四幕四場 「ここ、『試練の塔』でしたよね?」
「ここの階層主は………、ウェアウルフです」
リホが伝えると、一行はそれぞれ準備をして扉の中へ一気に押し込んでいく。
リホは扉の前でしばらくぼーっとして過ごしていたが、やがて内側から扉が開かれたのを見て、中へ入っていった。
「これは………また派手にやりましたね」
リホの前には黒焦げになった狼もどきの死体。
ここの階層主はウェアウルフが3匹だったはずだが、残りの2匹の姿はここからでは見えなかった。
「リホさんが事前に教えてくれていたから、本当に楽に打ち取れたよ」
髪をかき上げながらユーリが近付いてくる。
その仕草にリホはちょっと寒気を覚えたが、それは表に出さず付き合う。
「それは良かったです。こいつらも扉を開けるといきなり飛び掛かってくるので、結構厄介なんですよね」
「あなたはどう対処したの?」
クルミがリホに尋ねる。
単独でこの階層主を倒したのだ。倒し方が気になる。
いつの間にかザンスやエリ、コマリも近くへ来てリホの言葉を待っていた。
「どうって………、開けた瞬間に飛びかかってくるのが分かったから、取り敢えず一番最初のに合わせてすれ違いざまに一発浴びせて、その後は、え~と、それぞれ順々に……」
本当は扉を開ける前から待ち構えられていることが察知できたので、中に入ると同時に奥へ飛び込んで、そこからは1匹ずつ『気』の一撃で倒していったのだが。
そんなことを話しても信じてもらえないどころが、逆に怪しまれるだけだと思ったリホは、適当にでっち上げた攻略法を教えていた。
「初見であの突撃を見切れるとは、さすがリホ殿だ。一人でここまで到達するだけのことはある」
ザンスが感心したように頷いた。
コマリも同意を表すようにブンブン尻尾を振っている。
「なあ、そうだろう? リホさんは素晴らしい女性なんだ。やっぱり早く我がパーティの一員として迎え入れなければ!」
力説するユーリの隣で、エリが暗い目をしている。
その様子に感づいたクルミは一応ユーリに釘を刺した。
「そんなこと言っても、ここから先40階まではリホさんは一緒には戦えないのよ? 彼女は既に攻略済みなんだから。それにその先だって、同じパーティとして登録していない以上、一緒に戦えるかどうかは分からないわ」
「そんなら一度戻ってパーティを登録し直せばいい」
「!? 本気で言っているの?」
パーティを登録し直す、となれば、ユーリ達は勿論のこと、これまで塔に入って各層に配置されている兵士達も全員、最初のように入り口で登録をし直さなければならない。
そんなことにかける時間など勿体ないし、そもそも本国がそれを許可するとも思えない。
自分達はあくまでグランマルスの国命を受けて来ているのだ。
「もちろん本気さ。リホさんが参加したほうが絶対に塔攻略の可能性が上がる。そうなれば王国の連中だって喜ぶだろう? 俺たちだって塔制覇にグンと近づけるんだ。何も悪いことはないじゃないか」
ユーリの言い分にも一理ある。
単独で40階層まで到達できるリホをパーティに加えれば、黙っていても40階層までは無条件に到達できるのだ。
その上でそこから先の攻略も、これまで5人で戦っていた時より確実に戦力が上がることになる。
クルミは頭の中で激しく計算を行っていた。
「いずれにしても一度戻ったほうが良いだろう。どのみち本国の意向は訊かねばならんし、物資も補給する必要があるだろう? もし勇者殿の言うようにリホ殿を加えることにするのであれば、早いに越したことはない」
ザンスが静かに意見を述べる。
こういうとき年長者であり、かつ戦場経験と王国政府とのやり取りの豊富なザンスの言葉は的確だった。
「おっしゃ! そうと決まれば早速戻ろうぜ!」
現れた次の階層への階段を無視して、ユーリは入り口の扉を開けにかかった。
「え~、また帰るの~?」
コマリはまだ物足りないのか、不満顔だ。
「まだ戻ると決めたわけではないのだけれど……、仕方ないわね。確かに一緒に動くことにするのであれば補給は必要だし、一度戻るほかないわね」
クルミもザンスの意見を取り入れた。
結局は本国の考え一つなのだ。
「さあ、行こう、リホさん!」
ユーリが手を差し出すが、当然のごとくリホは躊躇する。
「え~と、わたしはどうすればいいんでしょう……?」
「…………………………消えればいいのに」
ボソッと呟いたエリの声は、リホには聞こえなかった。
「頼むっ! この通りだ!」
土下座をして頼み込んでいるユーリを目の前にして、リホは困っていた。
ここは1階層、塔の入り口付近。
ユーリ達にくっついて下に降り続けたリホは、途中で目にしたグランマルスの兵士達を見て驚いた。
(わたしが塔に籠っている間に、一体何があったの? なんでこんなに大量の兵士が塔に入り込んでるわけ? ここは伝説の場所なんじゃなかった!?)
ここにくるまでは半ば伝説上の建造物として認識していた「試練の塔」。
自分が挑戦を始めた時も遠く理解の及ばないものとして、塔の試練に立ち向かってきたつもりだった。
それが今や兵士達があちこちにたむろしている普通の場所になってしまっている。
兵士達は小部屋の扉前に陣取って、何やら詰所のような机を設置したり、グランマルスの国旗を掲げたりしている。
その中をユーリ達と一緒に降りてきたリホは、あちこちで奇異の目を向けられて閉口していた。
まあ、入った時にはいなかった人間が同行していれば、それも仕方がないだろう。
そうして1階層まで降りてきたリホは、グランマルスの勇者パーティに加わる形で再度パーティ登録をしなければならないと聞いて、難色を示したのだ。
「だって……わたしは一人で挑戦するつもりでしたから、パーティを組む必要がないんですよ」
「そんなことを言わずに。俺と一緒にいたほうが絶対にリホさんにとってもいいようになるはずだ。王国の連中には俺から話をするから何も心配しなくていい」
(別に心配なんてしてないんだけど……、それに一緒にいたら一軒家とかつかえなくなっちゃうし……)
リホにとって攻略途中で一軒家に戻って回復できなくなる、というのは、ある意味で死活問題だった。
今さらよく知りもしない相手に交じって、冷えた飯を食べ、床に寝転んで休憩をとる真似なんてできそうにない。
「私からもお願いしてもいいかしら。貴方が参加してくれることは確実に私たちにとって有益になるの。貴方もこれまでよりも楽に戦えるはずだわ」
「そうだよ、一緒に行こうよ~。リホちゃんと一緒に戦いたいな~。きっともっと面白いと思うよ?」
「な、な。みんなもそう言っているし、一緒に行こう。俺たちで最強のパーティを目指そう!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ~」
盛り上がるユーリとコマリに両脇を抱えられて、リホは入り口のほうへ連れていかれてしまった。
「これでうまくいってくれればいいけど」
「……儂が一旦戻って、本国の連中を説得してこよう。勇者殿に任せてはまとまるものもまとまらん」
「そうね、ザンス卿にお願いしたほうがよさそうね」
ザンスはユーリ達の後に続いて塔から出ていく。
その足で転送門に向かうのだろう。
「みんなパーティに加えることに賛成なのですね……」
最後尾にいたエリがぽつりと呟いた。
「何か言った? エリ?」
クルミの問いかけには答えず、エリもまた塔を後にしていった。




