六幕一場 「超絶美少女の超展開!?」
突如展開された転送門から現れた超絶美少女から、リホもフーカもモネもしばらく目が離せなかった。
整った小顔に大きく魅力的な目、そして漆黒の瞳。
同じく漆黒の、顎の辺りで切りそろえられている髪。
豪華な刺繍の施された上下と、素晴らしい細工の施されたマント。
腰には豪華な宝石をちりばめた細剣が吊り下げられている。
「魔導卿!」
「先生!」
ようやく我に返ったリホとフーカが投げ捨てられた魔導卿を認めて叫び声をあげると、その声に反応したかのように美少女から吹き上がる魔力がさらに上昇した。
吹き荒れる魔力に押されながら、リホは何とか美少女の正面に立とうとした。
背後にフーカとモネを匿って自分が盾になろうという考えだったが、あまりの威圧感に体がうまくいうことをきいてくれない。
背後では膨大な魔力に当てられたフーカがブルブルと震え、モネは立ち上がることもできずに蹲っていた。
必死に抗おうとするリホ達に、美少女はゆっくりと近づいてきた。
そしてあと一歩の距離でリホの目の前に立った。
美少女の右腕が上がっていき、リホの胸に人差し指が突き付けられた。
リホは身動きが取れなかった。
「………お前らか」
「な、なにを」
「お前らが、旦那様のところに出入りしている女どもかぁ~~~~~~~~~~~!!!」
さっきまでが嘘に思えるほどの信じられない魔力が辺りを吹き飛ばした。
リホ達も中庭から一瞬で跳ね飛ばされ、周囲の壁に激突した。
死ななかったのは魔導卿が施していた事故防止の術式のおかげだったに違いない。
それがなければ即死間違いなしというくらいの、凄まじい衝撃だった。
「が、がはっ、げはっ。な、なんなの、いったい」
「……マ、マスターを、呼ぶのです、リホ殿。それ以外に、貴方たちが、助かる、道は、ない、です……」
同じように吹き飛ばされていた魔導卿が息も絶え絶えに語り掛ける。
不死者の頂点たる不死王が息も絶え絶えになるとは、一体どんな状況なのか。
それに師匠を呼ぶしか助かる道がないって。
「魔導卿、誰なんですか、この人は!?」
「いいから、はやく、マスターを―――!」
ここに来てから、魔導卿のこんな姿を見たことなどリホにはなかった。
竜王でさえ軽くあしらうほどの、魔導の創始者である魔導卿が、まるでボロ布のようになっている。
それをこの目の前の美少女がやったというのか?
「し、ししょうを、師匠を呼ばなきゃ」
再び自分達のほうへ向かってきている美少女から目が離せないまま、リホは魔導卿に言われたように師匠を呼ぼうとしたのだが。
「ど、どうすれば師匠がくるの? なにしたらいいの? ねえ、師匠? どこにいるの?」
そうこうしている間にも美少女は近づいてくる。
信じられないくらい整った顔立ちに宿る目の光が狂気を帯びている。
どこにも逃げ場はなかった。
「し、ししょう~~~っ!!!」
リホの絶叫が「死の大地」にこだました。
「なんだ、そうぞうしい」
「師匠!!」
「旦那様っ!!!」
不意にリホの隣に師匠が現れたのだが、リホが二の句を継ぐ前に美少女がいきなり師匠に抱きついた。
「おっ、なんだ。こっちに来たのか? 国のほうは大丈夫なのか?」
師匠は飛びついてきた美少女に動じることもなく受け止めた。
「旦那様、私の旦那様!!」
「わたしのだんなさま!?」
リホの目が点になった。
ナナやエラなど師匠に好意を示す存在とはこれまでにも会ったことはあるが、“旦那様”呼ばわりする相手は初めてだった。
(旦那様って、えっ、どういうこと?)
