神体が誕生した時期が重なっただけ、という可能性も考えられるのではないですか?」
魔導卿が切り返した。
「ご神体が大陸中に散らばってるならそれもなくはない話なんだろうが、聞いたところどうもかなり近い場所に固まっているらしい」
「どのくらい近いんだ?」
師匠が口を挟んだ。
「ここからだと………南西の方向になるかな、大陸の真ん中らへんって言ってたぜ。なんとか山脈のある辺りって」
「大陸の真ん中? ガリル山脈か?」
「おう、それだ。その中からご神体を感じるって門番は言ってたな」
「ガリル山脈の中で人が住んでいるといったら、………あ~、あったな、なんか小さい村が」
「そこだ! そこに違いない。それを見てきてほしいんだとよ」
「なんでだ? なんで門番がそれを気にするんだ?」
そこで竜王はわざとらしく声を潜めた。
「門番のいうにはそのご神体、どの神のものかよく分からないらしいんだ」
「………信仰対象の神が不明のご神体、ということですか?」
さすがの魔導卿も驚いている様子だ。
「そうらしいぜ。そんなもん、不思議だろ? 何を信仰してるのか分からないのに、ご神体がポコポコ出来てるんだぜ?」
「それは確かに謎だな」
師匠も肯定する。
「だろう~。だからちょっと行ってみて来てくれないか?」
「お前はなぜ行かないんだ?」
もっともな突っ込みを師匠が入れる。
「あ~、あれだ。俺はいろいろと忙しいんでな。それに俺みたいな最強生物が人里へ行くと、いろいろ面倒も起こるし」
「………要は面倒くさいんですね」
リホがぽつりと呟いた。




