三幕一場 「新キャラは美少女って決まりでも?」
魔導都市ヴィステリウムは大陸の中で大きい部類の都市だ。
最も栄えている南街区だけでも、カルドの街ほどの大きさを誇る。
その中心にあるのが、この街の発端にして象徴である、ヴィステリウム魔術大学院だ。
街は学院を囲むようにして発展していった。そのため、どこの街区からも、そびえ立つ4本の尖塔を仰ぐことができる。
リホと師匠は工房街である東街区を散策しながら、学院のある中央部へと近づいて行った。
「しっかし、すごい高い塔ですね~。これに匹敵するのって、たしかサラディン大聖堂の主塔くらいなんですよね?」
「まあ、そうだな。あちらは1柱だけだが」
サラディン大聖堂は光の主神サラディンを祀る総本山で、毎年数多くの信者が祈りを捧げに来るという。
その大聖堂からそびえる主塔とこの学院の尖塔とが、大陸で最も高い建造物として双璧をなしているのだが―――
「高さでいったら、『試練の塔』のほうが遥かに高いぞ?」
「試練の塔?」
「知らんのか? 南海の孤島にある、雲を突く巨塔だ」
「名前は聞いたことありますけど……それって、作り話じゃないんですか? 空飛ぶ城とか、異界の門みたいな」
「じゃあ、今度連れて行ってやるよ。自分の目で確かめればいい」
「えぇ~、実在するんですか? 知らなかった……」
「割と知られていると思ったがな」
「試練の塔」というのは、半ば伝説と化している古代遺跡だ。
いつ、だれが作ったのか分からないが、雲の上まで突き抜ける塔があり、その頂点まで登りつめると、この世で最も偉大な力を得ることができるようになる、と言われている。
しかしどこに存在するのか、どうやってそこへ行くのかなどが不明で、リホ達冒険者の間でも、ネタにされる程度の話でしかなかった。
そんな場所のことを知っているとは、さすがは師匠。
リホは疑うこともなく、「試練の塔」についての師匠の言葉を受け止めていた。
やがて目の前にまるで城壁のような壁に囲まれた、巨大な建物が見えてきた。
「うわぁ、大きいですね~。こんなに広いんですか」
リホは目の前に広がっている壁の果てのなさに、たいそう驚いていた。
「こっちかな」
そういって師匠は入り口を探す。
学院の入り口は南街区から伸びる街道に向いて開けられていたため、二人はそちら側まで回り込んだ。
しかし。
「許可のない者は立入禁止だ」
入り口に立っている守衛と思われる魔術師に、立ち入りを拒まれてしまった。
「ちょっとくらい覗かせてもらってもいいじゃないですか~。ちょっとだけですから」
「駄目だ。すぐに立ち去れ。さもなくば力ずくで排除することになるぞ?」
そういって魔術師は剣呑にも、自分の胸のあたりに術式を描き始めた。
「わ、分かりましたよ。行けばいいんでしょ」
慌ててリホは入り口から離れる。師匠も黙ってその後に続いた。
「何なんですか、もう~。すごい感じ悪かったんですけど」
「あんなもんだろ。ここの連中は自分たちが一番偉い、と思ってるからな」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだろう。なにせ学院があることでこの街は成り立っているんだからな。それに、魔術師ってのは大抵そういう風なものさ」
「………魔導卿も、ですか?」
「あれは別だ。見てりゃわかるだろう?」
確かに、魔導卿が偉そうな態度を取ったところなんて、見たことがない。
それよりも、いつも何かを考えて思索に耽っている姿ばかりだ。
「さっきの魔術師を見たら、魔導卿何て言うんでしょうね」
「さあな」
二人は言葉を交わしながら、学院の外壁に沿うように歩いて行った。
外壁は左に向かって緩やかに曲がり、街の北側へ向かう形になった。
「この辺りから北街区だな」
「ここが、ですか?」
リホが確かめたのも無理はない。
先ほどまでの東街区や、派手な商店の並ぶ南街区と比べて、ここは薄汚れて暗い雰囲気の漂う、まるで貧民街だったのだ。
リホはかつて、村を追われて母と二人で移り住んだ街のスラムを思い出して、複雑な気分になった。
「この街に、こんなところがあるなんて………」
「大きい街には大抵こういうところがあるもんだ。別に珍しくはないぞ」
「でも、この街は魔術学院のあるところだし、こういうのが存在しない、って勝手に思ってました」
「人間が生活しているところには、必ずついて回るんだよ」
師匠の言葉には、知った風な感じはない。事実として淡々と述べている感じだった。
やがて貧民街も通り過ぎ、小さな川に挟まれた空き地が出てくるようになった。
その辺りに、学院の外壁から出入りできる通用口のような箇所があった。
「あ、師匠、あそこから入れますよ?」
リホはそう言って入り口らしい場所を指さしたが、師匠は見ていなかった。
「なに見てるんですか、師匠?」
「あれ」
そういって師匠が顎で示したのは、空き地の中ほどで杖を構え、動きを止めたまま何かをしている少女の姿だった。
「なにをしてるんでしょう? 学院の生徒でしょうか?」
「さあてな。ただ―――」
師匠がそう言いかけたとき、その少女が杖を振り上げ、術式を発動させた。
術式は少女の背後で形成され、色を赤や青、緑と次々に変えながら、目まぐるしく展開されている。
「随分変わった術式だな」
「そうですね、あんなふうに光ってるなんて、まるで不安定な感じ………」
リホがそう言いかけた時、術式が眩い光を発して膨張した。
「むっ」
思わず師匠が唸る。
ボゴォォォ~~~~~ン
爆発音がして、煙が吹き上がった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
何かがリホの方へ飛んできた。リホは咄嗟に構える。
飛んできたのは、さっきの少女だった。
「うわぁっ」
人が飛んできたことで動揺したリホの代わりに、師匠が少女を受け止めた。
「よっと。おい、大丈夫か?」
受け止めたまま師匠が少女に問いかける。
「ああ、また失敗だ………これじゃあ今度の試験が、しけんがぁ~」
師匠に抱きかかえられながら、少女は大泣きに泣き出していた。




