↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/114

四幕二場 「ま~た、美女ですか」





「ここが、階層主の部屋か………」


 リホの前にあるのは、これまで見てきた扉よりも一回り以上大きな、重厚な造りの扉だった。


 一軒家を出して休憩を入れたのち、リホは他の部屋の攻略を順調に進めていった。

 どの部屋もこれまでに対峙した敵とそう大差はなく、リホは危なげなくどの部屋も攻略することができた。

 その分、報奨品(ドロップアイテム)には恵まれなかったが。


 そうして今、全ての小部屋の敵を倒し終えて、リホは階層主の部屋の前までたどり着いたのだった。


「一体、どんな敵が出てくるのか―――」


 リホはこれまでになく緊張しながら、扉に手を掛けた。

 ここまでゴブリンや豚鬼(オーク)、犬鬼(コボルド)達ばかりだったからといって、この奥にいるのがそうとは限らない。

 いや、階層主であることを考えれば、明らかにこれまでよりも強力な敵が待ち構えていることは明白だった。

 問題なのはそれが、一体どのくらい強力なのか、ということで―――。


「よし、行くぞっ!」


 覚悟を決めて一気に扉を押し開けた。


 中はこれまでの小部屋とは比べ物にならないくらいの広い部屋だった。

 何故か部屋全体がかなり明るい。上から照明が当たっているかのように、床が照らされていた。


 その床の中央に立っていたのは、一匹のゴブリン。


 ただしただのゴブリンではない。

 見るからに頑丈そうな造りをした胸当てを着込み、リホの背丈ほどもある長大な剣を携えている。

 頭には兜を被り、左手には腕盾も備えている。

 体躯は通常のゴブリンの倍以上をはるかに超える長身で、引き締まった筋肉を持った緑色の肌が照明に照らされて光っている。


 ゴブリンキング。


 ゴブリンの中に生まれる特別種で普通のゴブリンとは能力が桁違いに高い。

 野生では多くのゴブリンを従え巨大な集落を形成して、時には人間の街へ集団で襲い掛かることすらある。

 冒険者の間でも、ゴブリンキングを擁する集団とはできる限り事を構えず、もし討伐するとなったら上級冒険者数パーティが連携を組んで当たらなければ危険、とされていた。


 目の前のゴブリンキングはリホの侵入に驚くこともなく、ゆっくりと剣を上げ、構えを取った。


(出来る!)


 リホの中で油断が消えた。


 ゴブリンだと思ってかかると危ない。

 腕利きの相手と認識してかからねば。


 リホも棒を構え、一定の距離を空けてキングと対峙した。

 そうしてしばらく双方にらみ合う。


「ゴガァァァァァァッ!」


 叫び声をあげてゴブリンキングが突進してきた。

 その体格を活かして一気に攻め込むつもりだろう。

 リホは冷静に間合いを読みながら、キングの近づくのを待った。

 そして自分の間合いに入った瞬間、ついっと歩を進めて棒を突き出した。


「はぁっ!」


 ゴブリンキングは盾でリホの棒を受けたが、想像以上の威力に勢いを削がれてしまう。

 しかしそこで怯まずにキングは振りかぶった剣をリホ目がけて振り下ろした。


「!?」


 リホは体を開いて剣を躱すが、すぐ脇を通り抜けた剣の風圧に思わず目を見開く。


(なんて剣圧。当たったらひとたまりもないわ)


 リホは手を休めずにキングへ撃ちかかった。

 魔導卿に付与されていた各種術式は停止してはいたが、リホの打撃は確実にゴブリンキングにとって脅威となっていた。

 たちまち劣勢になるゴブリンキング。

 そこへリホの打ち下ろしがキングの左肩へ痛烈に入った。


「グァアッ」


 苦痛に顔を歪めるゴブリンキング。

 なおも追撃の手を緩めないリホだったが、ゴブリンキングの耐久性も凄まじく、中々致命の一撃が決まらなかった。


(棒では決められない、だったら―――)


