四幕六場 「わたしにだって魅力あるんですからねっ!」
「し、師匠ぉ~!」
リホは思わず駆け出してしまった。
まさか、こんなところで師匠に会えるとは。
「今俺に会いたいと思ってただろう?」
「え、どうしてそれを」
「お前の考えることなんて大体そんなもんだ」
「そんなことないですっ! 大体、師匠今までどこで何してたんですかっ? わたしがこんなに大変な思いをしてたっていうのに」
「だから言ったろう? ちゃんと見てるぞって」
「はぁっ? 見てたって、何をですか?」
「お前の一部始終だよ」
「はぁっ!? だったらもっと早く助けてくれたっていいじゃないですかぁ!」
「それじゃあ試練にならんだろう。お前ここに来た目的忘れてないか?」
「忘れてませんよ。でも、もう少し早く来てくれれば……」
そこまで言いかけてリホはハッとした。
「し、師匠! こないだフーカちゃんに飲ませたあの薬、まだ残っていないですか?」
「神酒か? そーいやどうだったかな? まだ残っていたような気もするが……」
「出してくださいっ! すぐ出してください! 助けたい仲間がいるんです」
師匠は自分の『収納袋』をごそごそとしていたが、やがて薄桃色の液体の入った瓶を取り出した。
「あったぞ。これ―――」
「もらいますっ!」
リホが奪い取るように瓶をひったくり、コマリの元へ駆け寄った。
うつ伏せに動かないコマリを抱きかかえ仰向けにすると、その口に瓶の中の液体を無理やり流し込んだ。
しばらくするとコマリの体が光りはじめ、光が収まった時にはコマリの胸が小さく上下を始めていた。
「コマリちゃんっ!!」
リホはまだ眠ったままのコマリを抱きしめた。
クルミはぽかんとしたまま、目の前の出来事を眺めていた。
「あ、あの、………どちら様ですか?」
とりあえず階段から降りてきたこの謎の男の正体を知らなければ。
そう思ってクルミは師匠に声をかけた。
「うん? 俺はそうだな……一応あいつの師匠ってことだ」
「師匠!?」
クルミは前に聞いた、リホの持つ技を伝授した師匠という存在を思い出した。
(この人がリホさんの師匠なのね……、でもどうして階段から降りてきたの? もしかして……)
「あ、あの、もしかして貴方も塔の攻略をされていたのですか?」
「攻略? いや、そんなことはしてないぞ。あいつの攻略っぷりを見ていたんだよ」
「見ていた? そんな、どうやって……」
「まあ、それはいろいろと秘密なのさ」
そう言った師匠は、まだ目を覚まさないユーリの方へ向かっていった。
「こいつか、ウチの弟子を口説いていた奴は。おい、起きろ」
師匠がユーリの顔をぺしぺしと叩くと、ユーリはゆっくりと目を覚ました。
「こ、ここは………どこだ、俺は、何故生きている……?」
「お前、なんでウチの弟子を口説いた?」
「…………えっ?」
「だから、なんでウチの弟子を口説いたのかって訊いてんだ」
師匠がユーリの前にずいっと顔を突き出す。
「な、なんでと言われても………、み、魅力的だったから、つい………」
ユーリとしては女性としてもさることながら、塔攻略の戦力としても魅力的だった、と言いたかったのだが、言葉が少なすぎてしまった。
「へえ~、魅力的ねえ。おいリホ、お前、魅力的なんだってさ。良かったな」
「やめてくださいよ! そんなの何の足しにもならないんですから」
「だとさ」
師匠はニッと笑うとユーリの頭をポンッと叩いた。
「今回はこれで勘弁してやる。二度とウチの弟子にちょっかいだすなよ。もし次なんかあったら……」
師匠の笑みがさらに大きくなる。
「俺の笑いが止まらなくなってしまうからな。そうなったら勘弁できないぜ?」
ユーリは何を言われているのかわからずきょとんとしている。
「さてと」
立ち上がった師匠はクルミの方へ向き直った。
