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一幕一場 「お色気だけじゃ、ダメですか?」

 

 “師匠”がリホに教えてくれた力は、この世界に存在する根源的な力、という話だった。

 あらゆるものに宿っているその力を自分の体内に取り込むと同時に、自分の周りに存在する力を自在に操るようにする、というのが“師匠”の教えだったが。


 当然リホにはチンプンカンプンだった。


 ただ、ゆっくりと呼吸をしながら一緒にその力を吸い込む(つもりでやる)こと、逆にゆっくり息を吐きだしながら、自分の中の力を頭のてっぺんから放出させる(つもりでやる)ことを、あれからたっぷり午前中繰り返させられた。

 おかげでリホは大したことはしていないのに、お昼には結構ぐったりするほど疲れていた。


「疲れるのは当然なんだよ。普段使っていない力を使おうとしているんだから。その意味でいえば、うまくできているといってもいい」

「本当ですか?」

「方向性としてはな」


 中庭の芝の上に大の字に寝ながら、リホはちょっとうれしかった。


「これって、どのくらい続ければできるようになりますか?」

 剣術も魔術も才能なし! と言われたリホにとって、誰かに褒められる、そして才能があると言われることはめったにないことだった。思わず期待してしまう。


「お前次第だろうけど、早くて3年くらいか」

「……えぇ!?」

「3年で力を感じ取れるようになれればいいほうだろう。自在に使えるようになるには、そうだなぁ、10年くらい見とけばいいんじゃないか? 才能があったとしてだが」


 勝手に高まった期待を一気に突き落とされた。


「じゅ、じゅうねんも…」

「リホ殿にとってはあっという間に過ぎる時間ですよ」


 修業中ずっとテーブルでお茶を飲みながら様子を見ていた魔導卿が、一応のフォロー?を入れてくれた。


「そ、そうでしょうか…?」

「そうですとも。何ならあなたも、アンデッドになってみてはいかがですか? そうすればそれこそ100年200年なぞあっという間…」

「お断りします!」


 まだ少しの時間しか一緒にはいないが、リホにはこの魔導卿という存在がだんだん判りかけてきていた。


「ただしだ、これだけ使えたところでお前が一人で生きられるようになるわけじゃない」

「そうなんですか!? それじゃぁ話がちがうじゃ」

「だから、午後はまた別の修業をする」

 これ以上また何かさせられるの!? リホは思わず顔に出てしまった。


「まあ、楽しみにしときな」


 “師匠”はそう言って、食堂の方へ歩いて行った。





 午後の修業は『武術』(ウーシュン)と呼ばれる、格闘術だった。

 リホが以前に通った訓練所でも剣術や槍術があったが、“師匠”の教えるのはそれとはまるで違うものだった。


 とりあえずリホはこの日からしばらくの間、足のひどい筋肉痛に悩まされまともに歩けなくなったことを、のちのちまで“師匠”に愚痴っていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 リホが“師匠”の下で修業を始めてから約半年。


 想定されていたよりよほど早く、リホは修業の成果が出ていた。


「これはこれは……中々に興味深い状況ですねぇ」

 魔導卿が目を細めてリホの状態を確認する。

 リホは今、自分の体内に取り入れた力を放出する様が、かなりはっきりと見えるようになっていた。


「思ってたよりも適性あるなぁ~、なんだろう?」

 “師匠”も同じくリホを見ながらつぶやく。

 “師匠”としてもこれほど短期間で力の発現が見られたのは予想外だったようだ。


「ふぅ~~~~っ」


 呼吸法の鍛錬を終えて、リホが深い息をつく。


 その表情は満足げだ。


 午後に鍛錬している『武術』はまだまだ基礎鍛錬の段階だが、呼吸法が急速に進歩したことで、体の疲れ方も以前より格段に少なくなっている。


 そんなリホの様子に、“師匠”は何か考えたようだった。


「ちょっと出かけてくる」

 数日後、そういって“師匠”は出ていった。


「わたしの修業はどうなるんでしょう…?」

「そのことについては私が引き継ぎを受けています」

 魔導卿が中庭で何か作業をしながらリホに答えた。どうやら術式を構築している?らしいが、魔術に疎いリホにはそれがなんの術式なのかはさっぱり判らない。


「マスターから、あなたの修業を監督する役目を呼ぶように仰せつかりました」

「誰か来るんですか?」

「ええ、これからここへ呼びます」


 そういうと魔導卿は早速術式を作動させ始めた。

 中庭の奥に巨大な積層式術式が浮かび上がり、次々に起動していく。

 それに併せて中庭全体に凄まじい魔力が吹き荒れ、やがて眩い閃光が中庭を満たした。


「――――うぅっっっ!?」


 思わずリホは目をつむり身をかがめたが、その上を物凄い魔力が通り過ぎていく。

 そのままリホが耐え続け、漸く光と魔力が収まったかと思ったとき、


「はぁ~~~~い!」


 突然の妖艶な声にリホが目を開けると、目の前に思わず目を覆いたくなるほど露出の高い恰好をした絶世の美女が立っていた。


「貴方がわたしのいもうと弟子なのねぇ~~?」


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