五幕七場 「これだから研究バカは…」
「い、いまのは一体………?」
フーカとモネは目の前で起きたことが何なのか理解できず、ポカンとしている。
(困ったなぁ~、何て説明しよう……とは言っても、わたしも何が起きたのか正確には説明できないんだけど)
リホが二人にどうやって師匠のトンデモ能力を説明しようか考えていると師匠が近寄ってきた。
「お前さんがソラクの街で拝んでた木像はどこにある?」
師匠の問いにモネは首を振った。
「私は知りません。きっと同行した二人が持ち込んだと思うのですが、聞いてみないことには」
「じゃあそれを探しに行こう」
師匠に促されたモネはそこで、祭壇の上に倒れ重なっている神官達を再度見た。
皆苦しそうな表情を浮かべて息絶えている。
モネは正視できなくなって思わず顔を背けた。
「お前さんが悪い訳じゃない。気にするな」
「ですが!―――」
「お前さんがこの場にいてもいなくても、あの男は召喚儀式を行っただろうし、その結果呼び出されたのが妖魔なのも変わらん。場合によってはお前さんもそこの連中と一緒に死んでいたかもしれんぞ?」
「えっ? モネちゃんがですか?」
リホが驚いた。
「そいつら、ただの信者じゃないんだろう? 服からすると神官職かそれ以上か。歳も皆若そうだ。それならお前さんも候補に入っていてもおかしくない。一体お前さんは何と言われてここに戻ってきたんだ?」
「私は儀式の手伝いがあるから、神官職は一度皆本山へ戻るようにと………、あぁ、こ、これがその儀式の手伝いだったと!?」
「その可能性は高いな、というかほぼそうだろう。初めからお前さんも含めて儀式の贄にするために召集するつもりだったのが、お前さんの力を知ったことで、急遽役目が変わったんだろうな」
「私の力………?」
「モネさんには、祈った対象を『ご神体』へ変えてしまう特殊な力があるんです。ソラクの木像もそうして『ご神体』化した像なんです」
フーカが代わりに説明してくれた。
「『ご神体』、ですか……?」
「大方お前さんを連れに来た二人がお前さんを探している途中でそれに気付いたんだろう。その報告を聞いたあの男が、儀式にお前さんの力を上乗せしようと企んだ結果が、これさ」
師匠は壇上を示すように手を拡げた。
「お前さんの祈りの力ではスターナは降臨せず、結局あの男は自分の命を捧げることでそれを果たした。結果やって来たのは妖魔だったがな。だからお前さんが気に病むことは何もないんだよ。むしろお前さんも立派な被害者の一人だ」
師匠の言葉を聞いてモネは改めて壇上の光景を見つめた。
倒れ伏している仲間の神官達や異世界人。
そして干からびて枯れ木のようになって事切れている司祭長。
今夜ここで起こったこと全てが、自分には関係のないところで行われたというのか。
「とにかく、木像を探しに行くぞ。いつまでもここにいても仕方がない。吹っ切るのは後にしろ」
師匠にそう言われて、モネも三人に続いて拝殿を後にした。
去り際に再度壇上を振り返った。
そこには崇拝していたスターナの像も、敬愛する司祭長の姿も見えなかった。
モネはギュッと目を閉じると、前を向いて小走りで三人を追っていった。
本殿内を捜索し始めた一行はすぐに本殿内の異変に気付いた。
本殿の中にいた神官職達は皆息絶えていたのだ。
どれも外傷はなく表情も普通だったが、全員眠るように死んでいた。
「師匠、これは………?」
さすがのリホもこの事態に動揺していた。
モネはショックで震えており、その手をフーカがずっと握りしめている。
「何だかは分からんが……、妖魔の仕業かもしれんな」
「妖魔の?」
「詳しいことは帰ってから魔導卿にでも訊いてみろ。それか竜王にでも」
「竜王さんにですか? どうして」
「あれは対妖魔撃退の駒だよ。門番がそう造ったんだ。だから妖魔のことには詳しいはずだ」
「竜王さんが、そんなことを……。ただフラフラ喧嘩売りに来るだけのひとじゃなかったんですね」
初対面の時の印象が強かったせいか、リホの中では今でも「竜王=喧嘩売るひと」の図式で出来上がっている。
「ここは?」
ひときわ重厚な造りをした扉の前に出て、師匠はモネに尋ねた。
「司祭長様の私室です」
モネが俯きながら答える。
師匠が遠慮なく扉を開くと、中には随分立派な内装が施されていた。
まるで貴族の屋敷のようだ。
「ずいぶんとまあ、俗な生活をしているな」
モネは初めて見る司祭長の私室の絢爛さに驚いてしまった。
とても普段見せていた厳かで慎ましい雰囲気と同じ人物の部屋とは思えなかった。
「あれか」
部屋の隅の小物入れと思われる豪華な小机の上に、ソラクの木像が無造作に置かれていた。
「これでひとまずは安心ですね」
リホが自分の『収納袋』に木像をしまい込む。
それもまたモネの目を驚かせていた。
「じゃあ、戻るか」
「戻るとは、どこへ………?」
師匠の言葉にモネは初めリジェの村を思い浮かべた。
戻る場所と言われればそこくらいしかないが、元々自分はこの教団が居場所であったのだ。
ここから戻ると言われてもピンとこない。
「………魔導卿、聞こえるか?」
師匠が先日見せた不思議な装置に話しかけている。
すぐに装置が光り出し、これも先日見た骸骨姿の小さな人影が浮かび上がった。
「骸骨が、しゃべっている……?」
前回は気付かなかったことに改めて驚くモネ。
「はい、マスター。無事に回収はお済みですか?」
「まあな、いろいろあったが」
「それはようございました。お戻りになりましたら是非そのお話をお聞かせくださいませ」
「それでこちらの転送は可能か?」
「はい。今通信機の位置を特定できましたので可能ですが……、一人増えているようですね?」
「例の神官を保護したから連れていく」
「ああ、それは助かります。私もまだ色々調べたいことがございましたので」
嬉しそうな雰囲気を漂わせた魔導卿の様子に、リホは危機感を覚える。
「モネちゃん、いい? あの骸骨はね、きっとモネちゃんにいろいろなことをしようとするけど、全部断っていいんだからね。何でも受け入れていいなりになっちゃダメよ?」
「? リホさん、それはどういう意味でしょうか?」
「モネさん。決して悪いようにはしませんから、是非とも私達の研究にご協力ください!」
「ちょ、フーカちゃんまで!」
「おい、早くやってくれ」
三人が姦しく話しだしたのを尻目に、師匠が魔導卿へ指示を出した。
次の瞬間、本殿の回廊に大きな転送門が浮かびあがった。
師匠は一人足早に門を潜り、その後をリホ達三人が続いたのだった。




