二幕四場 「はじめての、BOSS」
周囲をトレントに囲まれている。
そのことに、エルフ達は最大級の警戒を敷いて、カヤとサヤを取り囲んだ。
先ほどトレントに引き寄せられていった世話役の女は、エルフの戦士が決死の飛び込みで枝を切り落とし、幹に引き込まれる前に救出できた。
トレントに掴まったものは、その幹に取り込まれると、生きたままトレントの養分として、ゆっくりとその身を蝕まれていく。
「カヤ様、いかがいたしましょうっ?」
戦士たちが周りのトレントを牽制するように短剣を振るいながらカヤに尋ねる。
ここから宝珠の神殿までそれほど距離はないはずだ。
ここでトレントどもを迎え撃つのか、それとも追撃を振り切って奥へ突き進むか―――
「……ここは一旦引いて態勢を立て直してから……」
「いいえ、ここは一点集中で正面を突破すべきよ」
サヤがカヤの意見に異を唱えた。
「トレントの足は遅いわ。包囲を突破できれば追撃は来ないと思って大丈夫なはず。逆にここで引いたとしても、このトレント達がここからいなくなる可能性はほとんどないわ」
リホもサヤの意見に賛成だった。
目の前のトレント達がどれくらいいるか分からないのが不安な点だが、どのみちこの先に進まなければならないのだ。
突破できるならば先に進むほうがいいだろう。
「……分かったわ。それでは前面に戦力を集中して、ここを突破します。後方はベラルとサインに任せます。それと……」
カヤはそこでリホと師匠のほうを向いた。
「貴方がたにも、追いすがるトレント達をお任せしてよろしいですか?」
「もちろんだ」
リホが答える前に師匠が答えていた。
「ちょ、師匠。実際に相手にするのはわたしなんでしょう?」
「そうだ。良く分かってるな」
「そうじゃなくて!」
「やつらは本体は大して動けない代わりに、枝を鞭のように伸ばして獲物を捕まえにくる。それを防げれば、あとは距離を取ってしまえばお終いだ」
「……わかりましたよ、もう」
そう言ってリホは『収納袋』から棒を取りだした。
木の魔物であるトレントに対して、木の棒で立ち向かうのもどうかと思ったが、素手で振り払うよりはマシだろう。
それに何といっても、魔導卿が手を入れた棒だ。
他にも何か仕掛けがしてあるかもしれない。
「よし! それでは突っ込むぞっ!」
エルフの戦士たちが錘の形で、内側にカヤとサヤを守るように陣形を取って、前方のトレント目掛けて突っ込んでいく。
トレントから飛んでくる枝を剣で払いのけながら、後続が続く道を確保していく。
左右を世話役の女エルフ達に守られる形で、カヤとサヤが後に続く。
その後ろから師匠がついていくが、特に何をするわけでもない。
リホは最後尾、二人の戦士と共に後方に注意して、追いすがってくるトレントの枝を打ち払いながら追いかける形だ。
やはりトレント達は本体が移動できない分、枝による攻撃が多かったが、それも距離に限度があるようで、ある程度遠ざかると、それ以上は追ってこられないようだった。
前方の戦士たちが初手でトレントに結構な打撃を与えてくれていたのもあって、後方から追いかけてくる枝の数はそれほど多くなかった。
リホも迎撃のため構えていたが、二人の戦士が相手をしてくれたおかげで、ほとんど手を出すことなく進むことができた。
「あと、もう少しですっ。もう少しで、神殿に、つきます!」
前の方からカヤの声が聞こえる。かなり息が上がっているようだ。
とそこで、急に前方の進みが鈍くなった。
「くっ、数が多い! これでは抜けるのに時間がかかる!」
どうやら前方にトレントが集中しているらしい。
「おい、お前ら、前に回ってやりな」
師匠が後方担当の戦士たちにそう声を掛けた。
「ここはあいつ一人で持ちこたえられる。前が詰まったんじゃ、ジリ貧になるぞ?」
師匠にそう言われて、ベラルとサインは互いに顔を見合わせていたが、やがて思い切ったように頷いた。
「それではここはお任せします!」
そう言って前方へ切り込んでいく。
「……ちょっと、師匠? 本気で言ってます?」
「もちろん。この程度なら問題ないだろ?」
「ダメだった時には責任取ってもらいますからね?」
リホは釘を刺してみたが、正直師匠が責任を取ってくれるとは思えなかった。
それでも何か言ってやらないと気が済まなかったのだ。
集団の進む速度が落ちたため、後ろから追撃してくるトレントの数もさっきより増えてしまった。
リホは襲い掛かる枝を棒で打ち払う。
棒に付与されている術は、トレントにもそれなりに有効だったが、食人鬼や森林熊を相手にした時よりはやや劣る感じだった。
枝を大きく弾くことはできるが、粉砕するまではいかない。
やはり同じ材質だからだろうか?
「それでいい。近づけさせなければいいんだ」
師匠はそういってリホのことを眺めている。
ある程度棒を振える空間があることで、リホも上下左右に襲ってくる枝を十分に食い止めることができていた。
前方では少しずつトレントの壁を突破できているのか、じりじりと前進していく。
やがて、
「抜けるぞっ!」
前方から声が上がり、一気に前に進むことができるようになった。
リホもそれに併せて、棒を振いながら続く。
トレント達の包囲を抜けた先は、森の木々が途切れた広場のような場所だった。
リホも追撃を振り切って開けたところまで出たが、そこで一行が呆然と立ち止まっているのに気づいた。
「………あ、あれは……、いったい、どうして……?」
カヤが前を凝視している。
視線の先には、かつて神殿であっただろう、石造りの建物の崩れた姿があった。
そしてその上に覆い被さるように、根や枝を張り巡らせている、巨大なトレントの姿があった。




