五幕六場 「ご飯を食べ終わったばかりでしょうが!」
施設はゆるやかな山の斜面に沿って上へと続いていた。
ひとまずモネを探すためにまずは横に移動しながら建物の中を窺う三人。
柵に近いところでは先ほど祈りを捧げていた部屋の他に、おそらく施設内の人間に提供する食事を作っているのであろう、大きな厨房などもあった。
さらには教団員の宿舎のような建物もたくさん並んでいる。
「(ずいぶん大きな施設なんですかねぇ。一体何人信者がいるんでしょう)」
「(どれくらいだろうな、この規模だと。信者と神官もいるだろうからな)」
山肌を縫うように施設の敷地内を見て回ると、やがて建物の種類が変わってきた。
先ほどまでは取ってつけたような急造丸わかりの建物が多かったのだが、こちらは多少の意匠を凝らした手の込んだ建物が建っている。
建物の周囲にいる者達も、下で戦闘訓練を行っていた者達とは違う、神官服を着ていた。
「(ここは神官のいるところなんでしょうか。みんなモネちゃんと同じ格好をしていますね)」
「(ここの連中の様子をちょっと窺ってみるか)」
三人は建物の角で立ち話をしている神官二人にそ~っと近寄っていった。
「それで儀式はいつになりそうなのですか?」
「そろそろ必要な数が集まったらしいから、遅くともあと2、3日中には始まるだろう」
「いよいよですね。我らの悲願が成就するときが来るなんて、夢のようです」
「そうですね、これで全ては救われるわけです」
「あとはスターナ様がどこまで我らに恩恵を授けていただけるかですが、十分な贄を用意できたようですし、それに聞きましたか?」
「なんでしょう?」
「なんでも本殿のスターナ様のご神体に祈りを捧げる聖女が見つかったとか。その者の力を使えば、スターナ様のご降臨はますます確実なものになると、司祭長様がお喜びになってらっしゃったのですよ」
「それは素晴らしい! そのような力を持つ者が我らの許に現れるとは。これもすべてスターナ様のお導きによるものでしょう」
神官達はその場でスターナに祈りを捧げ始めた。
リホ達はそっとそこを離れ、大きな岩の陰に入ってから相談を始めた。
「(さっきの話、聖女っていってたけど、まさか……)」
「(モネさんのことのような気がします。だって『ご神体』を創り出す人ですから)」
「(儀式とかいってましたよね、師匠?)」
「(ああ、話の内容からすると、スターナとやらを降臨させる気らしいな)」
「(そんな、実体のない神様をどうやって……?)」
「(それを可能にするのがモネの力なのかもしれんな。そうなるとソラクの『ご神体』もモネと一緒にされている可能性もあるな)」
「(じゃあモネちゃんを探しましょう!)」
三人はモネの居場所を探すべく、辺りに点在する建物をしらみつぶしに当たってみたが、どこにもモネの姿を見つけることはできなかった。
そのうちに日が暮れ始め、リホ達は施設内の人気のない場所に入り込んで、結界を展開して休むことにしたのだった。
その夜。
「マスター、いらっしゃいますか?」
突然魔導通信機から魔導卿が呼びかけた。
「どうした、魔導卿。何かあったか?」
「はい。私のところの観測器で次元振を感知しました」
「次元振だと?」
「場所を詳しくは特定できませんが、もしかするとマスターのいらっしゃる場所に近い可能性があります」
「次元振って、なんですか?」
リホの問いかけに、フーカも隣で魔導卿を見つめている。
「次元振というのは、分かりやすく言えば何者かが異世界からの召喚を行った、ということです」
「異世界からの召喚!?」
「はい。この世界を越える召喚には必ず次元振を伴います。それを私の観測器が先ほど検知したのです」
「異世界からの召喚って、異世界勇者ってことですか?」
リホの驚きは当然で、異世界から召喚される勇者はこの世界で認定される勇者とはけた違いの能力を持っているとされている。
歴史上召喚された例は数少ないが、いずれも召喚された者達は多大な影響を世界に与えていた。
いい意味でも、悪い意味でも。
「勇者かどうかは分かりません。ただ次元振を感知したというだけで、どのような召喚が行われたのかは不明です」
「先生、次元振を伴う召喚で勇者以外が召喚されることって、あるんですか?」
「ないとは言えないでしょう。異世界召喚はどのようなものを召喚するのか、召喚をかける者達に委ねられますから。それによって行う儀式も異なるはずです」
「場所は特定できないのか?」
「残念ながら、大まかな位置しか分かりません。ですが、マスター達の今いる座標が含まれる領域内になります」
「どのくらいの広さだ」
「マスターがいらっしゃるのはダッシュルム山だと思いますが、山の全域ほどまでは絞られるかと」
三人はそこで顔を見合わせた。
「魔導卿、有益な情報をありがとう。今まさに山で妙な儀式が行われようとしているところだ」
「妙な儀式とは?」
「スターナという神を降臨させるらしい。それにモネの力を利用するらしいということまでは分かったんだが」
「スターナを降臨……、それであれば先ほどの次元振は直接関与しないのかもしれません」
「先生、それはどうしてですか? スターナを降臨させたために次元振が起きたのでは?」
「いいえ。どこの神かは知りませんが、この世界に神を降臨させるのであれば、この世界内に顕現しますから、次元振が起こることはまずないはずです。少なくとも先ほどの次元振が発生した時に、そのスターナが降臨したという可能性は低いかと。ただ………」
「それ以外に間接的に関わっている可能性までは否定できない、ということだな」
「おっしゃる通りです」
「何にしても早めに動いた方がよさそうだ。お前達、行くぞ」
「えっ、今からですか?」
晩御飯も食べてすっかりくつろぐ気持ちになっていたリホは、今から行動すると聞いて面食らった。
だがどうもそう言っていられないくらい、事態はいろいろ動いているようだ。
「行きましょう、リホさん。モネさんを見つけないと」
「そうだね、そうしないと」
リホとフーカはすぐに着替えて師匠の後に従った。
一軒家を『収納袋』にしまい結界を解くと、辺りは真っ暗闇だった。
今夜は月も出ていない。
三人は闇夜の中を手を取り合い、昼間入れなかった施設の最上段の層を目指していった。




