↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/111

三幕二場 「いかにも悪だくみ、ってカンジ」

 41.三幕二場 「異端児」(4)




「いやぁ~、まさかフーカちゃんに見つかるとは思ってなかったけどね」

「それはこっちのセリフですよ! なんでお二人がここにいるのか、っていうか、どうやって学院の中に入れたんですか?」


 ここは学院内のとある一角、北側に面している小さな教室の中。

 リホの姿を見つけたまま固まってしまったフーカが、授業終わりと同時にすっ飛んできて、リホ(と師匠)を掴んでここまで連れてきたのだ。


「ちょっとした魔道具でな。姿を隠したら、意外とすんなり入れたぞ」


 声のしたほうにフーカが顔を向ける。

 万が一を考えて姿隠しの指輪は発動させたままなので、フーカからリホの姿はかろうじて見えるが、師匠の姿は全く見えない。


「お師匠様、ですよね? ほんとに、姿が消えているんですねぇ。びっくりです、こんな魔道具があるなんて」

「ま、まあ、そこはね、いろいろと」


 リホが慌てて言葉を濁しにかかる。ここで魔導卿のことが知られるのは、いろいろと面倒くさそうだ。


「それにしても、いったいどうしたんですか? わざわざ学院の中まで入りこんで……」

「内部がどんな風になっているのか、面白そうだったから来てみた」

「そ、そうですか……」


 姿が見えない相手と話をするのは、フーカもやりにくそうだった。


「それにしても、フーカちゃん、すごい一生懸命勉強してたねぇ~」

「……私は実技がダメですから、せめて座学だけでもがんばらないと……」

「そんなことないよ。あれだけ頑張れるのはすごいことだよ。わたしには無理だなぁ」

「そんなことはありませんよ、リホさんだってきっとあれくらいはできると思います」

「無理無理。だってわたし勉強嫌いだもん。訓練所でも、魔術の講義はさっぱりだったしね。やっぱりフーカちゃんはすごいよ」


 昨日師匠に指摘されてはいたが、目の前で頑張っているフーカを見ると、やっぱり応援したくなってしまう。


「他に面白そうな場所はあるか?」


 師匠はいつでもそれだ。


「面白そうな場所ですか? う~ん、どうでしょう。魔術の実技が見たいなら、西側の棟に行くと比較的多く授業が行われていると思います」


 その時鐘が鳴った。


「あ、いけない。私次の授業があるので失礼しますね。お二人とも、くれぐれも見つからないようにしてくださいね」


 そう言ってフーカはパタパタと駆け出して行った。


「フーカちゃん、めげずに偉いですね」

「そうかい?」

「そうですよ。きっと大変な思いをしているはずなのに、あんなに頑張って………偉いです、彼女は」


 フーカの走り去る姿を見送りながら、リホは何度も繰り返した。



 リホ達と別れたフーカは、急いで次の授業の教室へ向かった。

 次の授業は魔道具を使った発動実践だ。

 純粋な術式発動の授業に比べて、魔道具を操作するのはフーカもまだ制御できているほうだったので、幾分気持ちが楽だった。

 それに、会えるとは思ってもみなかった人たちに会えて、褒めてもらえたことも、フーカの気持ちを上向きに押し上げてくれていた。


「遅れましたすみませんすみません!」


 そう言って教室に飛び込んだフーカは、教壇の前に立つ人物を見て足が止まってしまった。


「エ、エメル先生?」

「おや、戻ってきたんですかぁ? てっきり学院から逃げ出したものだと思っていましたよ?」


 メガネの奥に陰湿な光を湛えながら、エメルはフーカにそんな言葉を投げつけた。

 クラスメイト達は無反応だが、微かに冷笑している空気を感じる。

 フーカは途端に、さっきまでの楽しかった気持ちが吹き飛んで、胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。


「す、すみません。ちょっと用事があったので………」

「貴方にそんな用事があるとは思えませんけどねぇ。ふん、まあいいでしょう。とっとと席に着きなさい」


 そう言ってエメルは顎をしゃくってフーカに着席を促した。

 フーカも言われるがままにいつもの指定席へ向かい、俯いたまま椅子に座った。


「この時間は、担当のカリウス先生が急用のため、代わりに私が皆さんのことを指導します。では、それぞれ魔道具を準備してください」


 カリウス准教授はフーカに対して当たりはきつくなく、授業内容も比較的こなすことができるものだったから、この授業はすきだったのだが、急遽エメル教授が代役に来たことで、フーカは一気に気持ちが下がってしまった。


