二幕五場「無自覚たらしが一番たちが悪いんですって」
次の日の朝、村を発つリホと師匠を見送るために、カヤ達が集まっていた。
はじめは盛大なお祭りを行ってから送り出そう、というような話が挙がっていたのだが、リホも師匠もそれは頑なにお断りしたのだった。
これ以上持ち上げられたら、恥ずかしさで死んでしまう。
師匠はそういうことではなく、たた単純に「面白くなさそうだから」ということだった。
仰々しいお見送りはなしにしてもらい、一緒に戦った戦士達や世話役たちの他は、グァムなど数名の主だった者たちだけで見送ってもらうことにしたのだった。
「本当にありがとうございました。カヤ様、サヤ様を助けていただいたこと、感謝してもしきれません。これからは、あなた方を私どもの良き友とさせてもらいとう存じます」
長老格のハイエルフがそう言って丁重に頭を下げた。
「違うわよ、じい。私たちが良き友とさせてもらうのよ」
サヤがリホの手を取ってそう言った。
「ね、私たち、これからもずっと友達よね?」
「え、あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
リホは慣れない感じでそう答える。
サヤの積極性にはまだ慣れない。いや、当分慣れそうもないかな。
その後戦士たちがリホを取り囲み、別れの挨拶を述べたり、巨大トレントに放った一撃についてあれこれ質問したりと、たいそうにぎやかになった。
「………あなたも、ありがとう」
サヤがそういって師匠のところにきた。
「別に礼などいらんよ。姉の方にも言ったけどな」
「ううん、私は直接助けてもらったから。ちゃんとお礼を言わないと」
「あれは別に気にするな。たまたまそうなっただけだ」
「それでも、ありがとう。助けてくれて。あんな風に誰かに助けられたの初めてだったの」
サヤはそう言って師匠の手を取った。
師匠はされるがままにサヤの手を握り返した。
「どうか、また森に遊びに来てね。その時には、今よりももっといい村になっていると思うから」
「そうだな。それを見に来るのも面白いかもしれんな」
「じゃあ、約束ね」
そういってサヤは師匠の手をギュッと握ると、身をひるがえして去っていった。
そこへ、リホと話をしていたカヤが近付いてきた。
「……重ねてになりますが、この度のこと、本当にお礼を申し上げます」
「固い固い。もっと気楽にしてろっていったろ? そんなしかめっ面してないで、もっとニッコリしてたほうがいいぞ」
「………もうっ、ほんとにあなたは………」
カヤは一瞬ふくれっ面をしたが、やがてフッと表情を緩ませた。
「そうですね………そうかもしれませんね。これから外の者と交流を図るのに、もっと柔らかくいる必要があるのかもしれません」
「その考え方も既に固いんだがな。まあいいや。お前さんならうまくやれるだろう」
「そうおっしゃっていただけますか?」
「ああ。初めに会ったときに比べて、随分と良くなった感じがするぞ」
「本当ですか? それは、どのあたりが……」
「あ、カヤさん、くれぐれもカルドの街で、私たちのこと漏らしすぎないようにしてくださいね!」
リホが横から割って入ってきた。
自分たちがカルドで手配犯になっていることは、その原因となった出来事を上手く説明できないので、中々しっかりと釘を刺せなかったのだ。
「分かっています。お二人と交流があった、ということくらいにとどめておきますよ」
そういってカヤはリホに微笑んだ。
一番最初にカヤと出会ったときにも、超絶美少女だと思ったが、こうして微笑んだ顔を見せられると、余計に美しさが増した感じがして、思わず羨ましくなってしまう。
「それじゃあ、そろそろ行くか」
そういって師匠が村の入口へ向かった。
「皆さん、お世話になりました!」
リホもそういってぺこりと頭を下げた。
「どうかご無事な旅を祈っています!」
エルフ達が口をそろえて見送りの言葉を掛ける。
村から遠ざかっていく二人の姿を見つめてたカヤの隣に、サヤがやってきた。
「お姉ちゃん、ちゃんとお話できた?」
「ええ、お礼はしっかりと伝えることができました。もっとも礼などいらん、と言われてしまいましたが」
「そうじゃなくて。自分の気持ちを伝えられたのか、ってこと」
「わたくしの気持ち?」
「そうよ。だってお姉ちゃん、師匠のこと、好きでしょう?」
「!? な、なにを言ってるの!? そんなこと……」
「隠してもムダだからね。きっとお姉ちゃんのことだから、自分でも気づいてないんじゃないかって思ってたけど、ホントは分かってたんだね」
「そ、そんなことありません!」
「うんうん、その慌てっぷりがもう物語ってるよ? いいんじゃない、好きでいても」
「サヤっ!」
「なんか、つかみどころのない変なひとだったけど……、なんだかんだ言って一番お世話になっちゃったよね、師匠に。私も助けてもらっちゃったし……」
「あなたこそ、その、し、師匠に気があるのではないの!?」
「私? う~ん、どうなんだろ。私はそういうのよくわかんないけど。でも、嫌いじゃないよね。師匠も、リホさんも」
サヤはそう言って二人が見えなくなったほうを仰いだ。
「お姉ちゃんだってそうでしょう?」
カヤも同じように森の奥を見つめていたが、ゆっくりと目を閉じると、一つ軽いため息をついた。
「そうね、あなたの言うとおりかもしれない。きっと、そうなのね。わたくしにもまだよくわからないけれども………」
「………また、来てほしいね」
「………そうね。その時までに、村をしっかりと守っていかなくちゃ」
カヤはサヤを見つめる。サヤもカヤを見つめ返した。
「がんばろうね」
「がんばろうね、お姉ちゃん」
二人は手を取り合い、村の中へ戻っていく。
村の中では大勢のエルフ達が二人を待っていた。




