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三幕三場 「土下座するより他ありません!」





「その子から離れなさいっ!!」


 リホは飛び込んでいって、フーカの腕を抑え込んでいた男の一人に、背中から強烈な体当たりを食らわした。

 男は背後からの衝撃で宙を舞いながら、暗闇の奥へ吹き飛んでいく。

 その姿を目の当たりにした残った二名は、何が起きたのか理解が追いつかなかったが、リホの勢いに押されて早くも逃げ腰だった。


「はあぁぁぁっ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 慌ててしりもちをついた男が、観念したのかリホに向かって両手をぶんぶん振り出した。


「おれたちはこの娘に、危害を加える気はないんだっ」

「何を言ってるんです? 現に今フーカちゃんを押さえ込んで―――」

「こうしておかないと、こっちが危害を加えられるからだよ!」

「はい?」


 リホの動きが止まった。

 男達は膝をついてリホの前で一生懸命懇願している。

 ふっ飛ばされた男のことを考えれば、それも当然だろう。


「やれやれ、とんだ早とちりだな」


 師匠が後ろからやってきた。いやに落ち着いている。


「早とちりって………どういうことですか?」

「それはこいつらに訊けばいいだろう」


 そう言って師匠は最初に吹き飛ばされた男の回収に向かった。


「………どういうことですか?」

「この娘が突然、おれたちの家の方へ魔術をぶっぱなしやがったんだよ。おかげでうちの屋根には穴が開いてしまうし、こいつの家は壁が歪んでしまったんだ。それでここへ来てみたら、この娘が術式の発動をしているのに出くわして」

「それで今にも術式が暴発しそうだったため、慌てて止めさせようとして……・・」


 もう一人の男も話に加わってくる。どうやらそういうことだったらしい。


「………フーカちゃん、それ本当?」

「………………………………………すみません」


 消え入りそうな声でフーカが謝罪する。

 それを聞いたリホは、その場にばッと土下座した。


「申し訳ございません! 私てっきりフーカちゃんが襲われていると思ってつい」

「い、いや、いいですよ。おれたちもいきなり押さえ込んだりしたから………顔を上げてください」


 男達も少し慌ててリホに顔を上げるように促す。

 そこへ師匠が吹き飛んだ男を抱えて戻ってきた。


「まだまだ状況判断が甘い。そんなことじゃ、自ら死ににいくような羽目になるぞ?」

「返す言葉もございませんっ」


 土下座したままリホが答える。


「ほれ。ポーション飲ましておいたから、じきに目を覚ますだろう。受け取れ」


 そう言って抱えていた男を、師匠があとの二人のほうへ放り投げた。慌てて受け止める二人だったが、勢いに負けてそのまま転がってしまった。


「で、お前さんは何をしていたんだ?」


 師匠がフーカの方へ振り向いて尋ねた。


「私は………その………少しでも発動を安定させようと………自主練を」

「その途中でまた暴発させたのか?」

「……………………はい」


 フーカは今にも泣きだしそうだ。

 隣ではリホがまだ這いつくばった姿勢のままだ。


「暴発させた覚えはあるんだな?」

「……………………はい」

「それが周りに被害を及ぼしていたことは?」

「…………わかりませんでした」


 師匠は頭を少し掻いて、男達の方へ向き直った。


「ということだそうだ。悪気があったわけじゃない、ってのは判るか?」

「は、はい。それはもう………おれたちもこんな若い娘とは思ってなかったので」

「じゃあ、お前らの家の被害については、明日実際の様子を見させてもらおう。その上で修理については、こちらが代金を負担するよ」

「え、よろしいんですか?」

「ああ、うちのバカモノのしでかしたことの責任は取らなきゃならんからな」


 それを聞いてリホはますます頭を上げられなくなってしまった。

 自分のせいで師匠に負担を強いることになってしまった。マズい。これは非常にマズい!


