四幕五場 「今やらやきゃ、いつやるの?」
部屋に入ったユーリ達は、部屋の奥に何かがあるのに気づいた。
ただ暗くてそれが何だかよく分からない。
これまで階層主の部屋に入ると即座に戦闘に入っていた経験から、何も襲い掛かってこない今の状況に一行は困惑し始めた。
その時。
ゴリゴリ、ズシンッ。
何かものすごく固く重いものが動く音が響いた。
「何か来るぞ! 気を付けろ!」
ユーリが叫ぶが、まだ何がいるのか見えてこない。
ズシンッ、ズシンッ。
地響きを立てながら、それは近づいてくる。
そして部屋の明かりがそれを照らし出した。
「ゴ、岩人形…………!?」
クルミが絶句した。
岩人形。
古代魔法王国で数多作られた魔法兵器で、魔術が効かず、剣も通さないと言われる。
倒すにはどこかにある呪符を壊すか、魔法の核を破壊するかどちらかと言われているが、破壊できたという話は聞かない。
これまでの大鈍鬼とは比較にならないほどの強敵だった。
「あ、あれは駄目よ、私たちでは勝てないわ」
「でやぁぁぁぁぁぁ!」
クルミの必死の呼びかけも無視して、ユーリが突っ込んでいった。
狙うは振り上げた右腕、それを神速剣で一刀両断する!
踏み込んだユーリは、交差した瞬間自分の一撃が岩人形に弾かれたことに驚愕した。
そのまま反対側へ吹き飛ばされるユーリ。
すぐさまエリが治癒に向かう。
ザンスは盾を構えて岩人形の一撃に備えたが、突き出された拳を食らってあっけなく壁に激突する。
それを見たコマリは素早さで翻弄しようと岩人形の周囲を回るが、突然向きを変えた岩人形の動きについていけず、薙ぎ払いをもろに食らってしまった。
「ぎゃんっ」
壁に激しく叩きつけられたコマリはそのまま床に倒れ伏して、ビクンビクンと痙攣しだした。
「コマリさんっ!」
エリがかけよろうとした瞬間、岩人形が大きく足踏みし床が激しく振動する。
立っていられなくなったところへ、岩人形から石礫の雨が飛んできた。
「きゃあっ」
頭に直撃を受け倒れ込むエリにクルミが覆い被さる。
ザンスは立ち上がったところに石礫を浴びせられ、盾から出られずにいた。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
射線から外れていたため石礫を食らわなかったユーリが再び岩人形に切りかかるが、ほとんど傷らしい傷を負わせることができない。
ザンスはその様子をじっと見つめるしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「!?」
リホは目の前の光景を受け入れるのに時間がかかってしまった。
さっきまで一緒にいた仲間が傷つき、倒れている。
そして目の前にいるのは巨大な人型の岩。
ユーリが切りつけているがまるで効いていない。
「リホさん!?」
クルミがリホの姿を見て驚きの声を上げた。
まさかリホが部屋へ入ってくるとは思ってもいなかった。
「大丈夫ですか!? 怪我は?」
「私は大丈夫。でも、コマリが……」
視線の先にはもはや動くことがなくなったコマリの横たわる姿があった。
リホはその姿を見てぎゅっと唇をかみしめた。
「とにかくあれを何とかします。エリさんは大丈夫ですか?」
「私は………それよりも、ユーリ様が」
エリは自分のことよりもユーリのことを心配していた。
「とりあえずこれを使ってください。その傷も良くなるはずです。そしたらエリさんはコマリさんを!」
リホは『収納袋』に手を突っ込んで(ポーション、ポーション……)と念じながら、手に当たった瓶らしきものを取り出した。
薄い青色の液体が入った瓶は、この前フーカに使ってしまったやつよりは健全そうに見えた。
「リホさん、あれには剣も魔術も効かないです。貴方の技なら効きますか?」
「分かりませんが、やってみます!」
リホはエリに瓶を渡すと棒を構えて岩人形へ突進した。
体の大きさは先ほどまでの大鈍王とさして変わらないが、全身が岩で出来ているため棒の一撃がどこまで通るか分からない。
「ユーリさん、一旦下がって!」
直撃こそしていないものの、あちこちに傷を負っているユーリを下がらせて自分で相手をしようと思ったリホだったが、思惑に反してユーリは退かなかった。
「ユーリさん、下がって!」
「うるさいっ! 俺が倒すんだ! 俺が、こいつを―――」
(冷静になれなくなってる。このままじゃ危ない)
リホは一気に決着をつけるために敢えてユーリに岩人形の相手をさせる形にして、隙をみて背後に回った。
いつものように足を崩して体勢を低くさせ、発勁を打ち込もうと思ったのだが。
「!? 曲がらない!」
膝裏にあたるところへ一撃を入れても、岩人形は体勢を崩すことはなかった。
それどころか背後に回ったリホを掴みにかかってきた。
(それじゃあもうこのまま最大を叩き込む!)
