四幕五場 「結局わたしってお人好しなんだよなぁ」
結局、『気』の詳しい説明は省略した。
したところで理解はされないだろう、というリホの判断だった。
自分の力はとりあえず、そういう技を「師匠」から授かった、ということにして、具体的なことは“秘伝だから”で押し切った。
クルミ達も、あまりリホについて根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だと思い、それ以上は詮索しなかった。
その代わり、そこからの戦闘でもその力を使ってほしい、と懇願された。
クルミの魔力が少なくなってきている今、リホの戦力が戦局を決定するのだと。
リホも自分の力がどこまで通用するのか試してみたい気もあり、以降の戦闘からは積極的に『気』を使うようにした。
その結果、一行はさらに上の階層まで攻略を進めることになった。
「いや~、リホちゃんの一撃はすごいね~。大鈍王でもイチコロだもんね~」
コマリがリホの周りをピョンピョン飛び跳ねている。
この子は疲れを知らないのだろうか?
「そんなことないよ。あれは皆さんがちゃんと体勢を崩してくれていたから……」
「またまた~、そんな謙遜はいらないよ~。止めをさしたのはリホちゃんなんだから~、もっと胸張っていいよ~」
クルミの魔力を温存する形で、出来る限り前衛で敵の体勢を崩して止めをさす、という作戦に切り替えたのだが、思った以上に効果を発揮していた。
とにかく強烈な一撃にさえ気を付ければ、対処はできる。
リホの動きからだんだんとコツをつかむようになったコマリや、リホの動きの勘所が分かってきたザンスとの連携がうまく取れて、途中の階層でも危なげなく攻略を進めることができていた。
自然リホを中心とした陣形、攻撃が続くようになり、その一方で―――。
「ユーリ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、俺に構うな!」
ユーリは連携の間に上手く入れず、直撃こそ避けたが何度か手痛い打撃を食らっていた。
今も先ほどの戦闘で負った傷をエリに癒してもらっていたのだが、その表情は険しい。
「あんな連中、俺にだって止められたんだ。それなのにあいつらときたら」
「ユーリ様は勇者ですから、あのような雑魚の相手をなさらなくても―――」
「うるさいっ! 知った風な口を利くな! お前はちゃんと俺に祝福をかけ続けてればいいんだ」
ユーリに怒鳴られビクッとしたエリだが、顔には出さずにそのままユーリの治癒を進めた。
(あの人が悪いのだ、全部、あの人が……)
「ここまでの小部屋が全部大鈍王でした。ここの階層主はそれ以上だと思われます。ここで一旦戻る方がいいと思います。」
階層主の部屋の前で、リホは全員に向かって自分の懸念を伝えた。
ここに来るまでは小部屋の敵はいずれも大鈍鬼だった。
それがこの階層になった途端、一つ前の階層主だった大鈍王が小部屋の敵として出てくるようになったのだ。
リホには何か嫌な予感がしていた。
「いや、俺は反対だな。ここを攻略できれば俺達は50階層まで到達したことになるんだ。折り返しだぜ? ここまで到達できた人間はこれまで誰もいないんだ。こんな機会を逃すなんて、それこそ王国に戻ったら何言われるかわからないぜ」
ユーリがいつになく強固に反対した。
「私はリホさんの意見に賛成ね。私自身も魔力が底をつきかけているし、何かあってからじゃ対応できないわ。一度戻って、いろいろ整えてから再挑戦すべきね」
「嫌だ。ここまできて引き返すのはもったいない。まだまだ俺達は行けるはずだ」
「何をそんなにムキになっているの? この間だって一度戻ったでしょ?」
「ムキになってなんかいない! 俺達には塔制覇という目標が懸かってるんだ」
「それで死んだら元も子もないでしょう? 階層主は勝たなければ出られないのよ?」
「構わない! 俺は一人でも階層主に挑戦してやる! 俺だってやれるんだ!」
そう言うとユーリはいきなり立ち上がって、階層主の部屋の扉を開け始めた。
「ユーリ、止めなさい! 単独ではムリよ」
「―――俺だってやれる、俺が勇者なんだ!」
ユーリは扉を押し開けて中へ飛び込んでいった。
「私も、ユーリ様と一緒に!」
エリが後に続いて入っていってしまう。
「やるの? それならわたしも~」
コマリまでユーリに続いて中へ行ってしまった。
「……これは、盾役としていかねばなるまい。クルミ殿も、覚悟を」
そう言ってザンスがクルミを促した。
「………冗談じゃないわよ、こんなところで死ねないのよ、私は!」
そう言いながらクルミはザンスの後に続く。
「リホさんはここにいて。貴方は悪くないのだから」
去り際にそう言い残したクルミが扉の中へ来ていくのを見送ったリホは、暫く閉じた扉の前に立ち尽くしていた。
(どうして? どうしてそんな無茶なことができるの?)
(死んだらお終いなんだよ? どんな名誉だって、ここで死んだら受け取れないのに)
(みんなはわたしとは違う想いで挑んでるの? 死んだらお終いなのは一緒なのに?)
(わたしは自分の力を試したい。そのためにここに来た。死ぬわけにはいかない。だから………)
(だから、みんなを置いて、ここから撤退するの? みんなを助けずに、自分だけが助かる道を選ぶの?)
「…………………………そんなの、ここまできて見捨てるなんて、できないよ!」
意を決してリホは部屋の中へ飛び込んでいった。
リホの目の前に広がっていた光景は。
闇雲に剣を振るうユーリ。
盾を構えたまま座り込んでいるザンス。
しゃがみこんで激しくせき込んでいるクルミと、同じくしゃがみこんで頭から血を流しているエリ。
そして壁際に転がったままピクリとも動かないコマリの姿だった。