「わかりました。ですが、旦那がどこの誰かわからないんじゃ、どうすればいいのか」

「大通りにある『水龍亭』という宿の最上階に泊まっているから、明日朝一で訪ねてきてくれ。宿の主人には話をしておく」

「そうですか、『水龍亭』の最上階ですか……。それなら確かに、損はしなさそうな話ですね。それじゃあ、明日伺わせてもらいます」


 そう言って二人の男は、目を覚ました最初の男を両脇で支えながら、暗闇の方へ去っていった。

 方角としては北街区、そこの住人か。


「さてと」


 師匠がリホの方へ再度向き直った。

 リホはずっと頭を下げたままだ。


「なにか言うことはないか?」

「すみませんでしたぁ~っ!!」


 頭が地面にめり込むかと思うくらい、リホは更に頭を上げ続けた。隣でフーカも正座の姿勢で頭を下げる。


「謝る相手が違うわな。お前も明日一緒にいって、ふっ飛ばした男に直接謝罪しろ」

「もちろんですっ。ですが、師匠にも迷惑をかけてしまったことを謝りたく――」

「あんなもんは迷惑でも何でもない。飛び出したお前の判断は間違ってはいない」


 リホはひょいと顔を上げた。飛び出したことが間違ってなければ、何がダメだったのだろう?


「お前が間違ったのは、状況を確認する前に手を出したことだ。大方フーカのことを見て頭に血が上ったんだろう。冷静な判断を下す前に手を出したのが、今回の失敗だ」


 図星だった。男達に組み伏せられているフーカを見て、思わず我を忘れてしまった。フーカを救わなければ、という一心で、突撃をかましてしまった。


「あ、あの、リホさん? 助けてくれて、ありがとうございました」


 フーカはそう言ってリホに向けて頭を下げた。結果はどうであれ、自分のピンチを救ってくれたことには変わりがない。


「ううん、こちらこそ。早とちりしちゃってごめんね。大丈夫? どこか怪我とかしてない?」

「私は大丈夫です。リホさんこそ、何ともありませんか?」

「わたしは大丈夫だよ」

「リホさんって、すごくお強いんですね。私びっくりしちゃった」

「そんなことないよ。フーカちゃんが危ないって思って必死だったから……」


 そんな会話を繰り広げていた二人だったが、頭上から見下ろしている師匠に気が付くと、途端に背筋を伸ばして座りなおす。


「「…………すみませんでした」」


 師匠は二人の様子をじっと見つめていたが、フーカの方を向いて話し始めた。


「お前さんは、そんなに残留試験とやらを乗り越えたいのか?」

「もちろんです!」

「その練習の度に周りに被害が出るんじゃ、困りもんだろう」


 言われてフーカは黙り込む。試験のために少しでも練習を積んでおきたいが、街の人に被害が及ぶのは自分も本意ではない。


「街の外に出て練習できないのか? それならどこにも被害が出ることはないだろう?」

「私たち魔術大学院の生徒は、卒業までこの街から外に出ることはできません。街を出られるようになるには、卒業して一人前の魔術師の称号を得るか、………退学処分になるか、です」


 最後の言葉を発するのは、今のフーカにとっては非常に辛いものがあった。今の自分にはその未来も現実味を帯びている。


「街の外に出られない………でも街中で術式発動の練習をしていると、また今回みたいにどこかへ迷惑をかけてしまう可能性がある………う~ん、どうしたらいいんでしょうねぇ?」


 リホは腕組みしながらブツブツ言っている。どうやら本気で解決策を考えているようだ。


「う~ん、街の外に出ずに、街に被害が出ないようにする………街の中でなければ被害は出ない、でも街の外には出られない………街の外に出ずに街の中にいない方法………………そうだっ!」


 リホはぴょんっと立ち上がった。


「師匠! 野宿の結界を使うのはどうですか!?」


 リホの言うのは、旅中の野宿の際に張っていた、魔導卿特製の結界具のことだ。『いそう』とやらをずらして、普通の空間ではないところを作り出すという、あれだ。


「あれなら街から出なくても、他所に迷惑がかかることはないと思います。あれ使いましょうよ!」

「何の話ですか?」


 フーカはきょとんとしている。それはそうだろう。普通の人間には想像もつかない内容だ。


 リホの話を聞いていた師匠が、周囲に結界を発動させた。

 その瞬間、リホ達がいるところを中心に辺りの景色がぼやけて、空間が隔離されたことが分かる。


「え、え? どこですか、ここ? 何をしたんですか?」

「ここならフーカちゃんがどれだけ術式を暴走させても、だれにも迷惑はかからないよ! 思う存分練習できるよ」

「暴発前提で話を進めるな」


 珍しく師匠が突っ込んだ。




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