一幕四場 「やりすぎはよくないと思うの」
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リホがノアを連れて裏門へ向かったその少し前。
裏門の警備に当たっている衛兵たちは、さっきから聞こえてくる爆発音に不安を募らせていた。
「おいおい、ほんとに大丈夫なのか、ここ」
「いったい何が起こってやがるんだ?」
「この館が襲撃されているっていうのか? いったい誰が……」
衛兵たちは持ち場を離れるわけにもいかず、正面で何が起きているのか推し量るしかなかった。
「俺らはどうする?」
「正面で騒ぎが起きてるってことは……、ここにもそのうちやってくるかもしれないな」
そういって一人の男が声を潜める。
「じゃあ、外の守りを固めておく必要があるな」
そういって2人は門の外の様子を見に出ていった。
リホが裏門に着くと、先ほどは門の内側でたむろしていた衛兵たちの姿が見えない。
リホは屋敷わきにある茂みの中にノアを座らせて、静かに門へ近づいて行った。
門の外から男達の話し声が聞こえる。
リホは音を立てずに門に耳をつけて、外の話し声を確認した。
人数は変わらず2人。扉の左右に分かれて立っているようだ。
リホは相手の人数と位置を掴むと、大きく一呼吸して『気』を練りこむと、一気に扉の外に飛び出した。
衛兵たちが身構える前に、リホはそれぞれに『気』の籠った一撃を叩き込んで昏倒させる。
しばらくして安全を確認したリホは、取って返してノアを茂みから連れ出し、裏門から執政官の館を抜け出した。
正面へ向かって戻る途中、またしても大きな爆発音が轟いた。
「おねえちゃん、あれなんのおと?」
ノアが不思議そうに聞いてくる。怖くはないらしい。
「あれは……、そう、師匠がね、ノアちゃんを助けるためにやってるんだよ」
「ししょうが? ししょう、すごい~」
ノアは嬉しそうだ。
「急いでおかあさんのところに戻りましょうね」
リホはノアを抱えて走り出した。
先ほどから大きくなっている爆発音に、少し不安を感じていたからでもあった。
「………、で、これですか」
リホが正面の門へ戻ると、景色が一変していた。
まず正門がない。吹き飛んでいる。
正門から玄関へと続く通路には爆発の穴がところどころに開いており、通路脇の彫像も見る影もなく吹き飛んでいる。
玄関までの通路やその脇にある噴水、花壇に蹲っているのは執政官の部下達。
「大丈夫だ、命に別状はない」
“師匠”はなぜか得意げだった。
(命に別状はないって……、命だけは助かった、の間違いでは?)
リホは心の中でツッコむ。
執政官の部下達は全員『おしおき』されたらしい。
元工夫達が怯えながら説明してくれた。
彼らにとっても思い出したくない出来事だったようだ。
“師匠”の手で次々と連続平手打ちの刑に処せられる部下達。
その一部始終を工夫達は後ろでただ固まって見守るだけだった。
「そっちはうまくいったようだな」
“師匠”がノアをみてそう声を掛ける。
「ししょう~~~!」
ノアが“師匠”の元へ駆け寄っていき、脚にしがみついたと思ったら泣き出した。
やはり本当は怖くてしょうがなかったのか。
リホはそう思うとともに、なんでこんなに“師匠”が好かれているんだろう、と改めて疑問に思っていた。
一方で幼女に縋り付かれて泣かれている“師匠”、というなかなか見られない光景を珍しく思って見ていた。
(ナナさんがこの様子を見たら、どんな反応するかな?)
きっと正視できないような姿態をさらけ出すだろう。
“師匠”はしがみついているノアの頭を撫でていた。
ノアを眺めながら頭を撫で続けている“師匠”の顔は無表情だが、手は止まることはない。
リホには“師匠”が何かを考えているように見えた。
「これはどういうつもりだっ!?」
屋敷のほうから怒鳴り声が響いた。
一同がそっちを見ると、半ば崩壊した玄関から一人の男が出てきて、真っ赤な顔でこちらを睨んでいる。
上等な服を着て、手には細身のサーベルを握っている。
こいつが執政官か。
リホはその姿を初めて見たが、確かに一癖も二癖もありそうな顔をしている。
「貴様ら、この街の執政官である儂に対してこのようなことをしでかして、ただで済むと思っているのかっ!?」
執政官は怒鳴り続けている。
周囲には部下達が数人、周りを固めるように展開しているが、こちらの人数の多さに怖気てるのか、すぐに攻撃してくるような素振りはない。
「お前こそ、ノアちゃんを攫っておいて、それでも役人のすることか!」
「俺たちの鉱山を返せっ!」
「税金も不当に吊り上げやがって!」
「そうだそうだ、お前らのやってることに、俺らはもうたくさんなんだよっ!」
鉱夫や商店の者たちが口々に反撃する。
それを聞いて執政官はますます顔を赤くした。
「この街は私が治めているんだっ。私が治めている以上、何をどう決めようと私の勝手だ! 貴様らは黙って従っておればよいのだ!」
「それがあなたの理屈ですか」
リホが一歩詰め寄る。周りの護衛がさっと武器をリホへ向けて構えた。
「あなたは執政官で、この街を治めている。でもそれは、治める義務であって権利じゃない。あなたにこの街を好きにする権利なんてない!」
リホは『収納袋』から愛用の棒を取り出した。
「あなたに、街のみんなの暮らしを壊すことも、違法に奴隷を集めてこき使うことも、子どもを攫って脅迫することも……」
クルクルっと棒を回して構えを取った後、棒の先をビシッと突き付けてリホは言い放った。
「そんなこと、絶対に許しません!!」
「おお~~~」
“師匠”が工夫達と一緒になって手をはたいている。
「貴様が許さなかったら、どうだというのだ? 貴様のような庶民が儂に何かできると思っているのか?」
「できると思うけどな?」
“師匠”が縋り付いていたノアを他の者に預けて、前へ出てきた。新たな相手を前に、護衛達が一層緊張する。
「なんだとぉ~?」
「現に、こうしてお前の館は半壊しているじゃないか。お前の部下達もそこで役立たずになっているぞ?お前がこれまで行ってきた悪事の証拠もこちらは掴んでいる。これでもまだ、何もできないと思うか?」
“師匠”はリホの横に並んだ。
「それが何だというのだ? 不正の証拠だと? そんなものいくらでも握りつぶせるわ。貴様らを不法に執政官の館に侵入し、破壊行為を行った重罪犯として告発すれば、それで終わりだっ」