「さあさあ、早く準備してくださいねぇ。おや、フーカさん、まだ何も準備できていないんですか? やっぱり貴方はこの授業でも無能なんですかねぇ?」


 それから約1時間、フーカはエメルの度重なる揶揄にじっと耐え忍ぶことになった。



 フーカから聞いた西側の棟に行くことにしたリホ達は、ひとまず学院内の建物を一通り見て回って、西棟へ向かった。

 学院の建物は大きな口の形をしており、中庭に当たる部分には、各階で渡り廊下が伸びており突っ切ることができる。

 リホは全方位から見えてしまう渡り廊下を避けて、建物内を進んでいくことにした。


 師匠と手をつなぎながら、廊下を進み階段を更に上がって、上の階へ移動する。

 どうやら西棟の最上階らしい場所へと着いた二人は、魔術の実践授業をしている教室を探してみたが、この階でそんな授業が行われている雰囲気はなかった。


「静かですね~。誰もいないんでしょうか?」

「この時間は使われていないのかもしれんな」


 そんなことを話しながら進んでいくと、廊下の端の教室の扉が半開きになっているのを見つけた。

 そっと近寄って中を覗き込むと、何やら話し声が聞こえてくる。

 リホは思わず聞き耳を立てた。


「……期末まで待つのだ。そこで一気に形成を逆転させる」

「そんなに悠長に待っていて大丈夫なのですか!?」


 どうやら中には二人いるようだ。ここからは一人の姿しか見えない。

 話をしているのは青色の法衣を身にまとった、40歳くらいの魔術師だった。


「最近では中立を決め込んでいる者たちから、我ら開放派は形勢不利と思われている節があります。現に、我らへの参画を勧誘しても、保留にされることが増えてきているんです。このままでは、来期の組織改編で秘匿派に押し切られてしまう恐れも……」

「何事も時期というものがあるのだ。心配せずとも手は打ってある。今下手にバタバタと見苦しい動きをすれば、それこそ立場を決めかねている者どもに侮られてしまうことが、分からぬか?」

「ですがジェスター様。派閥内の若手からも、このまま何もせずにいるのか、といった疑問や不満も挙がってきているようです」

「それを抑え込むのは貴殿らの務めだろう? とにかく、この件については既に決定しているのだ。カリウス師、貴殿は実行に向けて、滞りなく準備をすすめておけばよい」

「かしこまりました」

「くれぐれも本人に悟られぬようにな」


 話が済んだのか、扉の方へ向かって歩いてくる足音がする。


「(師匠、こっちへ!)」


 リホは急いで師匠を引っ張って、廊下にある柱の陰にみを隠した。

 やがて部屋から出てきたのは、先ほど見えていた男より一回りくらい年上の、口ひげを生やした恰幅のいい人物だった。赤い法衣を纏い、大ぶりの魔石を付けた杖(スタッフ)を持っている。


 男はリホと師匠が隠れている方へ歩いてきた。

 思わず息を止めて気配を消すリホ。

 男はそのまま二人の前を通りすぎていき、やがて廊下の先で階段に消えていった。

 もう一人の男は反対方向へ行ったようだった。


「ふう~っ。焦りましたね。まさかこっちに来るなんて」

「俺は別に焦ってはいないぞ」

「わたしは焦ったんですって! それにしても、さっきの話、なんなんでしょうね。開放派とか、秘匿派とか」

「別に興味ない。ああいうのは面倒くさいから」

「ああいうのって?」

「おおかた、魔道具工房の親父が言っていた、学内の勢力争いだろう? そんなの、もう見飽きたし聞き飽きたんだよ」


 そう言って師匠は歩き出した。リホもすかさずくっついていく。


「でも、一気に逆転させるって………なんだか、剣呑ですよね」


 リホは先ほど耳にした会話を思い返していた。


(フーカちゃんが巻き込まれなければいいけど)


 そんなことを考えながら、師匠の後についていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。