↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/111

三幕四場 「いよいよ黒幕の登場です」





 フーカがエメル教授から秘術を授けられる前の日の夕刻。


 エメルはジェスター主任教授に呼び出されていた。


「例のフーカとかいう生徒、授業を長期欠席していると聞いているが?」


 座っていながらも威圧感に押しつぶされそうになるほど、ジェスターの圧は強い。


「は、はあ。体調不良ということで寮監が届けにきまして。特になんの病気だとかは聞いておりませぬが」

「………ずいぶん呑気なものだな。残留試験に臨めぬ、となったら、貴様はどう責任をとるのだ?」

「せ、責任ですか? 本人の体調不良で試験を受けられない、ということであれば、私の責任はさほど問われないものかと……」

「馬鹿者が!」


 ドンッ


 ジェスターが拳を机に叩きつけた音で、エメルはビクッと背筋が伸びた。

 ジェスターは魔導士には似つかわしくないほどに体格がいい。

 魔導士としての実力もさるころながら、この身体からくる物理的な圧も、エメルの苦手とするところだった。


「貴様の管理責任など問題ではない。我が開放派が学院の覇権を握るための計画が台無しになったら、どう責任をとるのだと言っておるのだ」


 口調は静かながら、そこに込められた冷徹さと、普段見られるジェスターの計算高さとがひしひしと伝わり、エメルは思わず冷や汗をかいた。


「そ、それは………なんとしてもフーカを試験に引きずり出してみせます!」

「そんなことは当然だ。その上で貴様には果たしてもらう役目がある」


 そういってジェスターは机から一枚の羊皮紙を取り出した。


「これをそのフーカとやらに試験で使わせるのだ。それが貴様の役目だ」

「これは………一体?」

「貴様も見届け人として試験に立ち会うのだから、教えておいてやろう。これは私自らが調律した特別製の術式だ。聖雷撃(ホーリーライトニング)の形をとっているが、巧妙に別の術式が隠されている」

「別の術式……?」

「一つは発動者の技量に関わらず、必ず術式が正常に発動するようになる制御術式だ。フーカとやらがたとえどれほど未熟であっても、かの者の魔力を自動で使用して術式が完成する。

 もう一つは、発動した術がその場にいる最も魔力の高い者へ目掛けて襲い掛かる、というものだ。まるで雷が金属目がけて落ちていくように、魔力の高さに反応して術が向かっていく」

「そ、それは………」

「そうだ。残留試験の会場には、フレド学長とザハリー副学長とが並んで座っている。当然この術式が発動すれば、フレド学長へそれが襲い掛かることになる。そして当然隣にいるザハリーも、無事では済まん」

「………学長ごと、ですか」

「どのみち来期にはご引退されるのだ。多少それが早まったとて、大した問題ではなかろう」

「しかし、ジェスター様も同様にお近くにいるのでは?」

「私は術式の発動を見計らって距離を取る。聖雷撃の威力は距離が離れるほど弱くなるからな。ある程度離れておけば、こちらには大した影響はない」

「それを、フーカにやらせる、と」

「傍目には術が暴発したようにしか見えん。そういうふうになるようにしてある。つまりは試験中の事故として扱われることになるだろう。そうすれば、主を失くした秘匿派などものの数にも入らん。学長選挙が行われれば、私が自動的に学長に推薦される」


 そう言ってジェスターは席を立ち、窓の外を眺めた。

 ここに来て以来ずっと狙い続けていた学長の座が、いよいよ自分のものになるのだ。

 表情は変わらずにいたが、ジェスターは内心ほくそ笑んでいた。


「フーカが大人しくこれを使用するでしょうか?」

「それを承諾させるのが貴様の役目だ。いいか、これをしくじったらこの計画はなかったことになる。その時には、貴様にはそれ相応の責任を負ってもらうことになるぞ?」


 振り向いたジェスターの目にはこれまでで最も冷たい光が爛爛と光っていた。

 エメルはジェスターの本気を知って震え上がった。いや、あれはもはや狂気だ。


「わ、分かりました。なんとしても、フーカにこの術式を使用させます」


 そう言って主任教授室を後にしたエメルは、その晩一睡もできずに、フーカに術式を使わせられるようにする方策を練っていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 時は進み残留試験直前。


 操練場に入ってきたジェスターは、中央にポツンと突っ立っているフーカを初めて見た。


(ふん、あれが出来損ないか。たしかにエメルが言うように、計画の成功が危ぶまれそうな雰囲気ではあるな)


 エメルからうまくフーカに術式使用の契約を結ばせることが出来たと報告を受けていたが、実際にその姿を見ると一抹の不安を覚えなくもなかった。


(だが我が術式は完璧だ。あの者が滞りなく術式を発動させればそれでよい。あとは……)