リホはその手を逃れると側面に回り込み、膝の辺りへ突きを叩き込んだ。
最大の『気』を込めて。
(――――!? どうして倒れないの?)
今放てる自分の最大の『気』を送り込んだにも関わらず、岩人形は動きを止めなかった。
リホの隙をついて岩人形の腕が薙ぎ払われる。
咄嗟にリホは後ろへ躱したが躱しきれず、胸の辺りをしたたかに打ち付けられてふっ飛ばされた。
「ごほぉっ、いった~いなぁ」
倒れこそしなかったが膝をつき棒を支えにリホは耐える。
そうしているうちにもユーリがまたも吹き飛ばされていった。
今度は簡単に起き上がれそうにない。
岩人形は唯一向かってくるリホに照準を合わせたようだった。
(『気』が効かない、となったら、もうわたしには打つ手はない……。どうすればいい? どうすればみんなを助けられる? なんか倒す手立ては!?)
向かってくる岩人形を前にしてリホは再び棒を構えた。
その時リホの脳裏にあの言葉が蘇った。
『もし貴方が命の危機を悟った場合には、この後私が教える呪文を唱えてください。それで一時停止されている付与術式が再度展開されます』
「試練の塔」に出かける前夜に、魔導卿から言われた言葉。
そしてこうも言われていた。
『一度再展開すれば以降は貴方には停止できませんので、どのみち塔から出る外はなくなりますから』
(やるなら………………今でしょ!)
リホは棒を水平に構え目を閉じた。
魔導卿から教えてもらった呪文を思い出す。
「我の願いに応えよ! いざ、魔導の力を!」
リホの声に応えるかのように、棒が光り始め、そして震え始めた。
あの懐かしい感覚。
リホは目の前に迫る岩人形に向けて棒を振り下ろした。
岩人形の腕と棒が交差する。
ドガァァァッ
凄まじい音と共に、岩人形の腕が粉々に砕け散った。
返す形でリホは脚を撃つ。
岩人形の膝から下が粉砕され、バランスをくずした岩人形が倒れ込む。
そこを狙って突き出された棒が岩人形の体を貫き、体内にあった核をも破壊した。
バラバラと小さな塊になって崩れ落ちていく岩人形の姿を、クルミは驚愕の眼差しで見つめていた。
どうみてもただの木の棒なのに、なぜあんなことができるのか?
クルミの頭では理解が追い付かなかった。
「コマリちゃん!」
駆け寄ったリホは、傍で首を横に振るエリを見て、足を止めてしまった。
信じたくはない。信じたくはないが、コマリはもう……。
「う、うう……」
壁に叩きつけられていたユーリが目を覚ました。
どうやら命は助かっていたらしい。
その時。
「ぬうんっ」
一足飛びにユーリへ近づいたザンスが、ユーリ目がけて盾を振り下ろした。




