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五幕六場 「なんかヤバそうな召喚術…」





 闇夜の中目を凝らし進むこと、しばらく。

 日中時間がなくて入り込めなかった本殿と思わしき建物へ近づいた。


 建物の外観は白く大きな柱が何本も並んでいる、古代遺跡によく見る神殿のような姿だった。

 警備の者は立っているが、姿を消した三人はそのまま難なく中に入り込んだ。


 内部は全て石造りでところどころに松明が灯されている。

 山の斜面に沿って造られているため、少し奥へ進むと階段が頻繁に現れた。


「(モネちゃんはどこにいるんでしょうか?)」

「(神を降ろす儀式だ。一番大きな拝殿かどこかで行っているだろうな)」


 師匠を真ん中にして、リホとフーカが両脇を挟む形でどんどん奥へ進んでいく。

 幸い神殿は造りが単純のようで、左右に少し部屋はあるようなものの、入口から最奥へ一直線に回廊が抜けている構造だった。


「(ちょ、ちょっと、待って、ください、はぁ、はぁ……、さすがに、キツイです……)」


 先ほどからちょくちょく連続して出てくる階段をひた走りに来たことで、フーカの息が上がっていた。

 あまり大きく息をすると近くのものにばれるため、息を殺し気味に走ってきていたのも地味に効いているようだ。


「(休んでいる暇はないぞ? 儀式は進行中だろうからな)」

「(魔導卿の言っていた次元振って、やっぱりここのことですかね?)」

「(間違いないだろう。ダッシュルム山の他の場所にそんなことを行う奴らがいるとは思えん)」

「(!? リホさん、マスター様、この奥から魔力を感じます。かなりの強さです!)」


 呼吸を整えていたフーカが回廊の奥を見据えて何かを感じ取っていた。


「(すみません、走るのに夢中でここまで気が付きませんでした)」

「(よし、行くぞ)」


 師匠に引っ張られるような形でリホとフーカも後に続いた。

 やがて回廊の終わりが見えてきた。

 そこには大きな扉があり、左右に護衛の神官が槍を構えて立っている。


「(リホ、やれ)」


 師匠の合図と共にリホは師匠の手を放すと、まず左側の護衛に一撃を叩き込んだ。

 そして結果を確かめるもなく右へ跳躍しもう一人の護衛にも掌底を叩きこむ。

 二人の護衛は声もなくその場に沈み込んだ。


「開けるぞ」


 師匠が扉に手を当てると、巨大な扉は音もなくゆっくりと開いていった。

 体を横にして入れるくらいの隙間を開けて、リホ、フーカ、師匠の順に中へ忍び込む。


 緩やかな階段状の構造の一番下、中央に天幕が張られており、天幕の前には仰々しい恰好をした男が何やら祈りを唱えている。

 その左右にも祭壇が設けられていて、左の祭壇には奇妙な格好をした男女が三人、倒れ伏している。

 そして右側の祭壇には―――。


「モネちゃん! 今助けるからね!!」


 そう叫ぶや否や、リホは階段状の祈祷席を数段抜かしで駆け下りていった。

 リホの目に映ったのは、折り重なるように倒れ込んでピクリともしない多数の神官達。

 その中にモネが巻き込まれているとリホは思ったようだった。


 祭壇の傍には明らかに司祭と思しき高価そうな神官服を纏った者達がいたが、接近するリホを止める気配もなく、皆一心に祈りを捧げている。

 そしてリホが天幕の許へ辿り着く寸前、その前に立って祈っていた男が両手を高く掲げると、手にした鎚鉾からまばゆい光があふれ出し、天幕を吹き飛ばした。


「モネちゃん!」


 モネの姿を見つけたリホは祈りを捧げる格好のまま固まっているモネに素早く駆け寄った。


「モネちゃん、モネちゃん! もう祈らなくていいんだよ! モネちゃんの祈りはそんなのに捧げなくていいの!」

「そんなのとは随分な言い様だな」


 天幕の前にいた男がゆっくりと近づいてきた。


「我らが至高の神であるスターナ様がご降臨されたのだ。どこの誰だか知らぬが貴様などが目にすることもおこがましい。這いつくばって我らが神を迎えよ!」

「冗談じゃないわよ! どこにそのスターナとやらが降臨したのよ? どこにもいないじゃない」

「下賤なる者にはその御姿が見えぬものらしい。その曇り切った眼を開いてよく見よ! 我らが神はすぐそこに……」


 そう言って司祭長が振り仰いだ先には、スターナと思しき神像が立っている。

