特別公演2 「もう修学旅行じゃね?」
「あ~、今日も疲れたぁ~」
湯舟の縁にもたれかかって、リホはすっかり寛いでいた。
おなじみ「死の大地」名物の温泉風呂。
至れり尽くせりの設備はどれも魔導卿謹製のものだが、その元アイディアはやはり師匠らしい。
何で師匠がこんな夢見心地の風呂を知っているのか、そこは謎のままだが、それはそれとしてリホ達はすっかりここの風呂に心を奪われていた。
「あっ、リホさん、先に入ってたんですね。私もお邪魔していいですか?」
「ど~ぞど~ぞ。フーカちゃんも一区切りついたの?」
「はい。ようやくある程度の結果が出せたので、ちょっと気分転換しようと思って」
体の前面をタオルで隠すようにしたフーカがしずしずと湯面に足を入れてくる。
フーカは熱いのが苦手なので、いつも入るときはゆっくりなのだ。
「結構進んだんだ、固有術式の構築。それじゃあますます使える魔術が増えていくね」
「それがそうでもないんですよ~。先生の言うには、ここからは扱う術式自体が複雑になってくるので、私の魔力を抑制する術式も都度細部に手を入れつつになるらしくて、結構時間がかかりそうです」
「そうなんだ~、それは大変そうだね。でもフーカちゃん、あんまり大変そうって顔してないよ?」
「そうですか? それはやっぱり魔術を使えるようになることが嬉しいからですかね」
その言葉を聞いてリホは、ガリル山脈を目指す途中盗賊達を撃退した際に、心ならずも相手の命を奪ってしまったことに苦悩していたフーカが、もう一度自分の魔術に向き合うことに対して前向きになってくれたことを感じて嬉しかった。
「リホさんだって毎日大変ですよね? ここのところずっとおんなじ姿勢のままじっとしているじゃないですか」
「そうなのよ! もう、聞いてよ。師匠ったら今さら『やっぱり基礎は大事だよな』とか言って、一番初めの型ばっかりやらせるのよ? もう脚パンパンになっちゃって、これ以上脚が太くなったらどうしてくれるの? って感じなんだけど」
「リホさん、ちっとも脚太くないじゃないですか。相変わらずスタイル良くて、羨ましいかぎりです……」
体型の話になると途端にフーカの落ち込みが激しくなる。
リホがすぐに別の話題に逸らそうとした、その時。
「あら、お二人ご一緒ですか? では私もお供させていただきますね」
モネが浴場へ入ってきた。
モネと一緒に風呂に入るのはこれが初めてだった。
「モネさん………」
フーカの目がモネに釘付けになる。
「モネちゃん、意外とすごいのね……」
「? なにがでしょう?」
タオルを持ってはいるが体を隠すこともなく、ゆっくり湯舟に向かって歩いてくるモネの胸には、大層ご立派なものが二つ揺れている。
モネはフーカよりも若干背が低く、普段はゆったりとしたシルエットの神官服を着ているため全然分からなかったが、小柄ながらも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
要するに非常にメリハリの利いた体だったのだ。
「そ、そんな………、モネさんまで」
フーカがガックリと項垂れている。
実はモネもこちら(自分)側の人間じゃないかと期待していた分、裏切られた感が倍増してしまった。
「いやですわ、あんまり見つめないでください」
リホとフーカから凝視されて少し照れながら体をよじる姿が、またなんとも悩ましい。
「ま、まあ、フーカちゃん。女は胸だけじゃないから……」
「胸だけじゃないって、じゃあ胸も含まれるってことじゃないですか!」
「まあまあ、ほら、あくまでも一部、一部分ってことだから」
「あ~、どうしてここにくる女性は皆胸が大きいのですか? リホさんといいナナさんといいモネさんといい! 何かそういう術式でも展開されているんですか? それじゃあどうして私だけが除外されなきゃいけないんですか!」
「別にそういう訳じゃないと思うよ? それにほら、前にお世話になったハイエルフの姉妹とかは、普通の胸してたし」
こんな知らないところでいきなり引き合いに出されたカヤとサヤもいい迷惑だ。
「私意識したことなかったのですけど、そんなに重要なのですか? 胸の大きさって」
「それは持ってる人の感覚~。持たざる者にとっては重要なんですよ!」
「そういうものなんですね。私初めて知りました」
「むうううう、何だか馬鹿にされている気がする~」
「まあまあフーカちゃん、それくらいにしておいて。モネちゃんは私から見ても、なんかこう、身長とのバランスというか、小さいのに大きいっていうか、ちょっとすごいなって思うし、この若さでこれはもう天性のものだと思うよ」
「いやですわ、リホさん。私そんなに若くはないんですよ」
「「えっ?」」
「お二人だから教えますけど、今年で24歳になるんです。いつも幼く見られて侮られることが多いので、私にとっては結構重要な問題なんですけどね」
「「ええ~~~~~!?」」
てっきりモネは10代だと思いこんでいたリホとフーカには衝撃的な告白だったが、二人の受け取り方は微妙に異なっていた。
「モネちゃん、24歳なのにこんなに若く見えるんだ……」
「モネさん、私より歳上だったんだ……」
「ど、どうしたんですか、二人とも。ちょっと、何かしゃべってくださいよ?」
そうやって年頃の女三人のお風呂タイムは過ぎていくのだった。