 リホはキングの突き出した剣を棒で絡めとり上へ跳ね上げた。

 剣はそのまま宙に舞い、ゴブリンキングは得物を失った。


「そこぉっ!」


 空いた懐へ入り込み、リホは左掌でキングの胴へ掌底突きを叩き込む。

 同時に練り上げた『気』も。


 ゴブリンキングの動きが止まり、やがてそのまま後ろへ倒れこんでいった。


「ふうぅぅぅぅぅ~」


 キングが完全に動きを止めたことを確認して、リホが構えを解く。

 こいつが階層主だとすれば、この後に敵が出てくることはまずないだろう。


 すると部屋の奥にそれまでなかった階段が現れた。


「やったぁ~。これで上の階に上がれるんだ」


 この階を制覇した証が現れて、リホもようやく喜べた。


「この調子なら次の階も小部屋から攻めてみて、様子を見てみるのがいいかな?」


 休憩中に考えていた疑問の答えが出せたようだ。

 階層主の報奨品はどういうわけか出てこなかった。

 仕方なくリホは部屋の奥の階段へ向かい、そこから次の階を目指して上っていった。




 次の階でも同じような展開が待ち受けていた。


 どうやら回廊部分には罠の類は設けられていないらしかった。

 進んでいってもそれらしい仕掛けは見えず、罠で絶命した者たちの亡骸も見当たらなかったのだ。

 念のため棒を前に突き出して歩いてはいるが、リホも何となくこの塔の仕組みを分かり始めていた。


「その階の小部屋を全部攻略する。そうすると階層主の部屋に入ることができる。階層主を倒すことで次の階への階段が現れる。そういうことよね、この塔の基本的な仕組みは」


 事前に師匠に教わった通りの仕組みだった。


「だったら、別段回廊部分で何か仕掛けなくても、小部屋と階層主部屋とで試練になるのか……。ほんと、なんでこんな塔が作られたんだろう?」


 誰が建てたのか分からないこの塔は、それ以上に何のための塔なのか、リホにはまるで見当がつかなかった。

 考えられるのは、本当に試練を与える存在として建てられた、ということか。


「そうとしか考えられないんだよなぁ。何かを納めていたり、祀ったりしているんだったら、侵入者よけの仕掛けが絶対にあるもん」


 決して多くはないが、過去に古代の遺跡に入って宝探しをするパーティに参加したことのあるリホにとって、お宝が置いてある場所に罠が存在しないなどということはありえない話だった。


「でもいいや。その分戦闘に集中しやすくなっているし、実力を測るにはうってつけかも」


 リホはさらに小部屋を開けては中の敵を撃退して、成果を挙げていくのだった。




 2階の階層主は犬鬼のパーティだった。


「パーティ?」


 訝しんだその瞬間、リホ目がけて火球が続けざまに向かってきた。

 慌てず回避行動をとったリホは、向かい合ったパーティ内に明らかに魔術師系と分かる身なりの犬鬼を複数見つけた。


「犬鬼術士(コボルドメイジ)!?」


 これまた非常に珍しい特別種で、初級ながら術式を発動させることが出来る犬鬼術士が2匹。

 残りの犬鬼達も明らかにこれまでのものとは違う、俊敏な動きをしていた。


「犬鬼騎士(コボルドナイト)か……」


 犬鬼の中でも剣技に優れ膂力ほかにも秀でいている、これまた特別種。

 それが4匹。


「ちょっと厄介かな………、でも!」


 リホは自分の周りを牽制するように回っていた犬鬼騎士の一匹に先回りするように、するするっと接近すると右拳を打ち込んだ。

 もちろん『気』も思い切り込めて。


「ギャフンッ」


 リホの拳を食らった犬鬼騎士は弾き飛ばされて転がり、動かなくなる。

 包囲網に穴が空いたところからリホが抜け出し、今まさにリホへ向けて次の術式を発動させようとしていた犬鬼術士に今度は肘を叩き込んだ。


「ギャガッ」


 その場で崩れ落ちる犬鬼術士。

 リホはすぐに場所を移動しもう一体の術士にも同様に肘を叩き込んだ。


 術士の援護の無くなった騎士たちはほどなくリホの一撃で沈み、リホはこの階も制覇したのだった。


 因みに出てきた報奨品は「何かの骨」だった。




「ほう、まあまあ頑張っているな」


 師匠が大きな硝子の画面をのぞき込みながら呟いた。


 その隣には、顎のあたりで切りそろえた黒髪、腰に吊り下げた荘厳な誂えの長剣、スラリと伸びた四肢に抜群のスタイルの美女が黙って控えていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。