 四本の腕を持ち何か舞踏をしているような足取りをした像が、台座の上に鎮座している。


「その像がどうかしたのよ? ただの像じゃない。それが神だってんなら、スターナとやらもとんだインチキ神様ね」

「むう、な、何故だ、何故我が神はご降臨されぬのだ?」


 司祭長は焦りを隠すこともなく神像に近付いていく。

 その途中でモネの姿を見つけ、キッと睨みつけた。


「モネ、よもや祈りの手を抜いたのではあるまいな?」

「い、いえ、そんなことは……」

「では何故スターナ様が降臨されんのだ! 貴様の祈りの力があれば、スターナ様が真のご神体として我らの前に顕現くださるはずなのだ!」

「どうやら失敗に終わったようだな」


 師匠とフーカがようやく祭壇までやってきた。

 フーカもモネのところへ歩み寄り、リホと二人で抱きしめている。


「さっきの次元振はこいつらの召喚のためか。……お前、スターナの降臨に異世界人を生贄にしたのか」


 師匠の口からさらっととんでもない発言が飛び出した。


 神を降ろす儀式は他の宗派にも存在するが、そこで求められる贄はほとんどが牛や羊などの動物や供物で、人を捧げることはほとんどない。

 ましてや異世界人を召喚してその身を贄に使うなど聞いたことがなかった。


「スターナというのはそれほどしないと降臨できないのか? いや、それほどまでして降臨させたい存在なのか?」

「スターナ様はこの世に存在を持っておられぬ。だからこの世界のものではない魂によってまずスターナ様の御魂を現世のものとする必要があるのだ!」

「そしてそのために神官達を犠牲にして異世界召喚を行ったのか」


 師匠が右の祭壇をちらりと見た。

 その言葉にモネも思わず振り返った。

 そこには苦悶の表情を浮かべたたくさんの神官達が折り重なって息絶えている。


「そ、そんな………皆さん、どうして………?」

「スターナ様降臨のために必要な犠牲なのだ。皆快くその身を差し出してくれたのだ」

「その割には随分と苦しそうな顔をしているがな?」

「モネちゃんが巻き込まれていなかったのは良かったけど……、こんなの、間違ってますよ!」


 リホが勢い良く立ち上がって司祭長と対峙する。


「宗教って、人を幸せにするものでしょう? それが人を殺すような真似をするなんて、根本が狂ってるんです!」

「その者達は皆神のためにその身を捧げたのだ。それこそが究極の幸せではないか」

「死んで幸せになることなんてないんです! 死んだらそれまでじゃないですか! それに、そんなにいうんなら、あなたが神に召されれば良かったでしょう!」

「なんだと?」

「自分ばっかり何もしないで安全なところから人を死に追いやって。神に身を捧げるのが究極の幸せだっていうなら、自分が真っ先にそれをすればいいんですよ」

「私にはスターナ様降臨の儀式を執り行う大事な使命がある!」

「結局降臨させられてないじゃないですか! あなたのやっていることは、ただの人殺しです!」


 リホの剣幕に誰よりも押されていたのはモネだった。


『あなたのやっていることは、ただの人殺しです!』


 この言葉がモネの胸を激しく打ったのだ。

 知らずとはいえ、自分が祈りを捧げているその横で、自分の同胞達がその身を犠牲にしていた。

 しかもその犠牲は結局徒労に終わってしまったのだ。


「………ふざけるんじゃない! 儀式は失敗などしておらん! 必ずスターナ様は降臨されて、この腐った世界を粛清されるのだ!」


 そう叫ぶと司祭長は胸に下げた大きなペンダントを握りしめ、何かの言葉をつぶやき始めた。


「…………おお、我が神スターナよ。今ここにその姿を現し給へ。我が命を糧として、その大いなる御業を現し給へ!」


 司祭長がペンダントを引きちぎりスターナの像に投げつけると、ペンダントの宝石から緑色の光が迸り、スターナ像を包み込んだ。

 光はますます強くなり、それと引き換えに司祭長の体はみるみる干からびていき、その場に崩れ落ちた。


「あぁ、司祭長様………」


 モネの悲痛な叫びが響く。


 緑色の光が収束していくにつれ、スターナ像もそれに併せて縮んでいった。

 そうして人の背丈ほどまでになった像から光が消え失せた時。


 スターナ像からひどく耳障りのする声が聞こえてきた。


『ヨウヤクコノセカイニハイレタ』






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