四幕四場 「知らない方がいいことってあるよね」
「……どうしよう、なんだか面倒なことになっちゃったなぁ……」
あてがわれた天幕の中で、リホはこの後のことを考えて困っていた。
半ば拉致のように連れ出されてきてしまったが、エリを除く4人からさんざん頼み込まれてしまい、リホは断り切れなくなってきていた。
元々お人よしのリホである。
強く頼まれると嫌と言えないのだ。
それに実を明かせば、一人きりで挑んでいるよりも、誰かと一緒にいるほうが気が楽だった、というのもある。
師匠と離れて心細かった、というのはリホ自身も自覚はしていないが。
「でも………、自分の力を試しに塔に来たのに、途中で仲間が増えちゃったりしたら、ダメなんじゃないかな?」
当初の目的を考えれば、せっかく単独で40階層まで到達できたのだ。
今さらパーティを組んで再挑戦する意味はないに等しい。
「悪い人達じゃなさそうなんだよなぁ。みんな塔の攻略を目指しているって点じゃ一緒だし……う~ん、どうしよう?」
問題となるのは、自分の本来の目的からずれてこないか、ということなのだ。
目的が異なる人間とパーティを組めば、いずれ必ず破綻する。
それはリホにも分かっていた。
「そこをちゃんと話してみよう。話が通じない人達じゃなさそうだしね。………一人を除いてだけど」
一軒家の寝室には遠く及ばないグランマルス軍の兵営の寝台で、リホはとりあえず休むことにした。
「これで次からは41階層から攻略を進めることができる。リホさんがいてくれてホントに良かった。これでまた俺たちの栄光に一歩近づいたわけだ」
自分の天幕でユーリは浮かれていた。
彼の中では既にリホはパーティに参加が確定していた。
「しかも話を聞けば探索者だというじゃないか。これはもう、出会うべき運命だったというしかないだろう。まさに神の思し召しというべきか。なあ、エリ?」
ユーリは傍らに黙って控えているエリに話を振る。
エリはずっとユーリの後を天幕まで付いてきたが、その間一言も話さなかった。
そんなエリの様子をユーリは大して気にもしていなかった。
「…………ユーリ様、やはりリホさんをパーティに迎え入れるのですか?」
ややあって沈んだ声でエリがユーリに尋ねた。
「もちろんだとも。そのほうが我がパーティがより強化される。一日も早い塔の制覇を目指すには、それが最良だと思わないかい?」
寝床に横になりながらユーリはエリに問いかける。
エリはじっと何かを考えていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「ユーリ様は………、リホさんを入れることが塔の攻略に役立つから、という理由で入れるのですか?」
「そうだよ?」
「………他に理由はないのですか? 例えば―――」
「ああ、もちろん探索者だっていうのもあるし、それになんといってもリホさんは美しいからね。あれだけの美人を守ってあげるのは勇者である俺の務めだろう?」
それを聞いたエリの目が一層暗くなった。
「美人、ですか……」
「エリもクルミも美人だよ。コマリだって可愛いしね。みんな俺が守るべき対象だと思っているよ。なんたって俺は勇者なんだから」
「ユーリ、ちょっといいかしら?」
天幕の外でクルミの声がした。
「ああ、いいぜ」
クルミが中に入るのと入れ違いに、エリがすうっと天幕の外へ出ていった。
その様子を黙ってクルミは見送ったが、エリの暗い表情に何か思うところがあったようだった。
「何だったの、エリは?」
「いや、別に。リホさんがパーティに入ったらどうなるか、ってことを話していたのさ」
「ああ、そのことなんだけど。今ザンス卿が本国へ戻って話をしに行ってくれているけど、もし許可が出なかったらどうするの?」
「許可なんて関係ないさ。そのときはこっちで勝手にリホさんをパーティに加えていけばいいだけだ」
「………本気なの? それを王国が認めるとでも?」
「認めざるを得ないさ。俺たちがちゃんと塔を攻略できれば誰も文句は言えない。そのためにもリホさんは必要なんだ」
「確かに単独で40階層に到達していた人だものね。まだまだ知らない力を隠していそうだわ」
「そうだろう? だから明日もう一度リホさんに頼み込んで、しっかりパーティに加わってもらえるようにしないと」
「それも大事だけど、貴方は別のことにももう少し気を配ってもらわないと」
「何のことだい?」
「…………まあいいわ。言ったところで貴方が事態を解決できるとも思えないし。ただ、少しはパーティ内の人間関係にも興味を持ちなさいよ?」
「なんだい、それ」
これ以上話をしても無駄と悟ったのか、クルミは天幕を出ていく。
その足でエリを探して少し話をしてみようと思ったのだ。
しかしエリの姿は兵営のどこにも見当たらなかった。
「………どういうことだ、ザンス卿」
「私としても不測の事態でして」
グランマルスの首都、マルス。
その一角にある巨大な館にザンスはいた。
「まさか我々以外に塔の攻略を目論んでいた者がいたとはな。………その者、本当に人間なのか?」
「おそらくは。ただ………」
「何だ」
「………あの塔の40階層を単独で攻略できる者をただの人間と呼んでいいものかどうか」
「卿からみてどうなのだ?」
「戦っているところを見ていないのではっきりとは分かりませんが、我々が苦戦した相手を一人で相手にしてかすり傷一つ負っていないところを見るに、相当な手練れなのではないかと」
「どこの手のものかは分からぬか」
「はい。本人は探索者だと言っておりますが、どのギルド所属かまでは……」
「それはこちらで調べさせよう。それほどの強さを持つ探索者などすぐにでも分かろう。しかし、勇者パーティに加えるとなると中々難しいな」
「やはりそうでしょうか」
「宰相以下は頭の固い連中が揃っているからな。ぽっと出のよそ者など信用もせず、信頼もせんだろう。御前会議に掛けても結論は早々出まい」
「ではいかがいたしましょう? 勇者はもうすっかりその気になっております」
「結論は保留中だということにしておけ。そうすれば痺れを切らした勇者は先走ってその者をパーティに加えるだろう。おぬしはそれを渋々追認する形にしておくのだ」
「その上でリホ殿を利用して塔の攻略を進めていく、ということですね」
「そうだ。そして頃合いをみて計画を実行し、その責を全てそのリホとかいう奴に押し付ければよい。もし計画がうまくいかなければ、その者を強引に引き入れたことを罪に問うて勇者を失脚させる。どちらにしても我らにとっては有利にしかならん」
「さすがは侯爵様です。このザンスには思いもつかない妙案で」
持ち上げられた侯爵は得意げな顔で酒をあおった。
「フフフ、何としてもこの度の塔攻略は我ら貴族派の手柄とするのだ。そのためにはどんな手を使っても構わん」
「はっ! 我ら貴族派の未来のために!」
掲げた杯を空け干したザンスは部屋を辞し、塔へ至る転送門へ足早に戻っていった。




