三幕五場 「まどうきょう~!出番ですよ~!!」
「―――ふざけるなぁっ」
ブチ切れたリホの叫び声が操練場に響いた。
「あんたら、さっきから無能だの出来損ないだの、フーカちゃんを何だと思ってんのっ!」
さっきまでオンオン泣いていたリホは、泣きはらした顔そのままに、拳を振るわせてザハリーとジェスターの方に詰め寄った。
「あんたたちこそ、無能で出来損ないよっ! なによ、さっきから聞いてれば。開放派とか秘匿派とか、そんなものクズみたいなものよ!」
「やかましいわ。貴様のような部外者が口を挟むことではないわ」
「冗談じゃないわ、こっちは立派な関係者よ! あんたらのせいで、フーカちゃんがどれだけ辛い目にあったかわかってんの!?」
「今さら出来損ないの生徒一人がどうなろうと、知ったことか」
ザハリーとジェスターから吐き捨てるように言われても、リホは怯まなかった。
「だいたい、学院学院って、そんなに学院が大事なの? そんなに学院が偉いの? そんなに魔術師って大層な人間なの!?」
「当たり前ではないか。貴様らのような魔術も使えん無能者とは、我らは根本的に違うのだ。同列に扱って話をすること自体が大きな勘違いだ」
「そうとも。我ら魔術師は魔術を使えるというそのことが、既に他とは違う高みにいるのだ。お前のようなカスみたいな魔力しか持っていない人間には分からないだろうがな」
さっきまで言い争いをしていた二人は、ここでは妙に息があった口撃を返してくる。
「魔術が使えない者は、そもそもこの学院にいることはかなわぬのだ。そこのフーカなる生徒も、魔術が使えなくなった以上、速やかにここを立ち去るべきなのだ」
ザハリーが冷たく言い放つ。
「どのみち退学は免れない運命だったのだ。我ら開放派の覇権に少しでも協力してから辞めればよかったものを」
ジェスターが吐き捨てるように言った。
「あっそ」
リホの目が据わった。
「そう。そんなに偉いっていうんなら、確かめてやるわ」
「何をする気だ、貴様ごときが?」
「ん?」
師匠の眉がピクリと動いた。
「あいつ、何する気だ?」
「リホさん、ですか?」
フーカもリホの様子を見守っているが、今まで見たことのないリホの姿に戸惑っている。
「あんたたち魔術師がどれだけのものか、作った張本人に訊こうじゃないの」
「………なにを言っているのだ? 気でも狂ったか?」
リホは『収納袋』に手を入れると、魔導通信機を取り出した。
先日師匠から借りて、そのままにしてあったのだ。
「魔導卿~、出番ですよ~! ま・ど・う・きょ・う!!」
大声でそう叫ぶと、床に置いた通信機が光り始め、その上にすうっと魔導卿の姿が現れた。
「相変わらず騒々しいですねぇ。もう少し静かに呼び出せないものですか?」
「取り込み中だったらすみません。魔導卿にどうしてもお願いしたいことがあって」
「私に? なんでしょう」
「こいつら魔術師が一番偉いって言って聞かないんです。一言言ってやってくれませんか?」
「なんですか、だしぬけに。話が見えてこないですよ」
そう言って魔導卿は辺りを見回した。
その様子を見ているザハリーとジェスターは、固まっている。
「なんだ、その魔道具は?」
「それは一体、何者だ?」
その時、離れたところにいたフレドがものすごい勢いで突っ込んできて、魔導卿の目の前で頭を床にこすりつけた。
「こ、これは魔導卿………まさか、まさかこの目でそのお姿を見ることが叶うとは、このフレド、恐悦至極……」
「フレド……? ああ、メテリアの弟子にたしかそんな名前の魔導士がいましたね。ではそこは魔術学院内なのですか?」
「はい! たった今残留試験を行っていたところでして、この娘さんが……」
そう言ってフレドはリホの方を見る。その目は畏敬の念に満ちていた。
「学長、そのものは一体……」
ザハリーが恐る恐る尋ねてくる。
ジェスターも後に続いて様子を窺っている。どうやら通信機が気になるらしい。
「馬鹿者がっ! おぬし等も平身低頭せんか! この方をどなたと心得る。恐れ多くも魔術の創始者、魔導卿なるぞっ! 本来ならその尊顔を拝することすら許されぬお方なのに、こうしてお声までお聞かせいただけるとは……」
そこまで言って、またフレドは這いつくばってしまう。
「魔導卿………本当なのですか?」
ザハリーが探るように、魔導卿に訊いてきた。
「ええ、私が“絶え間なき魔導の探求を進める孤高のリッチロード”こと、ゼスト・ゲペンシュテルンですよ」
魔導卿は慇懃に礼をした。
「魔導卿は今から二千年も前の人物で、いくらエルフだったとしても存命とは……」
ジェスターが口を挟む。
「私の姿を見てもその謎が解けないようでは、貴方がたもまだまだ研鑽が足りませんね」
そうは言っても、今の魔導卿は膝くらいの高さの大きさで、半透明のふよふよ浮いている姿だ。
ここから伝説の魔導の創始者を思い浮かべるのは、それはそれで至難の業かもしれない。
「ふむ、そうですか………リホ殿?」
「なんですか?」
「通信機の裏に模様があるでしょう? その模様を右回りで三回撫でてください」
言われるままにリホは通信機をひっくり返して裏の模様を撫でた。
すると通信機の右横に、何やら回転させられるような半円形のギザギザが現れた。
「なんですか、これ?」
「通信機を置いたら、それを左向きに回してください」
リホはそう言われて、そのギザギザを指で思い切り左へ回した。
その途端。
物凄い魔力が操練場内に吹き荒れ、建物がぎしぎしと音を立てて揺れた。
魔力の噴出によって、突っ立っていたザハリーとジェスターは吹き飛ばされ転がっていった。
離れたところから見ていた師匠は、フーカの前に立って魔力よけになっていた。
「ありゃ回し過ぎだ」
「え、え、なんですか、あれは!?」
通信機の上に巨大な骸骨姿が出現したのだ。
漆黒の法衣を身に纏い、頭に宝冠を載せた骸骨が、凄まじい量の魔力を放出しながら辺りを見回す。
「我こそが魔導の創始者、魔導卿ゼスト・ゲペンシュテルン大公爵である」
その声はその場にいた全員が地面にひれ伏さざるを得ないほどの凄まじい魔力が込められていた。
フレドは勿論、ザハリーもジェスターも、他の魔術師達も、閲覧席にいた生徒達も、そしてフーカも。
リホと師匠を除く全員がその場で両膝を突き、頭を深々と下げたのだった。