「もう少ししたらお前さんたちは塔から出ることになる。下でウロウロしている兵士達もだ。その後、この塔には入れなくなる」
「えっ、どういうことでしょうか?」
クルミが思わず尋ねた。
ここまで苦労して上がってきたのだ。突然塔に入れなくなると言われても理解できない。
「塔の管理人が塔の規則を変える。お前さんたちは再度1階層から挑戦することになるんだ。それと、今回みたいに馬鹿みたいな人数をパーティ登録することもできなくなる」
「!?」
「あれは塔の規則の盲点をついた実に面白いやり方だったがな。塔の管理人としてはそれは面白くないっていう結論になったのさ。という訳で」
師匠はコマリを抱きしめているリホのところへ行って、リホをコマリから引っぺがした。
「これでお別れだ」
「!?」
次の瞬間、クルミ達は全員青い光に包まれて姿が消えていってしまった。
「ちょ、師匠!? みんなは? どこに消えたんですか?」
「全員塔の外へ転送されたよ」
「師匠がやったんですか?」
「俺じゃない。この塔の管理人さ」
「塔の管理人……」
「これから大掛かりな規則変更が行われるからな。お前はこっちにくるんだ」
そう言って師匠はリホを階段の上へ連れて行った。
「え、上ですか? わたしまだ攻略していませんけど」
「そんなもんいらんよ。とりあえずついてこい」
そうしてリホは師匠の後に続いて上の階層へあがっていったのだった。
「し、師匠!? あれってもしかして……」
「あん? あれは大悪魔だ」
「ひえぇぇぇぇ!」
師匠に従って上りに上って幾階層。
行く階層階層、すべて階層主の部屋を素通りしていった。
部屋には階層主が鎮座しているその脇を、文字通り素通り。
巨人族や悪霊、ドラゴンに至るまで様々な階層主がいたが、どれもリホと師匠を無視するかのように放置していた。
中には目に見えて接触を避けるように部屋の奥で小さくなっているものもあり。
「師匠って、この塔を攻略したんですか?」
「そんな面倒なことするか」
「じゃあなんでこんなにスイスイ階層を抜けられるんですか?」
「今は管理人の権限を借りているからな」
師匠の説明では、塔の管理人の権限を使えばどの階層でも出入りは自由らしい。
リホにはそもそもその塔の管理人というのが不明だった。
「塔の管理人って、誰なんですか? 師匠は知ってるんですか?」
「ああ、知っているよ。管理人と一緒にお前の様子を見ていたんだ」
「ええっ、管理人とですか? そんな、塔の管理人に見られていたなんて……」
「見られていたからなんだ?」
「恥ずかしいじゃないですか? あんなに苦労してた姿を見られて」
「皆で楽しませてもらっていたよ」
「もう~~~」
そんな会話をしながらさらに上へ上っていく。
「あと一息だ」
「おかえりなさいませ。塔の主が上でお待ちでございます」
階層主が丁寧なお辞儀をしながらリホと師匠を迎え入れた。
丁寧なお辞儀をしてはいるが、その姿はどう見ても邪神にしか見えない。
「師匠、あれは………」
リホがこそこそ訊いてくる。
「あれはパズスだ。元は塔の最上階の階層主だったんだが、敗れて199階層の階層主に下がったんだよ」
(199階層!?)
リホは自分が今いる階層のあまりの高さと、自分達が挑んでいた階層がまだまだ半分も行っていなかったことに改めて驚愕した。
「じゃあ200階層の階層主というのは……」
「着いたぞ」
階段を上った先に待っていたのは、漆黒の短髪を切りそろえ、服の上からでも判る抜群の体型をした、長身の美女剣士だった。
「これが、塔の管理人………」
目が離せなくなったリホに、だしぬけに声が掛けられた。
「ようここまで上ってきはりましたなぁ、リホはん。ずいぶん疲れはったでっしゃろ? まあ、まずはお茶でも飲みなはれ」




