五幕五場 「手掛かりは見つけたけれど…」
リホ達三人はカントの街に入った。
前回の訪問からそれほど時間が経っていなかったこともあり、白金級の冒険者のことは入口の守衛の記憶にも新しかった。
そのため入構審査もすんなりと街に入れたのはありがたかった。
「それで師匠、ここからどうしますか?」
「連中の行く先が判れば儲けもんなんだが。とりあえず人の集まるところで聞き込みだな」
「酒場、ですか?」
旅人の集まるところといえば酒場が定番だが神官職の者達が酒場に出入りするのか、フーカはちょっと考え込んだ。
だが思い返してみれば、一緒に食事を摂った時にモネはワインを遠慮なく空けていた気がする。
そういう教義なのならば、酒場に寄っていてもおかしくはない。
「この街で一番大きい酒場から訊いて回りますか」
「3日間あるしな。訊けるだけは訊いておこう」
カントの街には一度入れば3日間は外へ出られないという決まりがあるため、リホ達もあと3日はここで足止めだ。
その間に聞き込みを進めて、運が良ければスターナ教の拠点がどこなのか分かるかもしれない。
もっと運が良ければここでモネちゃんに出会えるかも―――
「それはないだろうな」
「な、なんでですか? もしかしたらギリギリで足止め中かもしれないじゃないですか」
「だからだよ。戻る場所が決まっているのにわざわざカントの街を経由する必要はなかろう。モネ達はリジェから直接拠点へ戻っているだろうよ」
「むう、それじゃあわたし達だけ待ちぼうけじゃないですか」
「仕方あるまい。相手の行く先が分からないんじゃ探しようもないだろう。今はそれが判明することを祈ってるんだな」
そんなことは分かっているけど……、とリホはやや不満顔だった。
夜。
昼間に訊いた中で一番大きいと言われた『山の泉』という酒場に向かった。
言われるだけはあって、広いホールには沢山のテーブルがところ狭しと並べられて、大勢の客が思い思いに食事や酒を楽しんでいた。
リホ達は片っ端からスターナ教の神官について訊いて回ったが、有力な情報はまるで得られなかった。
「誰も知らないですね。見たこともないって、ほんとにこの街に来たんでしょうか?」
ここまで10以上のテーブルに声を掛けたが、どこへ行っても「そんな連中はみたことない」と返されるばかりだった。
「でもあのおじいさんはここから来たと……」
「そうは言ってもフーカちゃん、あのおじいさんが言ってただけだから、勘違いとかもあるかもしれないし」
「そうであってもあと3日はここで聞き込みするしかないぞ」
聞き込みをいったん中断して自分達のテーブルでエールを飲みながら作戦会議をする三人。
結局この日は残りの時間で他のテーブルを回ってみるも、目ぼしい情報は得られなかった。
翌日も昼間から開いている酒場も含めて数軒あたってみたが、どこでも芳しい成果は挙げられなかった。
本当にこの街に寄っていないのか、それとも入りはしたが宿からほとんど出歩かずにいたのか。
こうまで目撃情報が少ないといろいろなことを考えてしまう。
「師匠、今日も聞き込みですか?」
リホが訊いてくるが、リホだって今はそれしかすることがないのは分かっている。
「そうだな。今日はちょっと訊き方も変えてみよう」
そう言って目指す店に入っていった。
「スターナ教? 聞いたこたぁねえな。どんな宗派なんだい?」
カウンターで店主とペチャクチャ話し込んでいた髭面の男を捕まえて尋ねてみたが、やはり答えはこれまでと大差なかった。
「唯一神という話なんだが、そんな神を崇めている連中の話を聞いたことはないか?」
「唯一神? そんなものがいるのかい? それじゃあヴァーリ様も商売上がったりだな、ガハハハハ!」
エールを呷りながら豪快に笑う男。
もうすでにかなり出来上がっているようだ。
「………ん、待てよ? そういやぁなんか妙な連中がいるって話を聞いたことがあるなぁ」
「それはどこですか!?」
リホが食い気味に問い返す。
「え~っとなぁ……、たしか、ずっと南のダッシュルム山のほうじゃなかったっけな。山の中に妙な連中が住み着いたって話だったような……」
「ダッシュルム山か」
「あそこは今どこの領地でもないからな、そういうのが村とか作っても不思議じゃねえが、だけどよ、なんだってあんな辺鄙なところにわざわざ住もうってんだ?」
ダッシュルム山はガリル山脈を南に抜けた先にそびえる火山で、比較的標高の低いガリル山脈に比べ単独峰だがかなりの高さを誇る山だ。
山中どの辺りにもよるが、たしかに住みよい環境ではない。
ここカントやリジェのように山の中だが人の暮らしが立てやすい場所とは異なっていた。
「いい話を聞かせてもらった。ここはおれが奢らせてもらうよ」
師匠は金貨を店主の方へ滑らすと、そのまま店を出ていってしまった。
リホとフーカも慌てて後を追う。
後ろでは想定外の収入を得た男と店主が喜びの声を上げていた。
「ダッシュルム山に行くんですか、師匠?」
「ここで得られた最有力の情報がそれだからな。それに、たしかに怪しいっちゃ怪しい」
「何故でしょうか?」
フーカが小首をかしげる。
「さっきの男も言ってたようにダッシュルムは今どの国の所領でもないはずだ。そこへ集団で入植が始まれば必ずどこかの国がそれに対してちょっかいをかけるはずだ。でもそういう話じゃなかったろう? 宗派の集団移住ならばどの国も手は出せない。たとえそれが正体不明の教団であってもな」
この世界に広まっている宗教には、国家間の枠を越えて様々な取り決めがなされている。
宗派を問わず信仰が可能なこと。
宗派を問わず布教が可能なこと。
そして全ての宗派の頂点は神に通じるとされ、みだりに公権力が手を出すことは禁忌とされていた。
「それでも表立って国家の癇に障るような行いは宗派側も慎んでいるんだ。自分達の生活や命が惜しいからな。そこはうまく折り合いをつけて暮らしているはずなんだが……」
「そんなに大々的にだれの所領でもない土地に移住しているのはおかしい、ってことですね?」
フーカの理解は適切だった。
「宗派同士もお互い監視し合っているからな。その連中はそういうのも気にしない連中と言える」
「じゃあやっぱりスターナ教ですかね」
「それを確かめにいく必要はありそうだ。どのみち木像も取り返したいしな」
翌日、滞在期間が明けると同時に、リホ達はカントからの南街道をダッシュルム山目指して進んでいった。




