四幕四場 「セクハラはダメ、絶対!」
「………………」
「「「「「………………」」」」」
お互いに目の前の光景が理解できずに黙り込んでいる。
リホからすれば、塔に入る前から一人っきりだったのだ。
それが突然目の前に完全武装の冒険者パーティが現れれば、驚くというものだ。
自分以外に他の攻略者がいるとはこれっぽっちも考えていなかったリホは、ユーリ達のいで立ちをじろじろと観察している。
(手前の女の子は神官、よね? その奥の盾を持っているのは騎士かしら? だいぶ誂えのよい鎧を着ているけど。それにドワーフ! わたし初めて見た)
自分も冒険者であったリホでも、ドワーフを見たことはこれまで一度もなかった。
エルフ以上にヒト族との接触を避けているドワーフは、そう簡単にお目にかかる種族ではない。
膂力に優れ鍛冶の腕前もあるという噂だが、目の前の少女からはそこまでの雰囲気は感じられなかった。
(あとは魔術師と……、一番奥の男は剣士なんだろうけど、なに?)
リホは一番先に進んでいたらしい派手な鎧を着こんだ男を凝視していた。
他の者達とは少し違う雰囲気を感じる。
(何しに来たのかしら? って、塔の試練を試しに来てるんだろうけど、どうやってここまで来たんだろう?)
リホが5人についてあれこれ考えを巡らせている間、クルミたちはもっと驚いていた。
(何? 魔物なの? それともイレギュラーの階層主? 部屋から出てきたわよね? ヒトなの? 何で一人で?)
クルミの頭の中には一気に疑問がわき出してしまい、考えが全くまとまらなかった。
「……ちょっと、クルミ? あれ、なんなの?」
コマリが不思議そうにクルミに訊いてくる。
「私にだって分からないわよ」
「敵なの? 倒していいの?」
「分からないってば」
それを聞いたコマリがハンマーを握りしめたのを見てクルミが制しようとしたが、一歩遅かった。
「じゃあとりあえず!」
コマリが横ざまにハンマーを構えて飛び出していった。
「ちょ、ちょっとなに!?」
リホは反射的に棒を構えて迎え撃つ格好になった。
「どおうりゃあ!」
コマリのハンマーが水平に振りぬかれると、リホはすんでのところでそれを躱し、がら空きになったコマリの体へ棒を突き出した。
「うおっ?」
自分目がけて突き出された棒の鋭さに体勢を崩しながらも、コマリは横に転がったあと素早く立ち上がって再度構えを取った。
「コマリ、待ちなさい! まだ敵と決まった訳ではないのよ?」
「え~、だってやるなら早いに越したことはないじゃん。だいたいこんなところに一人でいるなんて怪しいに決まってるし」
リホは構えを解かずに一連のやり取りを見ていたが、自分が一方的に怪しまれていることに少し憤慨した。
「そっちこそ、いきなり現れて攻撃してくるなんて、冒険者狩りでもしてるんですか? それならそれでこっちにも考えがありますけど?」
『冒険者狩り』という言葉を聞いてクルミはリホへの警戒心を少し低くした。
冒険者の間で最も禁忌とされる行為を知っているとなると、魔物とは考えにくい。
「先に仕掛けたことについては謝るわ。だけど状況が状況だから、そこは理解してもらえないかしら?」
「それはお互い様です。わたしだってびっくりしてるんですから」
「貴方はどこから来たの? 見たところこの階層主の部屋から出てきたようだけど……」
「あの、どこからと言われると難しいんですが、とりあえず上から降りてきました」
「上から!?」
「はい。ここより9層上から降りてきたんですけど、……ちなみにここは何階層ですか?」
「…………ここは31階層よ」
「31階層……ということは、9層降りてきたから、さっきの獣魔は、40階層の階層主ってことか」
一人でブツブツ階層を数えているリホの呟きを聞いて、クルミたちは唖然としてしまった。
40階層? しかも単独で?
何かの冗談だと思いたくなったが、現に40階層の階層主のことを話しているし、自分達がついさっき倒した階層主の部屋から出てきたことは間違いない。
一度倒した階層主は二度と遭遇しないから、上から降りてくることは容易い。
その意味でも、リホの言っていることに信憑性は十分に感じられるのだ。
「貴様は40階層から降りてきた、というのか?」
ザンスが信じられないという顔でリホに問い詰める。
「貴様? わたしにはリホっていう名前があります。あなたに貴様呼ばわりされる筋合いはありません!」
「……これは失礼した。改めて問おう。リホ殿は40階層から降りてこられたのか?」
「そうですよ。自分がどこまで上ったか分からなくなっちゃったんで、一回下まで降りて確認しようと思って、降りてきたんです」
「どこまで上ったか分からなくなった……」
リホの言い分に呆然とするザンス。
そんな階層まで単独で攻略を進めていた者が存在するとは。
隣ではエリも驚きで目をぱちくりさせている。
「へえ~、あなた強いのね。さっきのやり取りでも十分感じたけど、まだまだ本気を出してなかったでしょ?」
「あなたも本気じゃなかったみたいだったけど、それでも十分驚いたわよ?」
ニコニコしながら近づいてくるコマリを見て、リホも警戒を解く。
根は悪い子じゃなさそうだ。
「ねえ、もし良かったらここから上の階層主について教えてくれない? それが分かるだけでも私達にとってかなり有益な情報なのよ。勿論対価はお支払するわ」
クルミがリホに交渉を持ち掛けた。
階層主が分かれば、その階層の小部屋に出てくる魔物の種類も大体予想が付く。
そこまで事前に知ることが出来ていれば、ここから先の戦闘がかなり楽に進められるはずだ。
「ここから先の階層主ですか? う~んとですね~、まず40階層が獣魔でしょう? それから39階層は―――」
「素晴らしい!! なんと素晴らしい女性だ! リホさん、是非我々と共にこの塔の制覇を目指しましょうっ!!」
ユーリの突然の熱烈勧誘にリホは思わずたじたじとなる。
先頭切って部屋を出ていった都合リホから見て一番奥にいたユーリは、長いことリホを見つめていたが、急にすっ飛んできてリホの手を握りしめたかと思うと、ブンブン上下に振り出した。
「一人で40階層まで攻略できるリホさんが加われば、間違いなくこの塔を完全攻略することが出来る! そうすればリホさんもこの勇者ユーリパーティの一員として、永久にその名誉にあずかれることになるでしょう! それにここから先にはどんな危険が待ち構えているか分からない。そのようなところへリホさんのような可憐な女性を一人で行かせるなど、この勇者の名にかけて見逃すわけにはいかない!」
話し続けるうちに自分で感極まったのか、ユーリはリホに抱きついた。
「ひあっ!!!」
突然のことに一瞬硬直するリホ。
周りのクルミたちも一瞬動きが止まる。
「なにするんですかぁあああ!!」
踏み込むと同時に胸の辺りへ両掌の掌底突きを浴びせたリホによって、ユーリは回廊の先へふっ飛ばされていった。
「やれやれ、色気もくそもないな」
「ほんまに。ご主人様ももう少しこないなときのことも教えとかんと……」
「………………」
最上階では師匠とD・J、エラの三人が、リホ達の様子を食い入るように見ていた。