 その時、フレド学長とザハリー副学長が操練場へ入ってくるのが見えた。

 ジェスターは自分のほうの仕上げにかかることにした。


「フレド学長、ザハリー副学長も、わざわざご足労いただきましてありがとうございます」


 ジェスターは深々と頭を下げてみせた。


「いやいや、礼には及ばんよ。何しろ、残留試験を見届けるのも学長の務めじゃからの」


 フレドはそう言ってひらひらと手を振る。

 一方のザハリーは無表情だ。


「生徒一人の進退が掛かっているのですから、学長と私、そして主任教授である貴方が出席して判断を下すのは、当然のことでしょう」


 残留試験は確かに非常に重みのある試験ではあったが、本来であればザハリーかジェスターかどちらかが筆頭を務めればよかった。

 しかし今回は、前年度に優秀生徒として表彰されたフーカが対象となったことで、より厳正かつ詳細な判断を下す必要がある、ということで、フレド自らが出席することになったのだった。


 それを聞いたときに今回の計画を思いついたジェスターは、我ながら巧妙な手口を思いついたものだと自画自賛していた。


「では念のためここにも防御術式を展開しておきましょう。とはいっても、あの生徒が発動させるのは火弾(ファイアーブレッド)であると担当教授のエメル師から聞いていますから、軽度の防御で十分でしょう」


 そう言ってジェスターは自分達の席の前に、対魔術用の結界を張り巡らした。言葉通り最も軽度の結界術式で。


「うむ。これで準備はできたかの? それでは、始めてもらうとするか」


 フレドが合図を出すと、控えていた魔術師が一人、操練場の中へ降りていった。

 魔術師が口上を述べ、フーカがそれに答える。

 学長以下が紹介されると、フーカがこちらへ向かってお辞儀をした。

 それに対してフレドが右手を挙げて挨拶を返す。


「学長、あの者をご存じで?」


 ザハリーが小声でフレドに尋ねた。昨年の優秀生徒ではあるが、直接面識があったとは聞いていない。


「ご存じかどうかで言えば、ご存じじゃろうな~。優秀生徒じゃったしね。それに、よく暴発させておったから、学長室にいても聞こえておったのう」


 そう言ってフレドはエメルの方を見て、悪戯っぽくにやりとした。

 エメルは恐縮してしまい視線を逸らせてしまったが、学長がフーカ個人を認識していた、ということに内心驚いていた。


「さあ、そろそろ始まりそうです」


 ジェスターがそう言って促した。

 本当ならよそ見でもしていてくれているうちに術式が発動してくれればいいのだが、試験の判定員となるとそういう訳にもいかない。

 まあ、いずれにしても発動すれば神速の速さで襲い掛かってくる雷撃を防ぐには、どうにも手がないだろう。もし何か感じ取って防御術式を展開しようものなら、自分がそれを打ち消してしまえばいい。死人に口なしだ。


 そんなことを思いながら、ジェスターは術式の発動に入ったフーカを見つめていた。



「ん? 火弾の術式と聞いていたが、違うようじゃな?」


 目の前でフーカが展開している術式を見て、フレドが顔を曇らせる。


「あれは………!?」


 ザハリーも訝(いぶか)し気にフーカの様子を見ている。

 まずい、ばれるか?


「もしかしたら昨年度のようにまた魔術を扱うことが出来るようになったのやもしれません。少し様子を見てみましょう」


 ジェスターはそういって、自身は落ち着いているように見せた。ここで自分が先に動いては、何かあると知らせるようなものだ。


「しかし聖雷撃とは、これまた大きく出たな」

「昨年度は優秀生徒として表彰されていますからな。勘を取り戻せばこの程度は操れる、と踏んだのでは」

「しかし二年生の扱う術式としては少し分不相応なのでは?」


 ザハリーが疑問を呈してくる。ジェスターは内心舌打ちしながら反論した。


「いずれにしても、本人が選択してそれを発動できれば、試験としては成立するのではありませんか? 副学長」

「それはもちろんだが、果たして成功するかな?」


(成功するさ、そしてその時が貴様の最後だっ!)


 ジェスターが自身の勝ちを確信し始めた時、フーカの術式が発動した。


 眩いばかりの閃光と轟く爆音。

 続いてドカンッガラガラッと何かが壊れる音が続く。


 その直前にジェスターは横っ飛びになり、フレド達と距離を取った。


(よしっ! やったぞ!!)


 耳を劈く雷鳴の中でジェスターは己の勝利を確信した。


 やがて閃光が晴れ視界が元通りになったジェスターは、学長席と副学長席の様子を確認する。


「………一体、どうしたというんじゃ?」

「な、なぜ…………?」


 ジェスターは自分の見ている光景が信じられなかった。


 無傷のフレドと、その前に立って簡易結界を展開しているザハリーの姿。

 ザハリーも無傷だった。


「なぜ、無事なのだ………?」


 ジェスターが操練場の方を見ると、そこには黒焦げになったまま立ち尽くしているフーカの姿があった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。