四幕五場 「やっぱり師匠がいないと…」
「なにするんですかっ!」
間一髪でザンスの盾を棒で受け止めたリホがザンスに問い詰める。
まさか自分の一撃を簡単に止められるとは思っていなかったザンスは、後ろへ飛び退き距離を取った。
「……勇者殿にはここで死んでもらうのだ」
「!? どうしてそんなことを……?」
「勇者殿を担がれた王党派に塔の支配権を握られる訳にはいかぬのだ」
ザンスは静かに答えながら、ゆっくりと盾を構えその内側から何かをとりだした。
出てきたのは鞭。
ただしそれは金属製であるかのように光り輝いている。
「その為には勇者殿にはここで死んでもらい、我ら貴族派が塔の攻略をなしえた実績を持ち帰る必要があるのだ」
「そんなことで、仲間の命を狙うんですか!?」
「そんなこと? 王党派が塔の実権を握ればいずれその権力は増大し、我々貴族は形骸化していくだろう。そうなれば国力は低下し、結果的に我がグランマルスは衰退していくのだ。それを阻止せねばならんことを、そんなこと呼ばわりとは。所詮は流れの冒険者よな」
ザンスが鞭を振るうとビシッという破裂音が響いた。
どうやらかなりの使い手らしい。
「ザンス卿、それが貴方の本当の企みなの?」
クルミが立ち上がってザンスを睨む。
「そうだ。そのために勇者パーティに盾役として入り込んだのだ。そして勇者に組みするものは……」
ザンスがクルミの方を向く。
「全て片付けるのだっ!」
ザンスが鞭を振るうのと、リホがそれを棒で払うのとが交差した。
ザンスの鞭は大きく狙いを外れ明後日の方向に伸びていく。
「ぬう、あくまで我が邪魔をするか。ならば貴様も共に……」
「ふざけるんじゃないっ!」
リホの棒が振り上げたザンスの鞭を払い飛ばした。
慌てて盾を構えたところへリホが打ち下ろす。
ガギィン!
およそ木の棒が当たったとは思えない衝撃音がして、ザンスの盾は粉々になってしまった。
「ば、馬鹿な……? 儂の盾が、砕かれるとは……」
「王国の勢力争いなんて、どうでもいいことなんです! そんなこと、王国内でやってればいいでしょう!? ここは『試練の塔』なんです! 自分の力を試すために上るところなんです! くだらない権力争いのために命をかけるところじゃない!」
リホはそう言って動かなくなったコマリを見た。
「自分達の仲間が、さっきまで一緒に戦っていた仲間が目の前で動かなくなってしまっているのに、そんな中で、よくも、よくも………」
「リホさん」
後ろを見るといつの間にかユーリが起き上がってきていた。
「俺は……負けたのか?」
「勝ち負けじゃないわ。あなたは生き残ったのよ」
リホにそう言われてユーリは部屋を見渡す。
向こうで倒れているコマリ。
その横で膝をついているエリ。
クルミと、ザンス。
そして床に散らばっている岩人形の残骸。
「そうか……俺は、生き残ったのか……。岩人形に勝てず、それでも生き残ってしまったんだな、俺は」
床に座り込み、俯いて声を絞り出すユーリは、これまでの自信に満ち溢れていた姿とは別人のようだった。
「ザンスの言い分は分かった。俺は王党派とか貴族派とかどうでもいい。ザンスの好きなようにすればいいさ。俺達は失敗したんだ。塔を攻略できなかった。コマリを、死なせてしまった……」
ユーリにも改めて言われて、リホはコマリの死を受け入れざるを得なかった。
知らずと涙がこぼれてくる。
そんなリホにユーリが寄り添った。
(ユーリ様、ユーリ様………どうしてその人にそんなに優しくするのですか? どうして私じゃないのですか? ああ、ユーリ様。ユーリ様が私の手からどんどん離れていってしまう…………あの女のせいで。あの女のせいで!)
コマリの傍らでやりとりを見ていたエリの目が狂気に燃えた。
エリは腕を突き出し、決して唱えてはならない言葉を唱えてしまう。
「全てにして唯一の闇ヘルミークよ、我が願いを聞き入れ給え。我が恨みを晴らし給え。我が敵をその闇に覆い給え!」
エリの手から放たれた黒い光はまっすぐにリホの背中目がけて飛んでいく。
「!? 危ない!」
気付いたユーリがリホを突き飛ばすのと、黒い光がユーリに当たりその身を覆いつくすのと同時だった。
「ぐぁあああああああああああああ!」
ユーリが身悶える。
倒れ込み、床をのたうち回る。
「そ、そんな、ユーリ様っ!」
エリがおろおろと近寄っていくが、どうにもできない。
「ハーッハッハッハッハ! これはとんだ結末だったな。自らを慕っていたサラディンの神官に、よもやヘルミークの呪いをかけられるとは!」
笑い声を上げるザンスにクルミが近寄り、頬を叩いた。
「貴方には本国に戻って今回の責を問うてもらいます。私は貴方を絶対に許しません!」
「やれるものならやってみるがいい。これで我が貴族派は安泰だ。塔の支配権さえ握れればもう怖いものなどない」
「そんなにこの塔を手に入れたいの? 何のために?」
リホがザンスに近付く。声が妙に落ち着いている。
「この塔は我がグランマルスが国力拡大のために利用するのだ。軍を鍛え、塔から入手できる報奨品を独占し、塔へ挑む者どもから税金を徴収してな。そして我がグランマルスは大陸の覇者となるのだ!」
「そんな夢見話は、寝てからほざけぇ!」
「ほげぇぇっ」
リホの拳が顎にめり込み、ザンスは昏倒した。
「………リホさん、ありがとう」
クルミが頭を下げる。
「こんなことに付き合わせてしまってごめんなさい。貴方には本当に迷惑をかけてしまったわ」
「迷惑だなんて思ってないです。だって、仲間じゃないですか」
リホはユーリを抱きかかえているエリの傍へ歩いて行った。
ユーリは息はあるものの、気を失っているようだった。
「エリさん」
「ひっ!」
「あなたの想いに気が付かなくってごめんなさい。でも、これだけは言わせて」
「な、なにを」
リホはエリをキッと睨んだ。
「自分の思い通りにならないからって、人を呪うような真似をするんじゃない!」
リホは思い切りエリの頬を張り飛ばした。
強烈な一打にエリはフラフラになり、座り込んだまま呆然としていた。
「あの子もヘルミークの呪いをかけたことが知られればただでは済まないわね。良くて破門、悪ければ死罪でしょう」
クルミが冷淡にエリに待ち構える未来を告げる。
光の善神サラディンに仕える神官でありながら、闇の女王ヘルミークの呪いを発したとなれば、それ相応の罰を受けることは必至だった。
「コマリちゃん……」
リホはコマリの倒れているところへ近寄っていく。
パーティで一番仲の良かったコマリが、何故こんなことになってしまったのか。
リホにはどうにもやるせない気持ちでいっぱいだった。
(どうして、どうしてこんなことになってしまったの? わたしがちゃんと止めればよかったの? どうしたらいいの、わたし。ねえ、どうしたらいいですか、師匠?)
「呼んだか?」
「ふぁっ!?」
目の前の階段を降りてきたのは、懐かしの師匠だった。
9月の月間PVが1000を超えました。これもひとえにこの作品を読んでくれている読者の皆様のおかげです。
そして累計のUU数も1000人を超えることができました。本当にありがたい限りです。