リホの理解が追いつかない傍らで、話はどんどん進んでいく。
「わたし、ずっと心配で、ずっ~と不安で、いてもたってもいられなかった!」
「いったい何がそんなに心配なんだ?」
「………だって、だって!」
美少女はしがみついていた体をちょっと離すと、横にいるリホにビシッと指を突き付けた。
「旦那様がこの女を、囲ったって! あのクソ骸骨が!!」
「ふぁっ!?」
囲う? 誰が? 誰を?
「この女も、あの女も、あの女も!」
美少女はリホに次いでようやく立ち上がってきたフーカとモネも順に指さしていった。
「こんなに、こんなにたくさんの女を旦那様が囲っているなんて、わたし、わたし……どうしても信じられなくて、確かめに来たんですっ!」
「別に囲ってなんていないぞ? お前、また何か勘違いしてないか」
「じゃあ誰なんですか、この女は!?」
再度指を突き付けられ、リホは固まる。
とにかく整いすぎている美顔と、そこから発せられる威圧感が半端ない。
「こいつか? こいつはおれの所有物だ」
「…………………は?」
「ひょんなことで拾ってな。それでおれの所有物になったんだよ。だから別に囲っているわけ」
「ええええええええええええ~~~~~~~」
美少女の絶叫が「死の大地」にこだました。
「そういやお前達には初めてだったな。改めて紹介しよう。こいつがルズだ」
師匠に腕を抱えられ、壊れた操り人形のように半ばぶら下がる恰好で、死んだ魚のような目をしたままブツブツと何かを呟いている美少女。
「ルズって……」
リホはその名前にどこかで聞き覚えがあった。
「ヴェラツェレンの王姫だ」
「ヴェラツェレンの!?」
「王姫!?」
「吸血鬼!?」
リホ、フーカ、モネの声が重なった。
目の前で力なく師匠にぶら下げられている美少女が、ヴェラツェレンの王姫だとは。
先ほどまでの圧倒的な威圧感といい、今の抜け殻のような姿といい、一体何者なんだろう。
「師匠、どうしてそんな人がここに?」
「さあて、こいつに訊かなきゃ詳しいところはわからんだろうが、まあこいつの勘違いだろうな。よくやるんだよ」
「なにを、ですか?」
「こいつ、早とちりが酷くてな。会ったときは大抵何かしらやらかしてるんだよ。この前もこいつの早とちりで、危うく城を全壊させるところでなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってください! じゃあ、そのルズさん? がここにきたのも、早とちりだっていうんですか?」
「おそらくはな」
「魔導卿をあんなにしたのも?」
リホの視線の先には、フーカに懸命に看護されている魔導卿の姿があった。
「その可能性は否めないな」
「やっっっっっっば」
早とちりで魔導卿を完膚なきまでに叩きのめす存在って、何なの!?
「普段はもっと大人しいらしいんだがな。どうもおれと会う時はいつも舞い上がってるんだよ」
(それぜったいあなたのせいだと思います!)
「しばらくしたら復活するだろうから、そしたらゆっくり今回のいきさつを訊いてみるさ」
そう言って師匠はルズを椅子に座らせた。
背もたれに体を預ける格好で、ルズはまだブツブツと何事か呟いている。
「あの、お師匠様? そのルズさんが言っていた“旦那様”というのは……?」
モネがおずおずと訊いてきた。
モネははじめ魔導卿の回復を手伝おうとしたのだが、魔導卿から
『あなたの祈りは私には回復になりません。むしろ悪化してしまいますから、止めてください』
と言われてしまい、リホと共にいたのだ。
そしてモネはルズの“旦那様”呼びがどうしても気になっていた。
「そうですよ、師匠。“旦那様”って何なんですか?」
すると突然、それまで生きる屍状態だったルズが生気を取り戻し、師匠の腕にひしっとしがみついた。
「旦那様は、旦那様です! わたしは旦那様の正妻です!」
「「ええええええええええええ~~~~~~~」」
今度はリホとモネの声がこだまする番だった。




